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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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287話 削ぎ落す欠片

287話目投稿します。


肩を並べた休息は、のんびりできる状況でもなく。

『あれ、どうなってるの?』

互いに大きく脱力し、戦闘の最中崩れた建物の瓦礫を背もたれに眺める視線の先。

辺りはまだ暗く、日の出はまだ先だろう。

その暗闇の中でも私たちが相対した対象の姿は見て取れる。

「あれは隔離してんだ。」

カイルの一閃によって二分された塊は、戦闘中に目にした灰化と同様に消滅するかと予想した私の考えには至らず、今も尚、その場に留まっている。

『隔離?』

その輪郭は薄紫色の膜に覆われているようで、それ自体は恐らくカイルの技による物だ。

膜の発光から暗闇の中でもその位置が良く分かる。

「俺もあんなのの相手は初めてだからな。」

その存在の調査を行うために、カイルの意思で留めているらしい。

『アンタ…そんな事できたの?』

「んー…俺も不思議な感じなんだけどな。」

私が知る限りでも、以前のカイルにはそんな技、技術はなかったはずだが、恐らくはシロの行動によって石化からの治癒となった過程で、何かがあったのだろうという推測に至った。

残念ながら明らかなカイルの成長の原因、それを確かめる術は無い。


第四部隊を主とする襲撃から始まり、空を赤く染めた謎の事象、そこから生まれたであろう黒い塊の災来。

部隊の襲撃に対しては町の、建物の崩壊とまでは行かなかったし、謎の事象が発生した瞬間も破壊までは至らなかったが、その後出現した目の前の物体。

その戦闘は建物に対しては甚大な被害を被った。

遺跡群の少し手前での戦闘となったわけだが、戦いが終わった今、原型を留めている建造物はほぼ無い。

残った瓦礫に残る戦いの爪痕、単純にソレを見れば恐ろしく鋭利な刃物で切断されたようにも見えるが、実際は違う。

あの黒い塊が触れた物質、言葉通りその軌道上の物質を消滅させてしまった。

手近に転がる石材を手に取り、その断面を確認してみる。

綺麗な断面と、ガタガタに削られた部分

『確かに調べてみる必要はありそうね。』


建物や瓦礫といったモノは実際に目にしていた事からも解るように、薙ぎ払われて飛び散ったというわけではなく、まさに音もなく視界から消えていた。

しかし、同じ攻撃でも私の体に触れた時には、明確な痛みがあったものの、建物同様に消えたわけではない。

もし建造物と同様に消滅するような攻撃だったとしたら、すでに私の四肢は存在しないだろう。

考えただけでも少し肩が震える。




「俺が感じた手応えは、コイツの核を破壊したはずだ。」

『核?』

「俺たちでいうところの頭、もしくは心臓みたいなもんさ。」

『…』

「なんだよ?」

カイルの話っぷりに少々面喰らった私の視線に訝し気な表情のカイル。

『カイルじゃないみたいだ。』

少し険しかった表情を解き、ポリポリと頭を掻いて視線を逸らす。

「何でだろうな…説明が難しいんだけど、頭の中に師匠が居るみたいな…変な感じなんだ。」

本人にとっても謎に感じる部分があるようで、しかしその感覚、予想は概ね間違いではないだろう。

私の中にベリズやリリーの魂…もしかすればルアの欠片も含めてこの身に宿っているのと同様に、恐らくカイルの中にはシロの魂、もしくはその一部、欠片が宿ったのだ。

そして悔しい事に、未だベリズを始めとする内に宿る魂の記憶や知識を得る事が出来ていない私に対して、カイルは極自然にシロが持っていたであろう知識を扱っているという事実。

シロに近い存在であるベリズの知識、過去シロと共に西の島国での出来事の当事者であったリリーの記憶。

後者に関してはその危機を報せてくれたというやり取りはあったものの、もっと上手に扱えればあそこまで追いつめられる事もなかっただろう。


『むー…』

カイルの訝し毛だった表情は今度は私が浮かべる事となる。

『カイルのくせに。』

「なんだよ、ソレ。」

事、戦闘に於いては元からの知識と経験、日々の鍛錬からもカイルには及ばないのは分かる。

今となっては更にそれに類する私たちが知り得ない知識までもが加えられたのだ。

ちょっと前までただの脳筋と思っていた幼馴染みが流暢に話しだしたのだ。

得も言えぬ不満を浮かべてもバチは当たるまい。


『で、これ解けるの?』

「多分、解いたら灰になるぞ?…まぁ片方だけで十分か。」

二つの塊の一方に視線を向けて、手を伸ばす。

指先で突くと、薄紫の膜が消えて、カイルの予想通り、解かれた中身は輪郭の外側からパラパラと灰になって舞い散った。

『えーと、触っても大丈夫なの?』

顎で試してみろと言わんばかりに促す。少し偉そうな表情に僅かに感じる苛立ちも一先ずは置き去りに、薄紫の膜に覆われた塊に手を伸ばす。

が…

『あれ?』

触れたような実感がまるでない。

そもそも、膜の内側に存在しているであろう黒い塊自体にも触れられるかどうかは怪しいものだが、戦闘時、少なくともカイルはその攻撃を斧で受け止めていた。

私も何度か吹き飛ばされた事から、何らかの感触、感覚は指先に在るものだと思ってはいたが…。

「調べられるのはあくまで見る事だけって感じかな。」

カイルが言うには、あくまでその存在を押し留めているだけで、そもそもこの膜を扱える他者が触れても干渉できないのだという。

本当に難しい話を当然のように喋るようになった…。


『…これ一部だけ残す事はできる?、残したとして動かす事はできる?、出来たとしてどれくらいの時間維持できる?』

今度は鳩が豆鉄砲を食らったような驚きの表情の後に、腕を組んで顎に手を当て、考えるような素振りを見せた。

「難儀な事言うな。」と呟きながら、塊をじっくりと見ている。

少しの時間を空けて、手を伸ばし…

「失敗したらこっちも消えるぞ、いいか?」

『残してはおけないのは同じよ。』

それに一先ずの対処方法は、彼を頼らざるを得ない所に不満はあれど、可不可で言えば可だ。


先程灰となって消えた片側に触れた時と違い、私に確認しながら残す部位を定める。

「膜自体は俺なら触れる事ができるんだ。」

移動させる事自体は難しくはないと。

「これ自体は俺が生み出したモノだけど、これが自然に無くなるのかは分かんねぇな。」

例えばこれが魔力で作用しているなら、多分術士の消耗如何で維持は可能だろう。

カイルの言い分からすれば、効果そのものもその技術に付随するオマケのような物。

とすると、私は疎か、カイル自身にもどれくらいの維持が可能となるかは、実際の試行が無い事から何とも言えない。

半分になった塊の更に先端。

攻撃のために振り回されていた手の一部を指先でなぞるように抉り取る。

「ふぅ…」

上手く行った、と息を吐き、手の平に乗せたソレをこちらに見せる。

『もし、これを見て何か分かる人がいるとすれば、私たちの知る中だと一人しかいないわ。』


一部を抉り取られた塊の残り半分は、カイルの手によって隔離と呼ばれる状態から解き放たれ、先に散った半分と同様に風に舞って消えた。

見届けた私は遺跡群へと足を向ける。

何かを得るためにはいつだって迅速な行動を要する。

今回も例に漏れず、運が悪ければ得られるモノすら無くなる可能性もある。


『急ごう。』


感想、要望、質問なんでも感謝します!


二度と繰り返されぬように集める情報。

食物の新鮮さが大事な事と同様に、情報もまたその鮮度は重要。


次回もお楽しみに!

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