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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第九章 禁呪
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286話 闇払いの力

286話目投稿します。


星灯りを消す雲。

されど見えない光以上に激しい輝きを纏うソレは雷雲だった。


薄紫色の閃光を加えた光の帯は、高所から的確に私と黒い塊の間に振り下ろされ、その距離を強引に切り開いた。


直後に慣性で吹き飛びそうになる私の体を支えた腕の持ち主はカイルだ。

『予想、当たって良かった…』

「本当にお前は…こんなだから離れるのが怖くなるんだって。」

『ふふ…ゴメン。でも助かった。』

「少し休んでろ。」

『うん。』

肩越しに別たれた相手を見やる。

カイルが放った一閃は、私と分断するだけでなく、明確な効果を得ているようで、その大きさが僅かではあるが縮まっている。

切断された先が灰になり、消費された部分を補うように姿そのものは修復されてはいるが、間違いなく黒い塊の総量は減った。

『カイル、アンタならアレを消す事ができる。』

握り返した腕、少し力を込めて、彼に伝える。

それだけできっと戦い方、その手段は解る。

「解ってる。任せとけ。」


少し離れたところまで私を運び、振り返ったその背中には見覚えのある巨大な斧。

『それ…』

「親父さんから預かったんだ。また運ぶのが面倒だから持っててくれ、って。」

それは使っていいという意味ではないと思うが、父なら気にはしまい。

それに憤慨するようならそもそも気軽に他者に預けたりはしないし、逆を言えばカイルには許したという事だ。

大事にしていないわけではないだろうが、本人曰く武芸百般で、斧は日常生活に於いても使う分慣れているというだけで、武器と呼ばれるモノであれば一通りは扱えるというのを以前聞いた。


その話を聞いたからこそ、今カイルの手に収まっている巨大な斧、その技匠から明らかに普通の斧とは違う父の愛着ある武器。

そんなモノを持っていた事に驚いたものだ。


ともあれ、重い一撃で分断するならこの斧は絶好の得物だろう。


カイルに宿るシロの、雷狼の加護による雷の力、今はその光が絶大な効果を発揮してくれる。




翌々思えばカイルの戦いを見るのはべリズと対峙した時以来。

町中での試合、オーレンとの鍛錬なら目にした事は何度かある。

何だかんだと旅の最中で敵意を向けられて武器を握る姿はそこまで無かった。

『そうか…カイルはまだ…』

その手に染まった血の色は、自分の鍛錬で傷ついた自らの血しかないのだ。


目の前の明らかに人ではないモノ。

相手が異形であればまだ…

その手が倫理の壁を踏み越えるわけじゃない。

この先、カイルは自分や私の身に危険が迫ればその手に剣を構えるだろう。

出来る事なら、その手を不浄に塗りたくない。

偽善と言われても、その身が傷つくより、心まで傷を負う必要などないのだから。




私を安全な所まで運んでいる間、相対する黒い影に動きはなかった。

大凡普通とは言い難い塊にも何かを思考する部分があるのだろうか?

少なくとも破壊、破滅といった衝動に本能のまま蠢いているわけではないのは月明かりを避けていた点から何等かの思考回路のようなものがあるのは予想できる。

突然の乱入者に警戒しているのか、明らかな有利な状況から一転してしまった事で動けずにいるのか?、はたまたカイルが居たとしても私たちを呑み込み、この町を滅ぼす算段があるのか?

ゆらゆらと揺れ蠢く塊からは何も読み取る、感じ取ることはできない。


イヴならアレを滅ぼすような手段は取らない。

以前王都で見た時と同様に塊を喰らい尽くすのではないだろうか?

彼女だけが分かる黒い影の意思のようなもの…それが分かるなら目の前のアレと会話をする事も可能なのだろうか?

いずれにせよ、少女はここにおらず、待つことも不可能だ。

町を住人共々滅ぼすために現れたのなら、それを許すわけには行かない。




再びカイルが目の前に立ち、両者の戦いが始まる。

意を決したように振るわれる塊の攻撃は私に対してのソレと変わらず、大きな両手を使っての薙ぎ払いではあるが、私にはその単純な攻撃を受け止める事も出来なかった。

「フッ!」

と腹に力を込めるように息を吐き構えた斧。

握りしめるその腕が闇夜での目印宛らに薄紫色の光を放つ。

以前と同様の彼の戦い方。

今は亡き師に教わった加護の力を体に付与して、その身を強化する。

放たれるのは光だけでなく、時折彼の全身から、パチりと音を立てて雷が小さく弾けるのも見える。


明るさという意味で言えば、私が魔力で生成する火でも同じはずだが、やはり彼の力は単純に魔力とはまた違う能力なのだろうか?

話を聞こうにも、恐らく本人はその本質が何なのかまで答える事は出来ないだろう。

そして、それを教えた者もすでに居ない。




ともかくも、私には出来なかった塊の攻撃を受け止め、返す斧で相手の身を削る。

巨大な斧に刈り取られて分断された塊は、先程と同様に灰のように風に攫われて消える。

このまま攻防を繰り返していけばいずれは塊も小さくなり消えるだろう。

だが、カイル本人にはそんな悠長に構えるつもりなどまったく無いだろう。


流れるような動きから、隙を探り確かめるように攻撃を加える。

回数を重ねる毎に、防御を基とした動きから自ら打って出る動きが増えていく。

「ぜぁっ!」

掛け声と共に打ち付けられる斧の切っ先と塊が触れ、ギィん!といった金属音が鳴る。

明らかに削がれていく己の力と体を理解しているのか、それともただ目の前の敵対者を滅ぼす事だけしか思考がないのか逃げるような素振りはまったくない。


だがやはりそれなりに自らの消耗は感じているようで、動きが散漫にはなっても暴れる動きには流石の優勢でも間合いを開くカイル。

短い睨み合いとなった直後、今までに見せなかった動きから、いつの間にかその背に生成された三本目の腕が襲い掛かる。

『カイル!』

思わず叫び、触れる瞬間目を逸してしまったが、彼の体が吹き飛ばされるような音は聞こえず、戻した視界。

斧だけを残してカイルの姿が消えた。

瞬間、飛び上がったその手に握られた少し長めの柄。

父にこの斧があったように、カイルにも自分の武器がある。

空中で身を翻し鞘から解かれた刀身。

北の名匠の手によって生み出され、西の名匠によって彼の手に一層馴染むように改修された、間違いなくこの世に一振りの剣。


鞘から現れた刀身には彼が溜めていたであろう雷が宿り、その輝きを強く発している。


虚をついたつもりの攻撃を躱され、返す剣は避ける間もなく黒い塊を、言葉通りに頭上から一刀両断、まさに二分した。


どちらが残るのか?と様子を見るも、その動きは止まり、代わりに剣を振り下ろしたカイルが塊に背を向け素早い所作で愛剣を鞘に収める。

「ふぅ…」

少々油断しすぎではないか?とも思える声、息を吐きこちらにゆっくりと歩み寄る。




『終わった…の?』

歩み寄るカイルと、二分されたまままだ残ったままの塊を交互に見ながら口を開く。

「ああ。終わりだ。」

確信ある重みを持った返事。

対峙して、トドメを刺した本人の口がこうまではっきりと言うのだから、手に触れた手応えがあるのだろう。

『…はぁ…』と私も大きく息を吐いた。


ドカッと隣に腰を下ろしたカイルもまた、大きく息を吐き、私たちは同時に口を開く。


『「疲れた〜」』

感想、要望、質問なんでも感謝します!


大地震以上の災害となった戦士の町。

恐怖の一夜を開けたその町で、また新たな絆が生まれる。


次回もお楽しみに!

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