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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第八章 消える星空
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目覚めてからの記憶

どれだけ長く世界から弾かれていたのか?

その間に大切な人の身に起こった事は、聞けば聞くほどに自分を責めたくなる。


師匠の言葉を聞いた。

目を開けると視界に拡がったのは仄暗い空間で、少し靄が掛かったような思考で考える様はまるで朝起きた時みたいだった。

実際に、目覚めたって言うのだからまぁ似たようなものだろう。


状況が呑み込めないまま、周囲に居た人の話もそこそこに、胸の奥…というより頭の中か?

響いた声に急かされるように、洞窟を後にした。

「念のため」と同行してくれた…えっと、多分西領の人?が止める声も無視して、駆けだした。

確かこの洞窟は船で辿り着いたはずだけど、寝ている間に穴でも掘ったのだろうか?

「まぁ、西領の辺りには変わらんだろ。」

アタリを付けて声が示すままに地を蹴った。

気のせいではなく以前よりも脚力が上がっている…というよりむしろ普通じゃない程で、似たような光景を探すとしたら、師匠が走っているのと同じ感じだろうか?


目まぐるしく流れる景色の移り変わりは、それだけ俺の速さが尋常じゃない事を理解させた。

別段集中して、というか足に力を入れてというわけでもないのに、この速さ。

師匠から学んだ戦闘術の中で、体の動かし方というか、足使いは加護を加える事で人の目に捉えきれない程の速さで動く事もできるが、それは俺にとって凄く疲れる技法だ。

でも今はまったく疲れを感じない。

息を吸って吐くように当たり前に出来ている。

きっと師匠…あの毛玉が居れば「それくらい出来んでどうする」なんて悪態をつきそうなものだ。

そんな時に返していた言葉は「一緒にすんな」って。

その反論は決まって「人間は不便じゃのぅ」と爺臭い物だったが、それはそれで嫌いじゃなかった。


向かっている先、きっとアイツが居る。


どんなに離れてても、アイツの気配も匂いも良く知ってる。

だからそこに行けるのが嬉しいんだ。

「また怒られるんだろうなぁ…」

言葉とは裏腹に口元に浮かぶ笑み。

きっと「遅い!」とか文句を言われるに違いない。

寝起きなんだから少しは勘弁してほしいところだけど、昔からあんなだから今更変えられても逆に調子が狂う。




『バカ』って言われた。

いつものきつい一言にすれば短くはあったが、それだけ余裕が無いって事だと思う。

確かに目の前に立っている男は…見た目だけで言えばコイツの親父さんと同じくらいの年かな?、凄ぇ強そうだ。

支えろって言われたからしっかりと抱き込むようにしたけれど、その肩は小さく震えていた。

状況は良く分からないけどさ…そりゃ嫌だよな。


俺が居ない時間。長かったのか短かったのか解らないけどさ、戦ってたんだよなきっと。

それが解ったからこそ、自然と俺の片手はお前の頭を撫でてたんだ。

「頑張ってたんだな」って。

多分お前は、いっぱいいっぱいでそんな事気付かなかったのかもだけど。


直後に見たお前の魔法?なのかな?…も凄かった。

もう冗談でもお前と喧嘩するのはゴメンだな。

今だと俺の方が泣かされそうだ。




案内された町はまだ建設途中って聞いた。

あの強そうなオッサンは落ち着いたみたいで良かったけど、何だかんだで妙な事やらされてるのは相変わらずみたいだ。

今は成行でって感じも多いんだろうけど、覚えてるか?、ちっさい時のお前は好奇心旺盛で何でもかんでも知りたがってた。

自分で家から出るようになってからは俺の方が振り回されてたのを思い出したよ。


夜遅くまで忙しそうにしてる姿は、ちょっと悔しい。

俺はお前ほど頭良くないし、剣を振るしか出来ない。

同じ町で一緒に育ったのに、何が違ったんだろうな?

でも無茶しないように見てるよ。




自分でも気にはなってたけど、お前が言ってくれて良かった。

このままお前を護る事が出来ればそれだけで良いって思ってたけど、お前が大切にしてるモノはもっと大きいから、俺もそれを大事にしたいって今は思ってる。


だから俺も親父さんたちと一緒に王都に行ってくる。

まぁ親父さんたちはノザンリィに戻るついでみたいだけど。


2人からすれば護衛役なんて必要ないだろうし、実力も多分、2人の方が上だ。

それでもお前の親は俺が護る。




そうして王都に着いた俺は予想以上の歓迎を受けたんだ。

そうそう、オーレンの成長ぶりには驚いたよ。

俺がいない間に随分と頑張ったみたいだ。

アイン様と違って、大人の兵士にも引けを取らないんじゃないか?


親父さんたちは到着してから数日後に故郷に立った。

お前と違って陛下に会う事は出来なかったけど、レオネシア様やイヴ、屋敷の皆も凄い喜んでくれた。


多分気の所為だろうけど、レオネシア様に手が触れた時、前と違う不思議な感じがした。

アイン様の跡を継いで少し変わった雰囲気だからかな?


ロニーさんにも会いたかったんだけど身の回りの整理が進まないとか何とかで会えなかったんだ。

そっちに移住するとかなんとか?


技術院に顔出した時は流石に俺も慌てたよ。

そんなに話しした事もなかったのに、所長さんに抱きつかれた時はどうすりゃいいのか本当に困った。

パーシィが割って入ってくれなきゃ実験素材にされてたかも、なんて言われたら今更ながら怖いな。

何か、技術院も相変わらず忙しいみたいで邪魔するのも悪いなってその時はさっさと帰ったんだが、その後の事でそうもいかなくなっちまった。




挨拶も粗方終わってお前の元に戻ろうと思ってた時だ。

王都も大地震の被害でとんでもない状況になっちまった。

城や屋敷、上層の被害は軽かったけど直後は昇降機が止まったりで大変だったのを覚えてる。

俺も復旧の手伝いで人力で降りたんだけどちょっと苦労した。


でもそんな悠長な状況じゃなかった。

至る所で倒壊や火事が起こって衛兵は人手が全然足りなかった。


陛下の迅速な対応で思ったより被害者は少なかったみたいだけど、施設的に広い敷地と頑丈さを持ってた学術院と技術院は東西其々の避難所として奮戦したんだ。

俺たちが生まれてからこんな大地震なんて覚えはないけど、陛下の的確な指示は本当に凄かった。

以前にもこんな事あったのかな?

お前と違ってそんなに親交があるわけじゃないが、王様としては多分まだお若い方だろう?、凄いよな。




大変な災害だったけど、王都はその主要部がほぼ無傷だったのも在ってか、落ち着きも早かった。

そして驚いたことに俺は陛下の命で王都を出る事になったんだ。

何か気掛かりな事があるって屋敷まで出向いた陛下がレオネシア様と相談した結果、俺が急ぎそっちに行く事になったってわけだ。




俺としちゃ嬉しい話だけど、まだ完全に復興しきってない王都も心配だ。

お前ならもっと悩むんだろうな。


でも、おかげでもうすぐ会える。


陛下の心配事は俺も気になるけど、そっちにも地震の被害はあるだろうし、気を引き締めないとな。




そうして王都を出発したのが昨日。

自然と早くなる足取りで気付けばお前の町に到着したってのに…

お前は居なくて、聞けば旧スナント領所属の町に向かったって聞かされるし、示された方角、空の色が変だし、まさに陛下の予想が当たったって事なのか?


無事でいてくれ!フィル!!

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