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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第八章 消える星空
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285話 星を覆う唸り

285話目投稿します。


逃げ場はいつでもその場を失っていく物。

積み上げられた壁はその圧を増していく。

『フー、フー…』

傷は塞がる。

流れた血も同様に失われる事も少ない。

それでも痛みは蓄積されるし、体力も時間と共に削られていく。


単純なもので、相手に実体があれば目の前の対象に開いた穴の数はすでに百を有に超えているだろう。

数回繰り返すだけで効果がなさそうな事は分かってはいるものの、それでも現状ではどんな手段を取るべきか、まだ考えが纏まらない。


刃に魔力を溜めて放つ一撃は、準備に掛かる時間はその威力に比例する。

放った瞬間、宿った魔力と速度も相俟って光る軌跡を放つものの、それ自体は単純な投擲。

そこいらの石を投げつけるのと変わらない。

手数と威力だけで考えれば間違いなく私の最高火力だろう。

あくまで狙う対象に実体があれば…だが。


『予想外…いや、想定が甘かった、か。』

今までの旅路の中で、幽霊に襲われる!なんて事でもあったなら、今の状況でも出来る事も浮かんだだろうが、生憎とそんな相手に遭遇した事は…無くはないがそれは目の前の対象と同類の物で、その時も何も出来なかった。

それはまだ旅にも出ていない時の話で、経験を積むなんて考えすらなかった。


得意とは言えないが、元素…火や水といった性質の魔法も試してはみた。

いずれも効果はなく、むしろ打つ程にその力を喰われるといった様子で刃の投擲よりも効果はないし、こちらが不利になるばかり。


いつだって闇を照らすのは光、とは言ったものの、私が扱えるモノなど松明代わりの小さなモノだ。

投げつけたところで包まれて消えた。

もっと、もっと強い光…閃光のように目も眩む程の強い光でも扱えれば良かったのだが、先の光にどれ程強く魔力を込めようとしても上手く行かない。

ここに来て本格的に自分の不得意にあたる事を思い知る。

ただでさえこうした一般的と言われる魔法を維持するのは不得手、べリズの膨大な魔力があって何とか人並みに毛が生えた程度、そこに苦手な要素が加われば最早使い物になるべくもない。




『フー…フー…』

不意打ちに近い最初の一発以降は致命傷と言える程の攻撃は受けていないものの、背の高い貴婦人、もしくは樹木のよう、と言った印象は時間が経つにつれ、後者の方がしっくり来る。

こちらの攻撃が通用しないのと同様に、刃を使った防御壁も実体のない向こうの攻撃を防ぐどころか逸らす事さえ出来ない。

装具を最大限に使役して回避しても、触れる直前で枝が成長するように間合いが拡がるとあっては完全に避けきる事もできず全身に切り傷が増えていく。

浅い傷なら私の治癒力はあっという間に消し去ってくれるものだが、徐々に体に刻まれる傷はそれだけ深い物という事だ。

その特性から私の治癒力を阻害するような効果があるかもしれない。

何より体力ばかりは如何ともし難い。

ただでさえ疲れやすいこの体はそもそも耐え続けるような戦いの相性は最悪だ。


『ハァ…ハァ…』

攻撃は通らず、防御も削られる。

体力は限界に近い。

余力があるのは魔力と治癒力。

一方は攻撃が出来ない故に残っているというだけで、使い道を得られない。

『想像以上に…きついな…』

せめてもの救いというなら油断さえしなければ目に見える攻撃といったところか。

周囲の黒が集った塊は幾分愚鈍な動きになっているようでもある。


すでに陽は暮れて、町には一片の灯りもなく、空の色は赤から青みを帯びた夜の色。

時折雲間から射す月明かりが所々に青白い光を落としている。


ず…ず…ず…


闇夜に溶け込む黒い塊はより一層、その攻撃を見えづらく…


ず…ず…


蠢くソレは雲の影に隠れ…


ず…


いや…違う。

耐え続けた時間が少しだけ、僅かな光明、可能性の発見の一助になったのかもしれない。


試しに立つ位置を変える。

雲間、少しだけ、明るいその位置に。


『月明かりを…嫌ってる?』

判明した一つの事実ではあるものの、依然退けるための手段とまでは行かない。

そして雲間が無くなればいよいよ好機と言わんばかりに襲い掛かってきそうでもある。

心做しか、雲は一層厚みを増しているようにも見え、気付きは一転して焦りの原因にも繋がる。


けれど、私の耳が微かに捉えた。

今度こそ、私の好機と言えるかもしれない可能性。




一瞬でもいい。

目が眩む程の光。

立ち位置を回避に取り込み、それでも襲い掛かる攻撃を掻い潜り、避けきれない黒い刃はこの身を刻む。

徐々に狭まる月明かりの空間だが、それに比例して響く空の唸り声。

『空の気配は分かりにくいんだって。』

まだ気を抜ける状況ではない。


逆に愚鈍だった動きは速度を上げ、それは月明かりの減少による好機と見たからか、もしくは近付く気配を感じた焦りか?


その気配を充てに、装具に込める魔力量を増やす。

遺跡群から少しずつ距離を開けるように誘導しながらの持久戦は、黒い攻撃による町の破壊を招いたものの、視界は随分と広がり、周囲は最早平坦と言ってもいいぐらいだ。

月明かりが尽きたこの戦場は避ける事だけに集中しなければ取り返しがつかなくなりそうな程に背筋を震わせる。


ガッ!

砕かれた瓦礫が足先に当たった。

『しまっ…』

た、と発するよりも早く、塊が迫り、その牙を剥いた。

『う…ぐぅ!!』

ドス、ドス…ドス!

と鋭く尖った黒き刃が私を貫いた。

『が…ハッ!』

何とか手足を縮め、命の危険と成りうる部位は防御したものの、本当にギリギリだった。


待たせた。


そう聞こえた気がした。


直後、空から紫を帯びた光が、線を引くように、私に突き刺さる黒い牙を断ち切った。


『…ゲ、ふッ!』

体を襲う振動に、口から血を吐き出したが、体に刺さっていた牙は灰と化すようにかきけされ、私の体はゆらりと光に包まれたのだった。


『…ありがとう』

背中に回された腕は、力強くも温かい、望めばきっといつだって安らぎをくれる、そんな優しい腕だ。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


消える星空から射した閃光。

ハジメテの邂逅から感じ取る気配を識る。


次回もお楽しみに!

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