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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第八章 消える星空
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284話 痛みの記憶

284話目投稿します。


遺跡から出づる黒い塊、その内に秘めるは明暗別つ一閃

幸運と呼べるかどうか?

歩み寄り、そのまま襲い掛かってくるかと思っていた黒い塊は、付かず離れずの距離を取って私を取り囲む。

埒が明かない睨み合い…とは言っても相手に目があるかは不明だが…意を決して踏み出すと塊は草の根を掻き分けるかの如く道を開く。

背後、遺跡内部に塊が留まらない事を確認しながら駆け下りてきた階段に差し掛かる。

ゆっくりと一段ずつ上る私に付き纏うように取り囲むソレは予想通り、標的を私に固めたようで、すでに最奥までの視界は阻まれているものの、隙間から見える内部は先程よりも明るさを取り戻しているようだった。

『よし…これなら…』

重なる愚策に追い込まれてしまったこの状況が少しでも好転の機となれば文句はない。


改めて入口側、石造りの階段を確かめ、再び足を踏み出す。

もし足を滑らせて転げでもすれば、一気に塊に飛び込むような事に成りかねない。

流石にそうなってしまえば自分自身が無事でいられるような光景は想像に乏しい。




降りてきた時の倍どころではない時間を掛けて、もうすでに何段の石を踏んだのかも分からなくなってきた時には私の視界の殆どが塊に覆われてしまった。

色濃くなった黒い視界、初めの頃より私との距離も近く、一歩踏み出すのもそれなりの時間が掛かってきている。

『これを何とかすれば…』

きっと今回の騒動…まだ判明しない黒幕の算段も一先ずは区切りがつくはず。

大凡、常人であれば、こんなモノからの生存は出来ないだろう。

それならば、この身がどれだけ削れたとしても凌ぎ切る。

終わりが見えるなら思考もまた集中力を高める事にも暇がない。


前面を覆う黒色に少しだけ赤みが差してきたようにも思えた視界の隅、揺れる塊の隙間から微かにその向こうが見える。

『出口!』

あくまでも心の中で叫んだ声は、長くゆっくり過ぎた歩みの終わりが近い事を示している。


この先、遺跡から出た私の姿を遠くから眺める事ができる者が居たとすればそれだけでも恐怖を覚える事だろう。

端から見れば、謎の遺跡から這い出て来た見るからに不気味な黒い物体だ。


少し重苦しい感じはあるものの、外気に触れた肌を乾いた風が撫でる。

汗ばむ肌には助かる心地よさではあるが、目の前の、私を取り巻く状況は依然として喜べる物ではない。

ふと頭を過ったのは白い少女、今尚王都で日々を送っているであろうイヴとの出会いだ。

彼女と初めて会ったあの時、少女諸共黒い影に覆われ一瞬とは言え驚愕の感情を抱いた。

少女のようにこの影を鎮めるような力はない。

私に出来るのはこの黒い塊を生み出したであろう人の想いをこの身に取り込む事だけだ。

少なくともこの右腕にはリリー、過去の聖女が長い時を掛けて抑え続けた同種のモノが今も尚蠢いているのだ。

今になって思えばあの時はリリーが間に居たからこその成功だったと思う。

果たして同様に出来るのだろうか?


遺跡の階段という狭い場所から開放された事も相俟って、外部に蠢いていたであろうモノまでもが吸い寄せられるかのようにこの場に集い、その甲斐とでも言えばいいのか町の外周から徐々に気配が薄くなる。

『ふふ…』

さも当然のように俯瞰の光景が頭に浮かぶ。

苦労していた事が気付けば息を吐くように自然に出来る。

まるで事に迫られる度に補充されるように…。


どれだけ密度を高めても私に襲いかかる様子のない塊。

今は包囲を解き、かと言って他の標的を見つけたわけでも無い。

付かず離れずの距離は階段の時より幾分大きく、それでも私を見逃す気は無いようだ。


やがて周囲の黒と、空の赤を飲み込み、渦巻きながらその形を変える。

人のような輪郭から伸びる腕は、骨格だけで形成されているような細さ。

けれどもその先端に形作られた手は指の数も一つ少なく、何より大きい。

それだけで異形の存在と分かる。

胴体に当たる部位は頭部と思える箇所を含めて、軽く私の倍以上の身長。

そして全身を覆う長いドレスを纏った貴婦人のような立ち姿は、手の大きさも加えれば人型というよりは地面に根付く樹木に近い。


『久しぶり…って言うのも変な話か…』


その姿は私が初めて見た月夜の森の中で遭遇した影そのものだ。

あの時に比べれば大きさだけは同じとは言えないが…。


ブンっ!


重苦しい音と共に視界が大きくブレた。

『ふっ!、ぐっぅ…』

油断していた。

これまたあの時と同じで、目にも止まらない速さで薙ぎ払われた大きな手。

吹き飛ばされた私の体は、森の木ではなく、遺跡の石柱に衝突して、体が地に落ちる。

『…ぅ、ゲホッ!』

思えばこんな痛みも久しぶりだ。

体を傷つけられたのはいつ以来だろう?


セルストと対峙した時ですら、致命傷を受けたような感覚はなかった。

ルアとの鍛錬はどうだったか?

傷は負っても命の危険を感じるほどではなかった。

西の遠洋海域、その地では明確な個としての悪意はなかったが、あの時の危険は言ってみれば自業自得みたいな物だった。

ベリズを鎮めた時は、カイルを庇って痛手を負ったものの、直後の治療で持ち直したけれど、その後の火山噴火でしばらくの間は診療所に厄介になったな…。


『何だかんだで怪我はいっぱいあったな…』

その都度、幼馴染を筆頭に心配を掛けていた。


初めて遭遇した黒い影との戦いが鮮明に思い出される。

あの時に近い痛みが誘発させたのだろうか?


黒い影。

あの月夜で対峙したソレが姿を消したのは何が理由だっただろうか?

あの影は…黒い人型は…何をした?


感想、要望、質問なんでも感謝します!


成長したのは何なのか。

異形を見守るのは果てで暗躍する者か抱いた剣か?


次回もお楽しみに!

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