27話 昇降機の乙女
27話目投稿します。
慌ただしい生活の中で少女とのさりげない会話。
もう少し自分の気持ちに正直であれ、と
少女は少しずつ育つのです。性格荒れすぎな気もしてます(反省
『あぁぁあああああ…』
顎だけ机に突っ伏して項垂れる。
「お疲れだねぇ?」
今日は少なめの本を片付けながらロニーさんが私に労いの声を掛ける。
『うぅぅうう…』
あの夜から今日で5日が過ぎた。
その間、私の生活に「本宅で夕食を摂る」という項目が追加されていた。
その理由は領主会談に向けての礼儀作法の練習という名目だ。
(まぁ、礼儀作法を習うのはいいんだけどさ…)
領主会談への出席の方が憂鬱ではある。あとコルセット。
「名誉な事じゃないかい?」
『他人事だから言えるんですよぉーそれ。』
少なくともあの夜と同じ格好、いや下手したらもっと豪華な衣装を着せられる羽目になる。
ただでさえああいった豪奢な洋服は落ち着かないし、それで目立つのもどうにも…
「あまり深く考えない事だね。確かに私もフィルの可愛い姿はとても興味はあるけどさ、領主会談もその社交場も大人しくしておけば目立つ事もないんじゃないの?」
『だといいんですけどね…』
片付けを終えたロニーに紅茶とお土産の御茶菓子を差し出す。
「おぉぅ、おいしいおかし~!」
全身で喜びを表現し、ロニーさんは飛びつく。
私も御茶菓子を一つまみ、紅茶を口に、『ふぅ』と椅子に背を預ける。
「そういえばナイト君はどうしてるの?」
『え?あー…カイルですか?えーと…あれ?』
改めて思い返してみると、あの夜以降カイルと話をしていなかった事に気付く。
『そういえば、ここ数日、本宅通いしてるのに、話してないですね…むしろ避けられてる気がする。』
「んっふっふ…なるほどなるほど?」
顎に手を当て考えるような素振り。
「カイル君が何を考えてるかくらい、フィルなら気付いてるでしょうに。あんたも悪女ねぇ?」
『う…』
まだそんなに長い付き合いでもないはずのロニーさんの言葉は色々と的を得ててある意味辛い。
「まぁ、お偉いさんの社交の場なんてそれくらいの悪女でもなきゃ大変かもよ?」
というのも、領主会談に付き物の社交場で上がる噂の数々はそれこそ国中に広がるくらいの事案も起こりうるらしい。
『それ聞いちゃうと余計に憂鬱なんですけど…』
ジト目でロニーさんを睨むと「ごめんごめん」と両手を顔の前ですり合わせる。
「まぁでも、私の予想だけど、件のカイル君が何とかしてくれるんじゃない?」
と、言われたものの私の頭には「?」が浮かぶ。
その後、ロニーさんに聞き返すが「まぁまぁ」と話題を反らされたまま今日の仕事も終わり、ここ数日の習慣となった帰り路を歩く。
水門を通り、いつもの昇降機へ。
「こんにちわ、フィル様。」
『パーシィ…こんにちわ。』
おや?と私の顔を覗き込み、
「お悩み事ですか?」
と聞きつつも、昇降機の操作盤の操作を始めるパーシィ。そのまま会話を続ける。
「もし、フィル様のご迷惑でなければ、お話頂けませんか?」
ゆっくりと上昇していく昇降機、視界に入る夕暮れの景色はいつも通り綺麗だ。
『悩み事というか、色々ありすぎて頭が追い付いてない…ってとこかな?』
ふむ、といった面持ちでパーシィは私に聞いてくる。
「ここ数日はずっと本宅の方にいらっしゃってますよね?、それも関係してますか?」
頷き、私はここ数日の出来事、領主会談、随伴者、ドレス、カイルの事、今日のロニーさんの台詞と、一先ず頭に残っている事をつらつらとパーシィに伝えた。
すると、パーシィは笑い。
「多分、ロニー様?でしたか?の推理は当たってますね…っと、本当ならここを利用される方のあれこれを話すのはあまり良くないとは思うのですが…」
あくまで昇降機が上にある時に遠目で見た光景ですが、と前置きをしたパーシィが話してくれた事。
まずカイルが小綺麗な服、パーシィが知る限りだと騎士様の礼服のような装用で歩いていた姿を見たと。
「私が思うに、恐らくアイン様はフィル様のエスコート役としてカイルさんにも随伴させるのではないでしょうか?」
成程、と私は頷く。
確かに私同様に礼儀作法が身についてないという事を考えれば、パーシィが言うように叔父が取り計らっているのであれば、ここ数日顔を合わせる間もないというのも分からなくはない。
「聞いている限りではありますが、ロニー様は恐らくそう言った社交の事情などにも詳しい方とお見受けします。」
ロニーさんも悪戯をするような感じで話していたものの、私があまり気負いしないようにと気遣ってくれていたことに今更気付く。
(どうにも最近、感が鈍いなぁ…色々とありすぎ…)
私にせよ、カイルにせよ新しい暮らしは思っていた以上に負担があるのだ、と思い知る。
(ならカイルだって余裕なんてないはずなのに…)
胸が詰まる。
「大丈夫です。フィル様。カイルさんは優しい人だから…特にアナタには。」
少し震える私の肩を、パーシィがそっと抱く。
「カイルさんはいつも、誰にでもありのままに接しておられます…逆にフィル様は誰にでもお気遣いをしすぎている。」
両肩に両手を置いて、正面から見据える瞳。
逸らさず私の目を見つめるその奥に、少しだけ私と似たものを見た気がした。
「もう少し、カイルさんを頼ってみてはどうですか?心だけでなく、言葉通りに…」
今度は私が腕を伸ばして、パーシィを抱きしめる。
『ありがとう、ごめ、』
言いかけた私の口を人差し指で止め「そういうところですよ?」と止められた。
直後、ふいに鳴り響いた呼び鈴に「あっ」とパーシィが声を上げる。
下層から昇降機が呼ばれたようで、「もう少しお話したかったですが、またの機会に。」とパーシィは降りていく昇降機から手を振った。
私も彼女の姿が見えなくなるまで手を振り、踵を返す
『よし!…難しく考えるのやめた!』
少し…いやかなり心がさっぱりした私は、本宅へ向かって一歩踏み出したのだった。
感想、要望、質問なんでも感謝します!
近づく領主会談の日取り、と気長に思っていたのですが…
次回もお楽しみに!




