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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第八章 消える星空
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282話 薄闇を染める闇

282話目投稿します。


仄暗い遺跡は相も変わらず人を拒む壁に覆われている。

今はそれが一筋の希望かもしれない。

「いそげ!入口を開くんだ!」

そこそこ良い体格の男が大きな声で指示を飛ばす。

遺跡群に到着した私たちが目にしたのは、先に到着した住民による瓦礫撤去の光景だ。

『指示を出したのは…』

「アタシさ。あの人たちは割りと怪我も軽かったみたいだから、遺跡に入れるように準備しといてもらってたのさ。」

私が遺跡に避難指示を出した事で何が目的なのかは予想が付いていたようで、町の住人とのやり取りで先の大地震による損壊を知ったらしい。

とは言え、全体像からすれば大きな破壊の色は薄く、崩れているのは主に地上に立っていた柱が倒壊したといった感じだろう。


「兄さん、アタシたちも。」

力仕事に大凡向いてない体格のサティアが兄カザッカの袖を引き、カザッカもそれに頷き作業に加わる。

他の者も同様に住人たちは感心する程の連携を以て内部への入口が姿を見せ始めた。


ドスン!と最後に排除された石柱の音とほぼ同時に避難の最後らしい一団が到着した。

扇動する住人たちに続き、エルフの双子、リザとロカの姿も見える。

「フィル様!、多分この人たちで最後だ!」

頷き短く、

『中へ!落ち着いて!』と声を上げて先導する。




開かれた入口から身を躍らせ、地下へと続く下り階段を滑るように降りていく。

程なく視界に入った遺跡の内部は、今までのソレと同様の造りだったが、遺跡の体を持っている意味合いで言えば今までで一番大きな規模だ。

王都から北西にあった海底洞窟の遺跡のように周囲の壁自体は洞窟そのものと言った形ではなく地下全体が遺跡そのものとなっているような感じ。

時間があればじっくり調査したい所だが事を終えた後でも問題ないだろう。


この場にロニーが居なくて良かったと小さく笑う。

彼女はあの海底洞窟の不思議な光沢を放つ土壁でさえ深い興味に惹かれていたのだ。

地下丸ごと遺跡のようなこの場所を彼女が目にすれば間違いなく足に根を張る事となっただろう。

そのうち彼女自身もエディノームに滞在…もしくは移住する事になるだろうが折を見てこの遺跡も見せてあげたいと思う。


そして最奥、恐らくは町の住人が昔から踏み入る事が出来た最奥、地下故に明るいとは言えなくとも遺跡そのものが仄かに光を発しているおかげである程度の奥行きも分かる。

『確か…』

私が見た限りだと、町に残っていた住人は百に満たない。

急いで最奥に駆けた私の後を追ってきているはずだ。

『急ごう。』

辿り着いた最奥の更に奥、常人の侵入を拒む薄緑の壁に向かって腰に下げた刃、今回は大きな開口部が必要となる故、五本を浮かばせ、その壁に穴を開ける。


『…ふぅ。』

先の謎の湖、その湖底での一件が役に立った。

数名が通れる程度の穴を開け、賭けの第一段階は完了、と言ったところか?


「…フィル様!」

「お姉さん!」

背後から同時に呼ばれ振り向くと、遺跡の内部への興味と少しの不安をその表情に浮かべたカザッカとサティアの兄妹の姿。

そしてその背後には町の住人と、生き残った傭兵たちの集団が列を連ねている。

その中からそれなりに高齢…と言っても両親より少し上ぐらいの男が前に出てきた。

先程、瓦礫撤去の際に住人たちに指示を出していたのも彼だ。

「始めまして。私はスコルプ。今時点では町を纒める立場を執っている者です。」

左右に分かれた兄妹の頭に手を乗せて口を開いたその男は、戦士在りながらも温厚に見える。

『フィル=スタットです。スコルプ様、説明の時間も取れず申し訳ありません。』

頭を下げる私に謙遜するように両手を振る。

「いえ、カザッカとお仲間の方からある程度の状況は伺いました。それで私たちはこの後どうすれば良いのです?」

『余り時間はないはず…一先ずは皆さんこの奥に入って下さい。話はその後に…。』

結界の先を示す。

スコルプと名乗った男も示された遺跡の更に最奥を伺い、頷くと背後に居る住人たちに移動を促した。


そこからはスコルプから指示されたカザッカたち兄妹を先頭に結界の中へと住人を誘導していく。

リザやロカ、エル姐も住人の列の脇に立ち、身振り手振りで前進を促す。

今のところ、外から感じる気配に変化は…いや…。

遺跡の入口から大気の鳴動が鳴り響いて来た。

『急いで!』

特に目立つ混乱も無く、最後の住人が結界の中に足を踏み入れ、続いて誘導していた双子、エル姐、スコルプに続き最後に私が結界の中へと入ったところで結界に穴を開けていた刃を解き放った。

入口となっていた穴は塞がり、外の音が僅かに小さくなる。


目を凝らして降りてきた遺跡の入口へと注意を向ける。


あの赤い空は何を生み出し、それがこの町に何を及ぼすのか?

その答えが間もなく私たちの視界に映る。




「フィル様…」

不安そうな声を掛けてきたのはリザだ。

隣にロカの姿もあり、2人共血の気が引いたような青白い表情をしている。

「すげぇ嫌な魔力だ…」

吐き捨てるようなロカ、その視線は私同様に降りてきた階段の先に向いている。

『どう思う?』

「ただの魔法とは違う…そんな感じ…」

双子とは別の声色。

戦闘の手法としては双子に近く、より物理的な型を操るエル姐、彼女の表情も双子程ではないにしろ、平気そうには見えない。


考えたくはないが、遠く離れた場所から直接の魔法攻撃として放たれるのか?と考えても居た。

それ程単純であれば圧を感じる事はあっても、ここまで嫌な気配にはならない。


ず…ず…


と何かを引き摺るような音が聞こえた。


目を凝らした先、何か…いや…この感覚は、どこかで感じた事がある。

いつ?、どこで?と自分の中の記憶を辿る。

『まさか…』

行き着いた記憶の元は、私の実体験から来る物では無かった。

それに近い経験は無くはない。

もっと明確、鮮明な程に類似するソレは…。


瞬間、右腕全体が脈打つ。

雷に打たれたような痺れが腕から背筋に掛けて迸る。

警鐘のように頭の中で響いた叫び声が告げたのは『逃げて!』の一言だった。


そして、遺跡は仄かな薄闇をも塗り替える真の闇に包まれた。



感想、要望、質問なんでも感謝します!


想定よりも事は酷。

現実は過去の映像に塗り替えられ、その光景には希望など記されてはいない。


次回もお楽しみに!

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