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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第八章 消える星空
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279話 赤く染まる空

279話目投稿します。


正規軍との衝突は、さながら盤上の勝負事のように流れる。

カザッカは明らかに前衛、リザとロカは魔法を操るエルフ族の戦士でありつつも其々刀身の大きさは違っても短めの二刀を扱う。

自然と明確な獲物を持たない私が接敵されないように囲い込むように布陣してくれる。

カザッカは武器を主に扱う物理専門、双子はソレに劣る部分を魔法で補う。

いずれにせよ、三者共に戦士である事は、こうした自然な布陣だけでなく、身のこなしからも伺える。


ならば後衛としての私は彼らの支援、補助として広い視点に立つべきだ。

前線で抱えきれない相手の行動を揺らすだけでも前に立つ者は楽になる。

そして私の武器は同時に多数の手が出せる。

今の状況では彼らの防衛には馬車とその御者も含まれていて、私の立ち位置としても馬車の影までは目視できない。

『でもそんなのは私には関係ない。』

足はしっかりと地に根を張っている。

否応無しに集中力を高めるこの状況でこの場の動きを見逃すようなヘマはしない。


空を飛べるようになってから、こういった戦場に於いて、また一つ別視点、まるで盤面の俯瞰が頭に浮かぶようになってきた気がする。

まるで机上の駒を動かすような感覚。

意識を集中すれば一層、時には自分以外の視線すらも見える

ような、そんな感覚。


以前、マリーに聞いた事がある。

軍師として戦場に立つ時、己の策が手に取るように操作できる事がある、と。

それに近いモノだろうか?

大地震から来るこの一連の騒動が落ち着き、またエディノームに皆が戻ったなら、話をしたいものだ。




「ええい!、たった数人に手間取っているんじゃない!」

少し人の厚みがある位置から上がる自軍への罵声。

この場における立場のある者の言葉だ。

「もう時間も少ないのだ!さっさと片付けてしまえ!」

指揮官と思しき者の言葉で、敵兵が一丸となり隊列を組む。

そのままの圧で突進されたら私たちに受け止める力はない。

この襲撃における人道的な点は正規軍とは思えないとしても、腐っても彼らは正規軍。

襲撃の実働を担っていた傭兵部隊とは統率力もそれなり、というわけか…。


散り散りになったところで個別に狙われる。

固まったところで圧力で潰される。

力を削いだとしても効果は少ない…。


『そろそろ働いてもらっていいかな?』

馬車の上、手綱を握り様子を見ていた御者に声を掛ける。

「何だ、気付いてたのか。」

『貴女はともかく、リアンさんが私の事、まったく気にせずに離れるわけないじゃない。』

「ま、そうだよな。それに…アイツらはここから生かしておくのは悪手でしかない。」

雑な物言いとは裏腹に、言葉の意味は冷静、冷徹そのもの。

私よりも事情に詳しいはずの彼女が言うのであれば、その判断に間違いはないだろう。


「仕留めてくる。」


と短く発したその姿は、一瞬で馬車の上から消えた。

敵兵に視線を向けていた味方三名は勿論、隊列を組む敵兵もその動きに気付かない。

当然、彼女の標的である指揮官は、まさに今この瞬間に命の危機が迫っているなどとは思ってもいない。

盤面を眺めるような感覚、強く集中している私ですら、彼女の動きを感じ取るのは困難で、その軌跡を追える程度だ。


しっかりと隊列を組み、指揮官の命を待つのみとなった敵兵の塊と、私たちの睨み合いが続く中、振り上げられた指揮官の腕。

しかし、その腕がこちらに振り下ろされる事はなかった。

こちらからも見える視界の先、その腕は力を無くし隊列の向こうに消えた。


数秒後、一向に放たれない命に戸惑いが波及し、誰が見てもわかる程にその統率が崩れていく。

『今!』

言葉と同時に放った刃が、まだ何とか隊列を保っている塊に飛翔し、カザッカ、リザ、ロカの地を蹴る合図となり、一本槍のような勢いが旧スナント軍、現在の正式名称は不明だが、傭兵が「第四部隊」と呼んだ集団を蹂躙した。

指揮官を打ち取ったこの旅程に於ける御者、エルメリートその人も、部隊の混乱を更に際立たせるように後方から削ぎ落としていく。




「き、さま、ら…なにもの、だ?」

仕留める、と言ったものの、彼女自身もその情報を仕入れるための源を完全に断ち切ったわけではなかった。

『貴方くらいの立場なら予想はつくんじゃなくて?、ただの烏合の衆ではないでしょう?』

ゴフッと吐血した指揮官は自虐的に笑い、

「我らの元主は本当に牙を剝かれたようだな。」と苦しげに呟き、更に付け加える。

「敬うべきモノがすげ変わった時、残された者は時として更地を望むのだ。新たな場所を生み出すために!」

力無く振り挙げられたその腕に、私たちは明らかに油断した。

その指先から放たれた最期の魔力は、ただ真っ直ぐに赤い光を打ち出した。

『なっ?』

私よりも素早く、カザッカが男の胸倉に掴みかかった。

「何をした!!」


「ふふふ…古臭い町も!、その信念も!、我らには不要なのだ!」


男は何等かの合図を出したのだ。

何の?

考えろ…。

高く飛ばした合図、受け取る側はこの場には居ない。

そして、正規軍が町に踏み入らなかった理由…。

『皆、急いで町の人たちを避難させて!』

放つ言葉と同時に、私は地を蹴り空に舞い上がる。

合図の光が昇った高さまで一気に高度を上げ、ぐるりと周囲の様子を見極める。


町の周囲には目立つものは見当たらない。

だが、遠く離れた空の色が、男が放った合図と同様の色、赤に染まっているのが見えた。


『何…あれ!?』

その赤色が膨大な魔力の圧を以て膨れ上がる。

『冗談じゃない!!』

見下ろす町の全景を視界に収め、入口付近から散り散りに町に駆け込む皆の姿を捉える。

私とサティアが救助した者たちは、町の奥の方、遺跡と思しき町並みに程近い辺りに集い、避難しているはずだ。


合図を放った男の口振りからすれば、この後に起こる事は何と無く予想はつく。

その方法が分からずとも、結果だけは明白に、だ。


ある程度高度を落とし、ありったけの大声で仲間たちと、出来れば町に残った者たちに聞こえるように叫んだ。


『町の奥、遺跡に逃げろ!』と

感想、要望、質問なんでも感謝します!


どんな力を以て、更なる蛮行が放たれるのか?

すでに焼かれた町に放たれた切なる声はどこまで届くのだろうか?


次回もお楽しみに!

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