278話 布陣の妙
278話目投稿します。
町の襲撃を収めて回る中、以前自分にもあったであろう光を見る。
『貴女のお兄さんってもしかしてカザッカ?』
「えっ?なんで…って、あっ!」
互いに名も知らない相手から親しい者の名を告げられ、少女は驚きの表情、そして納得したような顔に変わる。
「では、お姉さんがあの有名なフィル様…ですか?」
どういう意味で有名なのかは今は置いておくとして、名前は正解なので頷いておく。
「兄は…カザッカはどうしたんです!?」
そうなると、今ここに兄の姿が見えないのは問いかけとして当然だ。
『大丈夫、すぐに帰って来るよ。』
まだ不安が拭えない少女の頭を撫でて落ち着かせようとするが、家の外からは未だ争いの音が各所から耳に入ってくる。
この状況下でゆっくり話しても居られない。
どうした物かと逡巡する私を察した少女が、ガバっと立ち上がり、家の奥に走っていってしまった。
突然の少女の行動が分からず、追いかけるべきか?と悩んでいる内に、ものの数秒で少女が戻ってきた。
『あ…そっか。』
答えは単純な理由。
流石にあのままでは再び外に出るのも憚られると急ぎ身支度を整えてくれたのだ。
つまりそれは、自分も一緒に付いていくという少女の意志だ。
『大丈夫?』
「うん、お姉さん…フィル様が町を助けてくれるならアタシもついてく。」
取り急ぎ羽織らせていた私の上着を差し出しながら答えたその表情は、先程までの絶望など微塵も感じさせなかった。
『強い子だね…えっと…』
「あ…アタシはサティアっていいます。」
『サティアちゃんか、いい名前だね。じゃあ…行こう!』
サティアの目は打って変わって強い意志を抱いたような光を発している。
似たような光は今まで何度も見たことがある。
強い意志を以て突き進む覚悟を決めた者の光だ。
一番強くそう思ったのはあの日。
叔父を亡くして、叔母と語ったあの夜。
私はきっと、サティアと同じ目をしていて、そんな私を見ていた叔母はきっとこんな気持ちだったんだ。
サティアに町を案内してもらいながら、特に急いだのは女性が居るであろう家の周辺。
彼女同様に襲われている者もいくつか、中には返り討ちにしているという強い女性も居たし、流石は戦士の町と言ったところか。
そうやって残った住人と連携しつつ少しずつ町の騒乱を収めていく中で、一際大きなざわめきが上がる。
「町の入口の方です!」
駆け出すサティアの背中を追って、町の入口へと足を進めた。
何と無く町の入口周辺で起こっているであろう事、その発起人は見当がつく。
私と共に町に向かっていたカザッカ、リザとロカ、そして馬車を操る御者が到着して、入口付近に留まっていたであろう襲撃者の集団と遭遇したのだ。
当然怒りを露わに事を始めたであろうカザッカと、こちらの当然手を貸すエルフの双子。
カザッカの実力はまだ見たことはないが、双子もそう安々とやられるような2人ではない。
とはいえ、入口を占拠している集団の規模も分からない。
そうのんびりもしていられない。
町の救助の中で集まった住民もある程度の集団規模となれば、早々遅れを取ることはないだろう。
道すがら出会う住人にはサティアが避難場所を伝えてくれている。
であれば私は急ぎ騒動の発生現場に向かう事に意識を集中、警戒を強めるのみだ。
先行しつつもサティアとの距離を保ったまま、通りを駆け抜け声が大きくなる方へと近づいていく。
『もうすぐ…あの角を曲がれば多分!』
僅かに速度を緩めて曲がり角を抜けて、視線の先に広がった光景。
起こっていた事象は予想通りだったが、その相手は少し異なっていた。
取り囲まれる形でここまで乗ってきた馬車が見え、カザッカ、リザ、ロカが其々敵を相手取って居たのだが、その相手は私たちが撃退してきた襲撃者と少し様子が、その服装が異なっている。
彼らが纏っている鎧の下、その服は恐らく正式に軍で採用されている軍服。
つまりは町の入口を占拠していたのは、傭兵部隊ではなく正規の軍隊、現在の正式名称は不明だが、旧スナント軍。
そして私が得た情報からすれば、その第四部隊と言われる集団に違いないだろう。
『サティア!、様子が見えるところで隠れていて!』
私を追従する形で走る少女に指示を出し、頷きをしっかりと確認してから向き直り、仲間が戦っている中心に向かって地を蹴った。
「そこだ!やっちまえ!」
「何手間取ってやがるんだ、俺が変わってやろうかぁ?」
「アイツらも中々腕が立つみてぇだな。」
遠巻きに囲む連中の言葉からすれば、正規の軍隊であっても町襲撃の傭兵も大差ないような雰囲気だ。
その背後から近付く形ではあったが、流石に警戒の壁はあるようで、その中の一人が私の姿を捉え、声を上げる。
「貴様!何者だ!!」
同時に、その一画に立つ数名が携えた得物を構える。
そういう意味では、傭兵部隊とは確かに動きが異なる。
私が相手取った連中と同じならば、ただの小娘にしか見えないであろう私に油断もあっただろう。
多分、彼らを撃退するのはそんなに難しい事じゃない。
速度を落として話をするか?
正規の軍隊が町の入口を占拠して、襲撃の実行は雇ったであろう連中に任せている。
その理由を問う事も必要ではあるが…手間取っていれば、取り巻きが一斉に仲間に飛びかかってもおかしくは無い。
『出来れば目立たずに終わらせたかったけど、そうも行かないか。』
決断は即座。
選んだのは速度を緩めず駆け抜ける方。
傭兵部隊にしたのと同様に、武器を持つ体の一部に狙いをつけて刃を放ち、数名の体を仰け反らせる事で開いた隙間を縫って、輪の中に身を投じた。
「フィ…」
私の姿を捉え、互いの無事を確かめるように口を開こうとしたのはロカだったが、素早く口元に人差し指を当てる。
察したロカと残る2人も私の意図を読み取ったようだ。
相手が正規の軍隊であれば、リザやロカは兎も角として、手持ちの情報を天秤にかけてもこちらの正体は隠しておいた方が無難だ。
『一先ず片付ける!』
指示を簡潔に飛ばす。
「おう!」
「はい!」
私の叫びに呼応して、双子が気合を入れ直し、一方でカザッカも私と視線を交わし、頷きながら手に持った槍を強く握りしめた。
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足りない情報を探るのは大事。
町に踏み入らない正規軍の目的とは?
次回もお楽しみに!