26話 随伴者
26話目投稿します。
慣れない暮らしは吹き荒れる嵐のように目まぐるしく、安らぐ間もありません。
『あっ…うっ…待っ…ぅぐ…も、もぅ…だめぇ!』
本宅のとある個室に響く叫声の出所は私。
肌着姿のまま悶える、がそこに艷やかさなど一欠片もない。
私の背後にはそこそこ妙齢のメイド長が馬の手綱を操るように私の腰辺りから伸びる紐をきつく握り、私を足蹴にしているのだ。
『あぅ…む、むりぃ!!』
「まだまだぁ!」
ぐぐぃっと全力で私の下腹部辺りを締め上げる。
『うっ、ぷ…無理無理!、ばんご、はん出、るぅ!』
納得行くところまで締め上がったのか、メイド長のネリーさんは伸びた紐を手早くぎゅっぎゅっと念入りに結ぶ。
拷問から解放された私は設えられた寝台に倒れ込む。
『う、ぐぅ…』
寝台の傍らに用意された豪奢な衣装ケースの中では叔母のレオネシアが「んふっ」と楽しそうに笑い、その傍らには別のメイドがレオネシアの選んだであろうドレスを手に持っている。何着あるのかは数えたくない。
『ぐふぅ―――』
変に体に力が入ると色々と出てしまいそうな私は気力を完全に削ぎ落とされ、最早この場にいる人たちのなすがままに成らざるを得ない。
(どうしてこうなった…)
力無く横たわったまま、この経緯を思い返す。
上層への昇降機でパーシィと短い会話の後止まった昇降機の外には叔母のレオネシア、従姉弟のオーレン、そしてイヴが迎えに来ていた。
パーシィにまた今度と軽く約束を取り付けた後、本宅に到着した私達は晩餐の準備が終わるまでの間に互いの近況等を話題に歓談していた。
私が心配していたイヴの様子は反して平穏な様で、オーレンと共に日々学びの時間を過ごし、本人としてもとても楽しいとは言うものの、やはり私に会えない間は寂しいという事だ。
もう少し足繁く顔を出した方がいいかな?と思う。
オーレンとの仲も睦まじく、歳も近い事から幼い兄妹のような雰囲気を感じさせ、レオネシアも幼い娘のように接してくれているのは申し訳無さと有り難さを感じる。
私が知る限りでは珍しく早い時間に仕事を終えた叔父が帰宅したところで歓談の時間は終わり、晩餐の時間となった。
豪華ではあるが懐かしさも感じられる料理に舌鼓を打ちつつ、叔父が打ち立てた話題。
「領主会談」と言われたソレは、毎年本格的な暑さを迎える前のこの時季に四方の領主が王都に集い、王と四領主、一部の施政者や貴族によって執り行われる宴のようなもので、当然同行者の随伴もある社交界と称され、中にはその場で婚約、婚礼の発表をする者やそういった繋がりを求める者は少なくない。
(まぁ、基本的に平民生活の私には関係ないか…)
などと話半分で聞いていたのだが…
「今後の事もあるから、フィルに随伴してもらいたいのだがどうだろうか?」
『ふぁい。』
と唐突に自分に振られた事に驚く間もなく反射的に了承してしまったのだ。
『しまった。』と感じた時にはすでに手遅れで、直後、私は目を輝かせた叔母に膳は急げと捕まり、今日就寝予定だった部屋に連行され今に至っている。
ギチギチに締められたコルセット。
貴族とかそういった身分の人は普段からこんなの着けてるのか?と疑問しか湧かないが、叔母の体型を見てると普段の生活から違うんだろうなァとも思う。
全く持って自分には縁が無い代物と思ってはいたものがまさかのまさかである。
(うん、社交界とか二度と行かん。)
と心に決めるのだった。
その後、叔母とメイド衆のキャッキャッした会話を他人事のように聴き流しながら大人しくしていたのだが…
「はい、ほらフィル、目を開けて?」
『ん…』
叔母に諭され目を開ける。
正面に置かれた大きな鏡には、純白のドレスに、ほんのり紫味の掛かった薄手のヴェールを纏う可憐な少女?が写っている。
「お美しいですわ…」
「何と可憐なのかしら…」
傍らのメイド衆が口々に呟く。
『…えっ?、これ…』
後ろから私の肩に手を置き、耳元で叔母が囁く。
「私の見た目通り。フィル、それは間違いなく貴女の姿よ?」
『…う、うそぉ』
その言葉が信じられず、首を振ったりしてみるが、鏡の中の少女も対の動きをしている。
最後に、少し踵の高い靴を履かされ「さぁ」と差し出された叔母の手におずおずと自分の手を重ねる。
「さぁ!みなに見てもらいましょう!」
『エ?』
叔母の目が何か輝いているというか、むしろ光ってるようにも見えるのだが、慣れないドレスと靴も相まって抵抗できず…
『ちょっ、叔母様、まっ、待ってええぇぇっ!!』
引っ張られるように本宅のメインホールに連れて行かれる。
『イヤァァッァアア!無理無理無理ぃいいいっ!!』
ホールに通じる扉の前にはこれまた妙齢の執事が待機しており、私の姿を見た執事は「ほほぅ、これはこれは…」とか言ってる。
「みな集まってる?」と言う叔母に「恙無く」と簡潔に応え、後ろ手にゆっくりと扉を開いた。
(ちょっとまっ!)
ゆっくりと開く扉と対照に、私は自分の顔を両の手で隠す。
「ほほぅ、これはまた…」と叔父。
「わぁー、おねえちゃん、すっごい綺麗!」とイヴ。
「フィルお姉様!とても美しいです!」とオーレン。
「いつぞやに見た泉の妖精にも負けぬな。美しいぞフィルよ。」とシロ。
三人と一匹は四様に感嘆を私に投げ、それを見た叔母は誇ったような顔で「一つ、願いが叶ったわぁ。」と嬉しそうに言う。
何処となく顔が艶めいて見えるのは気のせいか?
一人声の主が足りないと思い、ホールを眺めると硬直してる姿が一つ。
「 」
固まったまま動かないカイルにゆっくりと近づく。
というよりゆっくり歩かないと転ぶ。
『いい加減何かを言ってほしいんだけど…?』
何とか転ばずカイルの目の前に立ち、その額を人差し指で突付く。
「お、ま…か、かわ……あぁぁぁあああっ!!」
突如奇声を発したカイルはそのまま脱兎の如く本宅の玄関に走る。
いつの間にか玄関の両脇に立っていた二人の執事がそれに合わせるように扉を開いた。
障害物が無くなり、夜の王都にその姿を消した。
『あー…バカ。』
(一番恥ずかしいの私なんですけど…?)
「あらあら?」
半分呆れたような顔で、叔母が私に言う。
「追いかける?」
『無理です。』
「そうよねぇ~」
指をパチンと鳴らすと、先ほどホールの扉の前に居た執事が「お連れして参ります。」と姿を消した。
「ナイト君には少し刺激が強かったかしら?」
と叔母は悪戯をするような笑みを浮かべている。
感想、要望、質問なんでも感謝します!
カイル君苛めは楽しい(ぁ
次回もお楽しみに!




