272話 歴史を造る疲労
272話目投稿します。
日々の復興で多くの人がそれぞれの想いを積み重ねていく。
『ゴメン、これも頼めるかな?』
私の自室兼執務室に置かれたそこそこ大きく頑丈な執務机。
今この机を使用しているのはセルストの言葉通り、彼が行った治療と少しの時間を掛けて回復となった私の友人であり、王都での出会いからこっち、ずっと私の面倒を見てくれていたヘルトだ。
まだ完全回復とは言えないが、目覚めた直後からこの町の状況を知った彼女が大人しく出来るわけもなく、どうしてもと言う彼女を止める決定的な理由を挙げる事もままならず、それなら、と体をあまり動かさずとも出来る事、主に書類仕事なわけだが…それをお願いしている次第だ。
「北側区画の一次作業はどうですか?」
『うん、ヘルトが手伝ってくれるのもあって順調。完全じゃなくても一先ずの修復は…多分明日にでも終わるってとこかな。』
地震の直後、この手の話、相談が出来る主要な人物、主に挙げればマリーやリアンではあるが、両人共に今は地方、其々の故郷とも言える地域を含めた被害の確認に出ている。
建造物の修繕についてなら、実際に作業にあたっている者たちに話をすれば問題ないが、全体的な町の復興の優先度などを考えるには私一人では限界が目に見えている。
無理をして仕事をこなす彼女には頭が上がらない。
それでも嬉しそうに仕事を熟す理由の一つ。
「では、フィル様、私が回復するまでの間、このお部屋に寝泊まりさせてくださいませ。」
と数日前、口にしたソレが彼女の譲歩だと言うことだ。
その程度で満足してくれるなら安い物だが、
そのままの言葉で返事をした際に何故か少々不機嫌に見えた理由はついぞ私にはわからなかった。
ヘルトとの相談を踏まえて、北側区画の次は東側区画、大半が農地となっている区画の修繕となった。
主な理由は二つ。
まず復興作業としての建物に関する修繕箇所の少なさ。
次に東の区画はこの町の食料、薬草の類と言った作物の栽培を行っているところ。
後者に関しては、地震によっての被害有無の確認が主だったところで、実際は普段から就いているエルフ族たちに任せておけば問題が起こったりもないだろうけど、この状況下で放ったらかしというわけにも行かない。
彼らに任せるとしても不安の素は少ないにこしたことはないのだ。
「特に重たい被害報告があがってないのでえれば、エルフ族の方々にお任せしてしまって大丈夫でしょう。ただし…」
彼らにも寝泊まりする家は必要で、この区画の主だった作業は彼らの住居の修繕が殆どだろう。
実際のところ、彼らエルフ族には、私たちが寝泊まりしているような一般的な住居に対しての欲が薄い。
家が無ければ木の上でも、その根元でも、とにかく家がなくても平気そうではあるが、やはり家の有無での生活水準の違いは大きいもので、生産を彼らに任せっきりにするにしても環境の整備をしっかり行う事でお互いの安心に繋がるのは明らかだ。
『そうだね。彼らの仕事は地道に続けてもらう事に意味がある。畑の雑草はこまめに抜かなきゃいけないのと同じ…』
そうして始まった東区画の作業。
私が建造物の修繕手伝い以外にも、野良仕事の手伝いを行い泥だらけになる日々が続く事になったのは言うまでもなく。
マリーたち相談役の不在だけでなく、ガラティアやグリオス、カイルや父といった体力自慢の面々の帰還を願ったのはこれまた言うまでもない事実だ。
それでも現場作業に専念できたのは間違いなくヘルトのおかげだ。
「フィル様…あまりご無理をしてはいけませんよ?」
この数日間、彼女の要望から、同じ床に着く中、心配そうに声をかけるヘルトに『大丈夫だ』と答えるのも習慣染みてきた気がする。
『北側区画の作業してた時にさ、皆が言ってくれたんだ。毎日毎日、私が顔を見せてくれるのが一番の力になるって。』
何だかんだと計画を練って彼らに指示を出すというのも確かに大事な事だろう。
でもそんな事に私が力を注がなくても、作業員を始め、この町の者たちは自ずと動くだろう。
そんな事よりも皆と顔を合わせ、言葉を交わし、見守るだけでも役に立っているなら私がへとへとになる意味はあるはずだ。
そして、ソレは復興作業そのものだけじゃなく、地震を経てそれでも日々の生活を送る糧になるなら、それは私にとっても同様だ。
言葉通り、互いの手を取って眠りにつく。
そんな些細な安心を感じるように、この先も町で暮らす者たちに安心を与えられるなら、皆と共に過ごす生活も、この疲れも心地よい物。満たされた暮らし、といったところだろう。
近いうち、この町以外の土地、地域で出た被害も明らかになっていくだろう。
この町の価値、災害に強い町として、技術も、気持ちも強くなる事はきっと、国の防衛の要としての役割を担う都市として大きく前進するはずだ。
地震による災害は確かに辛い、悲しい出来事として刻まれる事となったが、私たちはきっとこの先も多くの事象を乗り越えて進んでいける。
その積み重ねが後の世に受け継がれて歴史を作るのだ。
『この疲れも無駄じゃないんだよ、きっとね。』
そう思いながら明日へと繋がる眠りに落ちた。
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外から齎される情報は、この町の在り方を決定付ける分岐にもなりうる。
次回もお楽しみに!