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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第八章 消える星空
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271話 屈託と安らぎの笑み

271話目投稿します。


食べ物じゃなくても、眠りでなくても、体の活力を生み出す物がある。

犠牲者の葬儀は簡潔に執り行なわれ、落ち着く間もなく其々主だった者は各地へと旅立ち、まだ若干の混乱と不安を抱えながらも、流れる時間を無碍にする余裕は無く、それでも町に残った者たちは焼け落ちた、或いは崩れた建物の再建に奔走する。

多分、皆また地震が起こったら?といった恐怖を日々の忙しさで覆いながら目を逸らしているのだ。


こんな時こそしっかりしなくてはならない。


どれだけ疲れても、悲しくても、少しずつでいい。

自分に今出来る事。

そして皆が安心できるように…。

『よし…一先ず生産区画からって事で、皆、頑張っていこう!』

先の戦でも使った会議室、テーブルの上にはこの町の図面が拡げられ、特に被害が大きい北側一帯の再建を足掛かりに復興の始まりとなった。


残された資材、備蓄の食料、幸いにも後者は火災に見舞われる事もなく、当面の生活に支障がでるような事もなさそうで、これには胸を撫で下ろす形だ。

しかし、余力はあっても油断は出来ない。

各地に散った者たちは、状況次第で新たな住民を連れ戻る可能性もある。

そうなれば、この備蓄状況でどこまで涼しい顔をしていられるか、分かったものではない。


作業そのものの指示は私が出さなくても大丈夫そうで助かる。

会議室に集まった職人、作業員たちが地震を始めとする災害が再発する事も踏まえた上で新しく記す図面。

技術も知識も乏しい私が口出し出来るとしたら、皆の過ごしやすい、住みやすい、笑顔でいられるような、そんな町並みがもう一度見られればそれで良い。




「フィルさまー!」

『おっと!』

町の北側から始める事とした復興計画。

手作業に於いては大して力になれなくても現場では指示や意見を求められる事も多く、顔を出さない訳にもいかない。

そんなこんなで中央広場から南側にある自室からここ数日間は朝から出向くようにしているわけだが、その途中、中央から少し進んだ道すがら日中子供を預かって面倒を見る施設、保育所がある。

以前からもそれなりに訪れてはいたものの、この数日は現場に向かう途中で保育所を覗いていくのも習慣になっている。

『みんな、今日も元気だね。』

「あ!、フィルさまだ!」

「ねぇねぇ、次はいつ遊んでくれる?」

『うーん…すぐには難しいかなぁ〜』

「えー!」

「だめでしょ?フィル様は忙しいんだよー」

『ふふ、もう少ししたら北側も一段落するから、それまで我慢できる?』

「うん、がまんできるよ!」

「何して遊ぶか、みんなできめとくからね!絶対だよ?」

『分かった。約束だね。』


無邪気なやりとりは見て触れて、私の癒しの一つだ。

子供たちの笑顔のためなら何だって出来そうな気がしてくる。

疲れも吹っ飛ぶとは良く言ったもので、本当にそう感じるから不思議だ。


「見てるだけで元気になりますよね。」

遊び場に戻っていった子供たちを眺めながら一息付く私に声をかけてきたのは、保育所で働く女性だ。

子供相手は疲れはするが、楽しそうな彼らの姿が一番の活力なのだ、と言う。

『そうだね。あの子達が無事で本当に良かった。』

被害報告の中で、怪我をした幼子は居たがいずれも命に別状がある子供は居なかった。

「命を懸けて護ったあの人もきっと喜んでるでしょう。」

『あ…』

言われて気付いた。

己の家族を護って命を落とした兵士、彼女はまさにその妻として顔を合わせた。

そして走り回る子供たちの中、少し立ち止まってこちらに手を振る女の子、それが彼女の娘だ。

「私と娘、あの人が命を懸けて護った命、私はその想いに答えたくて、ここに勤める事にしたんです。」

そう話す彼女の横顔は、優しさと強さを兼ね備えた、芯の通っている眼差し。


以前、戰場で目にした男。

今となってはその覇気、威圧感を感じる事はある意味で難しいだろうが、あの目にも負けないと思える程の強さが彼女から感じられ、そんな強さも絶対に間違いじゃないと改めて思うと同時に、自分はまだまだだな、と苦笑する。




保育所での習慣を終えて今現在の復興作業の現場へと向かう。

やはり現場作業で私が手出しできることはそれ程多くもなく、私としては足手まといではないか?と思わなくもないが、

「フィル様が顔を見せてくれるだけでも俺たちは嬉しいんですよ。元気がでる。」

と。

少なくとも彼らにとっては、私の存在が、私でや保育所の彼女の言うところの子供たちの笑顔と同様なのだろう。

この先もそう在れるように居たいものだ。


『ふう…』

その日の作業も問題なく終わり、私としてはそれなりに疲れた体をベッドに投じる。

バフっと音を上げて私の体を包み込む柔らかな寝床。

目を閉じればそのまま明日の朝になりそうなもので、何よりも足が楽。

とはいえ、このまま眠ってしまうわけにも行かない。

今この町にはマリーもリアンも居ないのだ。

多くはなくても私にしか出来ない書類仕事が無いわけではない。

『よし!』

と気合を入れ直し名残惜しい柔らかさから脱出。

執務机に拡げられた町の地図、会議室に置かれていた物をこちらに持ってきたわけだが…。

『次は…農地周り…かな…』

気合を入れたところで、押し寄せる疲労は眠気と仲が良いようで…

『む…ぅ…』

首を振って眠気を飛ばすものの…


「相変わらず無理ばかりですね?」


聞き覚えのある優しい声が、私の耳に届く。

「アンタも無理してんじゃん…」

横槍を入れる声はこれまた良く知っている新兵の声だ。

重い瞼を何とか開いて、声のヌシをしっかりと視界に収める。


『あぁ…』


そうだ。

この優しい声は、間違いなく彼女の声だ。

片手に持った杖と、寄り添う新兵、ギリアムに支えてもらいながら、私の部屋、執務室に姿を見せたのは…。


「フィル様、長い暇を頂きました。」


『おかえり…』


睡魔は安堵とも仲が良いらしい。

彼女に向けた言葉を最後に、私の意識は落ちたのだった。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


御付きは優秀過ぎて本気を出せば町中にその片鱗を及ばせるのではないだろうか?


次回もお楽しみに!

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