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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第八章 消える星空
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269話 平常を奪うモノ

269話目投稿します。


指導者として災害に対して行うべきは、人々の安寧。

渦に投げ入れる一石が、その心に届くように。

暴れ馬に乗っているような振動が町を襲う。

あくまで自分の感じ取れる範囲での事だ。

集中すれば町を覆う結界の範囲まで感知する事も可能だろうが、今は見なくても分かる、目に映る災害に対処する方が重要。


建物の中から飛び出してきた者たちの中には激しい揺れに拠って立ち上がる事すらままならない者も見受けられる。

それ程に大規模な揺れだ。

私自身もこの揺れの最中、地に足を付けていてはろくに身動きが取れないと、咄嗟に身に着けた装具を起動させた。


間を置かず中に浮かんだ私の体は大地の揺らぎから解放される事となったがのんびりしている場合ではない。

手近な者に近づき安否を確認する。

『規模が酷い、出来るだけ建物から離れて町の中央へ!』

出来るだけでいい、互いに助け合って、声を掛けて避難するように指示しつつ文字通り町中を飛び回る。


会議室が設けられた建物は町の中でも割かし住民の多くが寝泊まりしている区画に近い。

まだ日の高い今の時間にここに居る者たちの殆どは作業員または軍属に身を置いている者の家族だ。

数はそれ程多いわけではないし、そうであっても互いに町の建造、発展に携わる者が殆どで、幼子が居たとしても仕事の間は専門の施設に子供を預けていたりといった具合。

ソレにしても、利便性を踏まえて町の中央からほど近い場所に建てさせた。

避難する方向として上手く機能してくれる事を祈るばかりだ。


最初に避難指示を頼んだマリーは軍関連の施設が多く並ぶ町の南側に向かった。

彼女の事だ、私同様に合間合間で道行く者たちにも指示を出してくれているだろう。

となれば、私は町の北側、生産施設が軒を連ねる区画を目指して回るのが良いだろう。


「フィル!」

低空で移動する私を強めの呼び掛けをするのは…成程、彼女ならある程度の揺れにも耐性があるわけだ。

幼い頃から生活の傍らに船があるような暮らしをしていたはずのガラティア。

その人生の中で大時化の海に乗り出したことも多かったのだろう。

『ガラ、貴女は平気?』

「ああ!、アタシたち西の衆はこれくらいどうってこと無いさ。」

頼もしいかぎりだ。

返す刀で求める指示も避難を的確に行うための情報の摺合せ。

『助かる!、私はこのまま声を掛けながら北側に向かう。ガラは人手集めて東西の住宅区に逃げ遅れてる人が居ないかお願い。今日は扉開けるのに手加減しなくていいよ!』

笑っていられる状況ではないのは互いに分かっているが、私はガラティアの頼もしさに、ガラティアは私の言葉から建物より人命が優先だ、と受け取って、笑顔を交わし即座に別方向へと散った。




生産区画、町の生活を支え、発展に直結する施設が多く立ち並ぶ一画は、ヴェルンの工房を始め、木材加工、紡績や革製品の加工から生活における日常品、食料の流通など彩り豊かな賑を見せてくれる区画だ。

いつもは一日中賑やかで毎日がお祭り騒ぎのような場所は今まさに混乱の渦といっても過言ではない。

その施設柄、火を扱う事も多く、今はそれが一番の被害を加速させる原因になってしまっている。

いくつかの建屋からは火の手が上がり、慌てふためき避難する者も居れば何とか鎮火させるために動いている者たち、いずれにしても地震が収まらない状況で混乱が膨らむばかり。


『水系ってそんなに得意じゃないんだけどな…』

そうも言ってられない。

低空から高度を上げて、近隣の建物より高い位置に昇る。

『一先ず、皆を落ち着かせるためにも!』

両手を広げ、意識を集中。

周囲の空間に雨雲を生み出すような…。

意思に呼応して手の平から生まれた水の塊を徐々に大きく、出来るだけ迅速に!

合わせて頭上に作り上げた水の塊を、更に上空で練り上げこの区画を覆える程に膨張させ、一気に解き放つ!


弾けた水塊は、猛烈な雨のような勢いで一画に降り注ぎ、一部、混乱に支配されていた者たちを我に返させる事に成功。

『皆、慌てては駄目だ!、周りを見て、身動き取れない人が居たら手を貸して、まずは避難を優先して!』

町の中央へ、と誘導。

多くの人たちは私の言葉に頷き、先程の混乱から比べて動きに一貫性が見え始める。

「フィル様!、まだ鎮火しきれてねぇんだ、このままだと多くが燃えちまう!」

一見怪我もなく消火作業にあたっていた数名が大声で叫ぶ。

『分かってる!私も手伝うから、余力がある人は力を貸して!』


この言葉は後にしてみれば少々失敗した、という結果になる。

避難を優先して欲しかったのだが、職人気質が犇めくこの区画は、思った以上に手伝いに名を上げる者が多すぎた。




「嬢ちゃん、お疲れ様だったなぁ?」

消火作業も一段落ついたところ、他の者と同様に腰を落とす私に声をかけてきたのは、この町きっての鍛冶職人ヴェルンだ。

彼はその腕も相俟って生産区画の取り纏め役といった立場なのだ、と後に知った。


ともあれ、そうこうと消火作業を行っているうちにいつの間にか地震も収まったようで、大きな被害とならなかった建物を眺める顔ぶれは、いずれも安堵を噛みしめるかのような笑顔だった。


『ヴェルンさんの工房は無事?』

「ワシの城は地震なんか屁でもないさ。カアチャンの雷の方がよっぽどだわ。」

彼の言うカアチャンは、今も尚、東の地オスタングに暮らしているらしいが、近々こちらに移り住む予定だったそうだ。

『オスタングか…あっちは大丈夫だったのかな…。』


私が正確に感知できるのは結界に覆われたこの町の周囲までだ。

今回の地震は恐らくこの周辺だけじゃない。

王都を始め、王国全土を震撼させたに違いない。

オスト山脈の一部を削り取って作られたオスタングの町、心配なのは東の地だけではないが、恐らく王国全土に渡る大地震で一番被害があるとすれば間違いなくあの町だろう…。

「ううむ…オスタングのワシの家もそう簡単に潰れるような造りじゃないが、ソレだけ心配してもな…皆無事だとよいが…」




一旦の落ち着きを取り戻した町。

改めて住民には、町の中央へ招集を掛ける。

『まずは被害の確認…外に向かうのはその後だ。』

揺れが収まったはずなのだが、足取りは重く、未だに大地が揺れているような感じ。

中に浮いていた分、他の者に比べれば疲労は少ないはずなのに、思ったより魔力を消耗しただろうか?


私の視界は未だに揺れていた。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


目に見える争いに比べればあまりにも無慈悲。

そこには何者の意思もなく、成し遂げる物もありはしない。


次回もお楽しみに!

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