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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第八章 消える星空
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267話 揺れる不安

267話目投稿します。


日常に感じるふとした出来事。

今の自分に在るモノが何なのか、それは容易く失われてしまうかもしれないモノだ。

「医療施設…とは言ったものの、実際に直面してみると確かに困りものですね。」

私の中でもかなりの物知りと思っているリアンとマリー。

呟いたのはリアンだ。


土地は用意できたとして、実際に必要な設備として思い当たるのはベッド程度しか浮ばない。

2人をしても医療施設というのはそこまで詳しくはないらしい。

というのも、そもそも一般的に医者という存在そのものがこの国には少ない。

「薬師の方が多いのは間違いないでしょうね。」

指折り数える医師の数と、薬師の数。

どうしてこんな困り事になってしまっているのか?

そもそも人や家畜、何らかの事故で負った傷であれば、多いとは言えなくても治癒術師と称される魔術士が居るというのが私たちの一般常識で、薬師に於いても、傷からの感染を防ぐための飲み薬や、寒い季節に体調を崩さぬように予防薬を配り回る程度。


各町にある診療所といっても、そこに務めるものは、怪我人の介護を主とする介護士や、先のような薬を調剤する薬師、そして怪我そのものを治療する魔術士と言ったところだろうか?

『うーん…ひとまずは診療所みたいな感じで作ればいいのかしら?』

「そうですね。専門家がここに居ない以上、知っている範囲で作るしかないですね。」




予定地に訪れ、作業員を交えてあれやこれや。

父によって仕込まれた作業員は、父が不在となっている今でもすでにその作業速度は尋常じゃないところまで鍛えられているようで、ああでもないこうでもないと図面や資材班をも巻き込み、三日も掛からずその建造物がある程度の形を成す。


「資材班、あとはヴェルン氏の手も借りられたので、しっかりとした治療台、ベッドの用意もできました。」

「後は薬師用の部屋や、実際に務める者たちの場所でしょうか?」


知見が多いと思っていた2人のやり取りを少し離れたところで眺め、建物の完成に向けて作業に勤しむ者たち、資材を運搬する者。

それぞれの動きを見ていて、ふと思う。


『魔力が無くなったら、私たちはどうなるんだろう?』


各々が有する魔力、その強さの大小はあっても、どんな者にも魔力の元となる力は在る者で、私たちは生まれながらにして、その恩恵を受けている。

それがこの世界のカタチ。

それがこの世界の当たり前。

でも、セルストとの邂逅で得た知識は、極論を言えばこの世界に在る秤を揺らしているのは私たち人だという事。

そこから溢れた力を源にするモノが私たち人が言う災害。厄災、天災といったモノだ。

もし、私たちにどうにもできない災害によって、この世界そのものが根底から変化したとしたら?

当たり前に在ったモノが無くなったとしたらどうなるだろう?


重そうな資材を運ぶ屈強な作業者。

彼らの全てが魔力が弱いというわけではないが、少なくとも日々の鍛錬によって培われた肉体は、私などに比べれば相当なモノだ。

対して、今の私から魔力が無くなったとしたら、刃を浮かせる事も、この身を守る事も、空を飛ぶ事も出来なくなるだろう。

旅の中で多少なりともシロやカイル。王都ではオーレンの鍛錬に付き合う事もあったが、あくまで最低限のモノだ。たかが痴れている。


『マリーさんは剣術とかもそれなりに扱えましたよね?』

「え?何です?突然に…いやまぁ、人並みに、と言いますか東軍の基礎訓練で習慣になっている程度には扱える、と思ってますが…」

まったくもって今の作業と無関係な問いに驚くマリーだが、東軍としての組織が一旦の消失となって明確な軍務規定のようなものが無くなった今でも習慣となっていた鍛錬は続けているらしい。

「日々の鍛錬は裏切らない、とは良く言ったモノで、それは武芸だけではありませんよ。」

と身振り手振りで料理をするような動きを見せるリアン。

『まぁ…そうか、料理なんかもいつも作ってる人ほど上手だよね。』

頷くリアンと、それに同意するマリー。

「突然どうしたんです?」


『ううん、何でもないよ。皆凄いなって。』

キョトンとする2人だったが、それでもそれに対しての返事は、

「フィル様の方が凄いと思ってますよ?。私は。」

『…うん。ありがとう。』


他意は無い。

皆が慕ってくれているのは解る。

それでも不安に思ってしまう。

2人の言うように、今私と共にある人たちは、この世界の根底が覆るような出来事の先、変わらず私と共に在ってくれるだろうか?、と。




『もし、もしも魔力がなくなってしまった世界は、セルストやグリオス様、ガラティアやカイルみたいな人たちが統べるような世界になるのかな?』

鍛え上げた肉体、単純にその手から放たれる力が全てといったモノが覇権を競う…そんな世界になるのだろうか?

魔術士、魔導士と言われる者たちはどうなるのだろうか?

彼らはまだそれを身につける為に学んだ知識がある。

私は…母や叔母に少し学んだ程度のモノしか持ち合わせていない。


この身に宿る竜の力、魔力すら無くなれば私には何も残らないのではないだろうか?




もしそんな世界が迫っているのだとしたら、失われる前に…考えたくもない争いが生まれるのだろうか?


『借り物の力、こんなに不安を感じるなんて…少し、怖い。』

色んな事が起こり過ぎている。

不安を遮るように潜り込んだベッドで、今日もまた眠れそうにない夜を過ごす。

感想、要望、質問なんでも感謝します!


眠れない夜は続く。

安心して眠れるための温もりは、今このベッドから感じる事はできない。


次回もお楽しみに!

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