265話 旅路を記す
265話目投稿します。
遺跡を巡る地図上で紡がれる旅の記録。
良し悪しの思い出となる事も、また沢山あった。これからも…
ノザンリィの遺跡について旅の前に何らかの話が行われているとしたら…その場に居た者は誰だろうか?
少なくとも発掘の切欠となった私はその場に居なかった。
だとすれば、メアリかセルヴァンがその場に居た可能性は高い。
2人からあの時の話を聞ければ新しい何かが掴めるかもしれないが、現状今すぐにそれは難しい。
『どうせなら会議の後に出発させればよかった…』
先日この町から王都へ向けて出発したカイル、そして同行する形で一旦故郷に戻ると言った両親。
2人に伝言でも頼めば、戻って来た時に確認が取れたのだが、もはやそれも遅い。
いずれにせよ、オスト山脈の火口はともかくとして、エルフの集落にあった遺跡については叔父も記憶していた事には間違いない。
だからこそ、私が初めてオスタングに向かう前にあの集落に立ち寄らせたのだ。
「記憶を辿った限りでは、あの遺跡という代物は力を均一化させるための装置だ。」
『結局、私が火口で遺跡に触れた後、火山活動は治まったの?』
マリーとグリオスに視線を向けて確認する。
あの時、遺跡に触れた直後、それが及ぼした結果を私は知らない。
時を越えて戻った時には、すでに東の地の火山活動は沈静化していたからだ。
「ええ、あの火竜討伐の行軍後、フィル様が行方不明となってから徐々に火山活動は緩やかになっていきました。」
当初は私が犠牲となってしまった、とまで考えられていた結果は、火山の沈静化を大手を振って喜ぶ事もできず、カイルを始めとする関係者は私の遺体が見つからない事に一縷の希望を残して日々探索に明け暮れていたそうだ。
それについてはカイルやマリー、グリオスだけでなく大勢に多大な迷惑を掛けてしまった。
「何故、件の遺跡が貴様の存在に反応するかは竜の力、魂とは別物だ。少なくともベリズを継承する前に二つ触れている事からも実例がある。」
遺跡に関する私の旅程の中で起こった事実からセルストが断言するのは確かに現実としてその通りだと思う。
「火山より前にエルフの遺跡に立ち寄っているはずだな?」
地図の上に指を落し、エルフの森が拡がる辺りを指し示し、ノザンリィに描かれた物と同様に円が記される。
オスト山脈の火山がある付近も同様だ。
遺跡の及ぼす力は、私たちにとって都合のいい、解りやすい意味合いをつけるとすれば、自然災害を鎮める、もしくは先延ばしにするための力。
そう考えれば、西の海に発生していたアヴェストの喉という自然現象の消滅はそれに関係があると言えるのかもしれない。
ただ、アレに関してはまた別の力が作用していたとも考えられる。
私とカイル、シロは、西の海、ヴェスタリスから更に西方の海域でとても稀な現象に遭遇、そして出会いと再会を経験している。
あの影響で一時的にアヴェストの喉が静まり、海底にある遺跡へと辿り着く事ができた。
とはいえ、あんな不思議な力、空間、出来事の事など推測、憶測の域を超えない。
実際の関連性すら怪しいところなのだが…。
「海底洞窟とやらの遺跡については大体の位置しかわからんが…」
セルストの肩越しにガラティアが手を伸ばす。
「アヴェストの喉が在ったのはここだ。アタシは何度かあそこを行き来したんでな、掛かった時間で考えれば…」
そう言って示した位置に丸印を描く。
「船旅に慣れているのであれば大きく違う事はあるまい。」
うむ、とここはセルストも納得する。
「へへ、アンタに褒められるとはな。」
「別に褒めたわけではないが…。」
何だかんだと仲良くも見えるが、武人という点に於いては2人の親近感というか価値観の近い物があるのかもしれない。
『これで四つ目。』
更にここ、この町の建設を始めてから発見された例の湖畔。
その地下に眠っていた遺跡が追加される。
『でも、あの湖に関しては、他と何か違うような気もするんだよね…。』
結界のようなもの。
海底洞窟でカイルの身に降り掛かった症状と同様のモノはあそこにも在った。
しかし、私の慣れも若干ありはすれど、意識を全て持っていかれるような現象もなく、今までの遺跡に在ったようなあの光景もはっきりと覚えている感じでもない。
「あそこに台座のような物があったな?」
ここにいる面々の中で、実際にあの湖底に足を踏み入れた事があるのは、私とセルストだけだ。
最初に訪れた際の私を除く残りの当事者、ヘルトとギリアムは今も尚、あの湖の近くに居る。
「現状では何とも言えぬが…もしかしたら…」
考え込み、自虐的に少し笑うセルスト。
『何か思い当たる事でも?』
「いや、我ながら、誰か他者を頼りにするのも考えてみれば記憶に久しい事だ、とな。」
セルストが言う他者。
それは、湖底にてセルストが治療を施した相手。
己の妹であるヘルトの事だという。
「貴様は遺跡に触れた時、何か変わった体験をしている、と言ったな?」
確実とは言えないが、と前置き。
「ヘルトが動けない間にそれに近しい経験をしているとすれば…」
『何かわかるかもしれない、と?』
「我ながら、一縷の可能性を頼るなど、あまり無いのだがな。」
そう言い残して、セルストは席を立った。
彼の予想では、ヘルトの治療が完了するのは今しばらくの時間が必要だという事。
そして、まだ見ぬ同様の建造物が己が統治する地にあるかもしれない、と。
一路、スナントの地に戻る流れとなった。
会議という名の情報交換から一日を空けて、翌日の帰還の予定となったその夜。
私の自室にセルストが訪れた。
「案外、貴様と個別に話す時間もあまり無かったのでな。」
以前の威圧感は殆ど感じないものの、どうしてもセルストと顔を合わせると体が身構えてしまう。
そんな様子すらお見通しのセルストは、少し嬉しそうに笑う。
『…あ…えっと…どうぞ?』
相変わらず私の身の回りの世話をしてくれるリアンだったが、相変わらずの察しの良さで、接客用の飲み物の準備だけ手早く済ませ、こちらが言うまでもなく退室してくれた。
私の緊張を余所に、然して警戒している様子を見せないリアンの行動は、私にとっても安心できる理由の一つだ。
「俺が言うのもお門違いなのかもしれんが、一つ頼まれてほしい事がある。」
用意されたお茶で一旦の間を空けてから、セルストの口から出た言葉がソレだった。
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誰かを頼る事が久しい、と言った。
そんな男が直接伝えようとしているのは何事か?
次回もお楽しみに!