25話 夕暮れの絵画
25話目投稿します。
王都の暮らしにはまだまだたくさんの発見や感動があるようです。
めぐり合う人もまた同様に。
某スマホゲーを削除したので執筆の時間がかなり増えました。嬉しい。
「スタットロード家所属冒険者カイル、主用からの戻りです。」
事務的な発言にまだ慣れない様子もあるカイルが【水門】の受付で手続きを取り、私もそれに倣うように、
『同じく別宅からの一次戻りです。』
名は?と聞かれ慌てて付け足す。
『フィル。フィル=スタット。親族です。』
ここに来て何度目かのやり取りに私たちを覚えてくれていたのか、衛兵は「決まり事だが手間を掛けてしまってすまないね。」と笑う。
『いえいえ、お勤めご苦労さまです。』
水門というのは王都の下層と上層を繋ぐ要所で都市の四方に設けられた監視施設だ。真っ当な手段であればここを抜けないと両所の行き来は出来ない。
その名の由来は両所の通行方法からとっているものだ。
上層部から絶え間なく流れる数本の滝を、魔力を介して動く昇降装置で繋ぎ、王城を中心として円を描くように6箇所に設置されているものを称して付けられている。
装置の操作は叔父や叔母からすると難しいものではないらしいが、この施設にも当然担う者が常駐している。
不思議な事に全て女性という事らしいが、その理由は謎だ。
本宅は城から大凡北西側に位置しているので私とカイルが行き来する際は研究所や別宅から程近い西の水門を抜けたあと、北西の昇降装置までゆっくり散歩しながら向かうというのが習慣になりつつある。
四方の水門の内側は上層の外縁に合わせた円環型の遊歩道としても整備されていて王都にきてからの私のお気に入りの場所でもある。
『…綺麗。』
「いつも言ってる。」
軽い言葉を交わして顔を見れば互いに笑い合う。
場所だけでなく、この時間も私としては楽しみな物だ。
いつものやりとりを起点に近況を互いに話していると、つい3ヶ月程前の日常と大きく異なるにも拘らず、ずっとこうして暮らしているような既視感すら感じてしまうのは何故だろうか?
西日に照らされた空中都市と、流れる滝に乱反射するその風景から醸し出される安らぎがそう感じさせるのか、ふと研究所にそういった建築などを専門としている所があったのを思い出し、今度話を聞いてみよう、と留めておく。
「俺は専らシロとの修行が殆ど。たまにオーレンとイヴの送り迎え頼まれたりレオネシア様の荷物持ちとか頼まれてるよ。」
本宅を出る時にイヴの事は当然気にかけてはいたが、私に取っては今までの暮らしと身分的に大きく異なるカイルの心配もしていたのだが存外上手くやっているようで安堵する。
『私は…そうだなぁ、毎日読書は相変わらずだけど、研究所の色んな人の話を聞くのが楽しいかな?』
「領主…アイン様はどうしてる?」
研究所の責任者であるアイン=スタットロードは今まで私が描いていた予想とまるで正反対な程に多忙な様で、研究所でその姿を見ること自体が稀な程だ。
『ん―――、正直研究所ではあまり見かけないんだよね。忙しいみたいで最近はよくコッチ側の役人と何かやってるみたい。』
「コッチ側」というのは水門の内側や上層区画、もしくは施政者や王族などを指す韻語ではあるが、その言葉もある程度自由に内外を行き来できる者が使う物だ。
すれ違う衛兵さんと軽く挨拶を交わしながら昇降装置に向かって歩く。
装置が見えてきた辺りでふいにカイルが私の肩を掴んで引き寄せた。
『えっ?』
突然の事に体制を崩した私はカイルの胸に体を預ける形になってしまった。
何事かと、問おうとした直前、私の立っていた場所に何かが落ちてきた。
「シロ、少し悪質だぞー?。フィル、大丈夫か?」
すっ、と体を離し私の様子を伺うカイル。
あまりに突然、かつ予想外の「結果」に少しの混乱と顔の赤らみを自覚する。
『ん…う、ん。だ、大丈夫。』
「油断大敵という言葉もあるんじゃ。まぁ及第点じゃな。」とシロが悪態を付く。
『シーローー?』
カイルが言う通り、その行動に多少なり憤慨した私は指先に少しのひりつきを感じながらもその頬辺りの肉を両手で引っ張った。
「なにするんじゃ!」と反論するシロに、『それはこっちの台詞だ』、と言い返した。
流れ落ちる滝を背にしてゆっくりと動き出す昇降装置の浮き上がるような感覚にはまだ慣れないが、夕暮れの景色の中で高く、高くなるにつれ差し込む西日に少し視界を遮られるが、広がる景色には心を奪われる。
『綺麗…』
ついつい口から零れた言葉に、昇降装置の係員が操作盤の操作を終え傍らに立つ。
「ありがとう御座います。フィル様。」
名を呼ばれたことに少し驚き、改めて係員の姿を見る。
歳は私と同じくらいだろうか?
声をかけられる前まではあまり気にも止めていなかった自分が少しだけ嫌にも思ったが、目の前に立つ少女はさして気にするでもなく私の様子に少し首を傾げる。
『あ、あの私の名前…それにお礼?』
少々戸惑う私にカイルが声を掛けてきた。
「彼女はパーシィって言うんだよ。ここの係員さんで、もう5年くらいやってるんだってさ。」
と彼女を私に紹介すると共にパーシィと呼ばれた少女に軽く手を上げて「よっ!」と挨拶をする。
コクリと頷いて応えたパーシィさんは改めて私に向き直り、片手で服の裾を少し上げ頭を下げた。
「ご紹介戴きました、パーシィと申します。お見知りおきくださいませ、フィル様。」
西日に照らされたその姿は絵画と見紛うほどに絵になっていて、ついつい先ほどと同じ言葉が口から漏れた。
『…綺麗。』
感想、要望、質問なんでも感謝します!
新しい出会いは友人となりうるか、果たして?
次回は次回で急展開?
次回もお楽しみに!




