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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第八章 消える星空
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262話 世界の事象と事実

262話目投稿します。


争いの相手はおおよそ想像しえない知識を有する者

坑道を潜り抜けた先、広くなった空間は外に比べればそこまで明るくはないものの、水を通して照らされる陽の光と、この空間を形作る石が発する淡い光に包まれ、独特の雰囲気を醸し出している。


『こっちだよ。』

それなりに広い空間には遮蔽物などは存在せず、普通であれば遠くまで見渡せて然りのはずが、これまた独特な霧のような物に依る視界の悪さが混在している。


先導する私に迷いはない。

向かう先は私が他数名と共に安置した物故だ。


「っつ!」

程なく辿り着いた目的地。

安置されたソレを見たギリアムが息を呑む。

短い間とはいえ、共にこの場所を訪れた者の認め難い姿を目にしたのだ。

彼の若さも考えれば当然の事だろう。


「ヘルトフィア…これは古代の呪法か。」


『えっ?』

迷いも戸惑いもなく石化したヘルトに触れ確かめるように呟いたセルスト。

『セルスト卿、この石化の原因が解ると?』

「貴様も同じ知識を持っているのではないのか?、かの火竜から得ていないのか?」

古代の、と言った。

それが本当なら、セルストが打ち取った竜、蒼龍からその知識を得ているなら、当然私にも同じ物があって然るべきのはずなのだけれど、残念ながらそんな知識も記憶も私の中には無い。


考え込む私を流し見て男は呆れたように溜息をついた。

「つまり、貴様は遺産を得たものの、有意義な利用法すら得てない、と。」

『あ…はい。そうみたい、です…』




「仕方あるまいな。」

まるで小事のように…いや、彼が持つ知識で言えば実際に大した事ではないのだろう。

「まぁ…方法が分かっていたとしても簡単に実行できないのも事実だが…」

石像のヘルトの額に触れたまま、目を閉じる。


「馴染むまでは時間がかかる。小僧、繰れぐれも俺の行為を無駄にせんようにしっかりと警護するがいい。」


ギリアムを残し、私に視線を送るセルスト。

その足は出口へと歩みを進める。

『ギリアム君、私はセルスト卿と少し話してくるから、しばらく見守っててほしい。』

「あ、はい。了解であります。」




「…半分を置いていく。」

気の所為ではなく、明確に、セルストの中に在った重みのようなものが減っている感覚。

置いた、というのは恐らく…

『魂?』

「アレの治療は魂の補填が必要なのだ。」

単純明快で、困難な方法というのがソレだ。

普通の人であれば他者に分け与えられる魂など持ち合わせては居ない。


『古代の呪法…って…』

「ここの装置は随分と簡素だが、王国の各地には、これに類するモノがあるだろう?、俺より余程詳しいはずだが?」

言葉の節々に違和感があるものの、セルストが言っているのは間違いなく遺跡の事だろう。

『装置?…』

「…本気か?」


いよいよ以てセルストの呆れが苛つきに変わる。




「あの…フィル様。」

『何かな?マリーさん。』

「これ…どういう状況なんですか?」

『えーっと…余りの情けなさに数日前まで互いの命を賭けて戦った相手に説教される時間の始まり?』


ヘルトの警護は改めてギリアムら駐屯兵に委ね、私は苛ついたセルストに腕を引かれ、そのまま町へと戻った次第だ。

当然町の入口ではこの状況に一悶着が起こったのだが、駆け付けたマリーを始めとする主だった者たちに囲まれつつも、争いの意思はないという事で、改めて客人として饗す形が取られた、というわけだが…。


事が事だけに、場は私の自室。

集まったのは私と小声で交わしているマリー、町の警護を取り仕切るグリオス、先の戦闘で先陣を切ったガラティア。

そして腰掛けて目を閉じ、明らかに憤慨している様子のセルスト本人と、その苛つきの対象である私だ。

リアンも警戒しつつ、客人を饗す準備として先程部屋を後にしたところで、そのうち戻って来るだろう。




「この場にいる者は少なからずそちらが遺跡と呼んでいるモノを知っている…と考えて良いのか?」

軽く手を上げて、質問の意を唱えるのはマリーだ。

「私とグリオス様は直接目にした事はありませんが、フィル様から少しだけ聞いた程度…私たちの最寄りで言えばオスト山脈の火口、あとはエルフの直轄地に在ったモノ、それで間違いはありませんか?」

「ああ。そちらの…西のも知っているな?」

マリーに答えつつ、ガラティアにも確認を入れる。

「とある事情で一時は調査隊を見守っていた。」

その調査隊もカイルの治療に関してはさしたる結果に繋がらなかったわけだが…。


「あくまで俺が知るのはその記憶だけだ。実際に触れたのはヘルトが安置されていたあの場が初めて…いや、待てよ?」

少しの熟考を挟むが。

「いや、確信まではいかんか…。」

とりあえずの前置きとして留め、


「あれは一種の装置だ。」

と端的な説明を冒頭に置いた。


『さっきも言ってたね…装置って言われると私が思い浮かぶのは王都の昇降機みたいな物が浮かぶんだけど…そう呼ぶからには何かが出来るって事ですよね?』

頷いて口を開く。

「…確か、オスト山脈は火山活動が起こっていたな?」

私に変わって答えたのはグリオスだ。

「かの火竜の暴走に触発されて起こったものだ、と考えておったのだが、違うのか?」

グリオスの返事と問いに更に頷く。

「むしろ逆だな。」

『というと?』

古代種の一角であったベリズ。

相対した私たちがその暴走を鎮めた、と言うのが本来の形と思っては居たのだが…。

「火山活動に向かうはずの力場をその身に向かわせていたのが火竜だった、という事さ。」


「つまり、私たちが火竜を鎮めてしまったからこそ火山は活性化してしまった…と?」

「然り。」

セルストが断言する言葉に憤慨したのはグリオス。

「ならば火竜を止めるべきではなかったとでも言うのか?貴公は!」

乗り出すその身を抑えたのはマリーだ。

少なからず彼女もセルストの意見に思うところはあるようで、それでも事実の究明が必要な事も理解しているからこそグリオスを押し留めている。


『その力場って何なの?遺跡の意味って…』


私たち人間には知らなければならない事、知らずに居れば知らぬままに安寧に過ごせる事実が多すぎる。

古からの世界に在り続ける事象を…。

感想、要望、質問なんでも感謝します!


必要なのは古の記憶。

己の中にも在るはずの知識に辿り着くには少女の時間は短い。


次回もお楽しみに!

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