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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第八章 消える星空
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259話 終わりの時

259話目投稿します。


和やかなのは日常としては喜ばしいのだが…

暗雲の下、空から放たれた一筋の赤い光。

余りにも細く、少しでも距離を置けば見えない程にか細い閃光。

それでも、その小さな光の筋は一直線に、目標を目掛けて放たれた。


トスっと細さに見合う軽い音を立てて、赤い光がセルストの胸に触れ、その体を貫いた。

「…む。」

強靭な肉体をもつセルストにとっては痛くもなんともないだろう。

もしかしなくとも、コレがもう少し太い光であったとして、彼を打ち倒せるようなモノにはならないだろう。


そもそも私が放った一撃はそういった類の攻撃ではないのだから。


「全然痛くなさそうだぞ?アレ。」

『だろうね。』


身体は。




魔力というのはある意味便利なモノで、例えば眠れない夜に、精神、心に安らぎを与えて安眠を取る。

泣きわめく赤子に触れ、安心を与える。

慌てる者に、涼し気な風の温もりのような感覚を及ぼす。

そう言った精神干渉も魔力を上手く扱えば安寧を得るのも容易い。


私が放ったのは正確にはそう言った例に異なれど、近からず遠からすという類のモノだ。


ありったけの力を込めて、放った私の一撃。

当初はただ打ち倒すためと考えていた。

でも、短くも不思議な中でセルストと交わした意識の奥での出来事がそれを改めさせた。


絶大な力を持つ強者に対して同種のモノで対抗したところでたかが痴れている。

それにきっと、セルストを止める手段で私に出来うるとしたら…そう考えての方法。

彼と違う価値観と生き方を進むなら、自分なりの答えを、返事をぶつけなくては。




「これは…」

体を貫いた赤い光。

それが及ぼす、及ぼした己の中の変化。

『セルスト卿、貴方の一撃は凌いだ。』

着地、そして抱えられていた腕から離れ、己の足を地に着ける。

『…うっ…』

フラリと体が揺れる、が直ぐ様背中に添えられた手で膝をつくには至らない。

しっかり溜めてはいたものの、慣れない系統の力と伴う消耗は想像以上に大きかったようだ。

『そして、私が今できる…貴方に、今の貴方にならきっと通じる攻撃をした。』


私とセルストの中に在る竜の魂。

それ自体には問題ないと思っては居たが、セルストとのやり取りで視た光景、彼の言葉、過ごしてきた歳月。

人の身に比べればあまりに巨大な存在の本能は無意識下で私たちにも影響を及ぼしている。


専門家、というのがどこかに居るのかは分からないが、私も魂について詳しいわけじゃない。

断ち切る方法も分からないが、それでもできる事。

感情の昂りで自分を見失うのなら、その心を鎮める。

そんな力を思いっきり込めて放ったつもりだ。


「魔力で魂の分断を試みる…か。」


軽く笑うその表情は、初めて会った時から感じていた威圧感を纏ったモノと程遠く、探し物を見つけたような、何かを悟ったかのような、落ち着きを宿した物に見えた。




「…興が失せた。という事にしておこう。」

と剣を納めた。

『争いは終わり…と言う事ですか?』

「貴様が打ったコレがいつまで保つかはしらんぞ?」

随分と身勝手に聞こえはするが、逆を言えば私の魔法でセルストの感情が穏やかであるなら、戦いたいという理由だけでの侵攻は無いという事でもある。

定期的にセルストの相手をしなければならない可能性は一先ず無視するとして、安心の理由は出来た。




『…セルスト卿。貴方に会ってほしい者がいます。』


賭けの褒美としてセルストに求めた事。

セルストに会わせたい人、私にとっても大事なその人は、彼にとって、私以上に大事な人に違いない。

今は動く事も出来ないその人、ヘルトを元に戻す、その手助けを頼みたいのが本当の褒美。




実際の案内は数日後という取り決めだけを行い、今日の戦、その全てが終わりを告げた。




『で…真面目な話なんだけど…』

セルストが立ち去った後、私たちも町へ戻るべく歩き始めた中での会話。

「ん?、何だよ改まって。」


結局のところ、叔父や私が散々書籍を調べた中にも、私の隣で呑気な様子の男を元に戻す方法には辿り着けなかった。

にも関わらず、元気そうなその姿。

駆けつけてくれた時、彼が戻る予感染みた気配を感じはしたが、実際にひょっこりと戻ってきた姿を改めて見ると、何を言うべきなのか思いつかない。


いっその事、思いっきり抱きつくか?


『いやいや…』

「ん?…話って何だよ?ってかこっちの方が聞きたい事沢山のあるんだが…」


道すがらあの海底洞窟から今までに在ったこと、今の状況、変わってしまった王国の姿。

全ての話を終えるには余りにも短すぎる帰路だ。




「ここが作ってる町ってヤツか…名前は?」

『あ…』

ここに来て思い出した。

改めて考えるとまだこの町の名前がない。

『まだ無かった。』

「じゃあ、まずそこから考えようぜ?」


当然のような提案だが…余りにも単純な会話は、少しだけ戻った気がする日常への一歩なのかもしれない。




主要な人を集め、急遽開かれた会議。

今日の出来事。

セルストとのやりとり、戦の終息、後日の邂逅、幾人かの再会の喜び。

彼への説明も含め、今日限りで終われる内容でも無く、差し当たっては一旦の終戦を祝う宴を開く事だけが本決まりとなったところで終わる事となった。




そして陽は落ちて夜。

遺憾ともしがたいところなのだが…。

『うちの親はこの状況に何も言わないのか…』

むしろ親だけじゃない。

確か私はこの町の指導者の立場だったはずなのだが、突然現れた形であるこの男が当たり前のように私の自室で過ごす事に誰も疑問も反対も出さないという事実。


『…まあ…話したい事、いっぱいあるし、明日は寝不足かな?』


感想、要望、質問なんでも感謝します!


2人が別たれてからの話は、悲しい出来事もまた少なくない


次回もお楽しみに!

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