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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第八章 消える星空
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258話 蒼から紫を経て赤へ至る

258話目投稿します。


一撃を防ぐ手段は、己の盾だけでなくていい。

視界が明るくなり、先程まで手の届く距離に立っていたセルストの姿は少し離れた位置。

構えも打って変わって視界が変わる前に戻る。

強烈な一撃を放つ為の溜めは継続中だ。

一瞬だけ吹き上がる闘気に間が空いたように見えたのは彼もまた私と同様に、妙な景色を見て、元に戻ったからだろう。


強者との戦いを強く望む欲望は変わらずとも、それが本人の意志以外の業に影響している事は分かった。

それは多分、私が意識を失っても拳を振るった時と同じ。

まぁ…私と違ってセルストは昂った感情に任せるような人ではないのだが、それもまた私に比べて長い年月をその力と付き合ってきた慣れだろうか?


『とにかく、まずはアレを凌ぐ…』


とてつもない威力というのは分かる。

無防備に受ければ真っ二つどころか、塵になるであろう事間違いなし。

そして完全に防げる見込みもない。

なのに、それなのに、何故だろう?


「貴様にも在るのだ。その業が。」


私の口角は笑みを浮かべているのだ。


『そう…かもね。』


私自身にそのつもりはなくとも、私の中の本能、私とセルストに宿る業が、強者との相対を望んでいる。

そして今、目の前に立ち、その剣を以て問う男は間違いなくその強者たる存在。




体から吹き上がる闘気が鎮まる。

その全てが後ろ手に構えた剣に納められた。

振るえばどんなに硬い金属であっても、綺麗な切口になるだろう。


空気が張り詰める。

炎を纏っていたはずの闘気の割りに、周囲の温度は何故か下がってきているようにも感じる。

おかげで少し熱が籠もった思考も鮮明だ。

意識は自分でも驚く程の集中力。

先程の竜の記憶を見たせいだろうか?


来る…


音が止まるような感覚。

見開いた目に、はっきりとセルストの体の動きが映る。

僅かに腰を沈めた直後、一足でこちらに飛び込んでくる。

何故か?

時間がゆっくり進むかのように、今はその攻撃がはっきりと目に見える。

その口元が、ゆっくりと吊り上がるのも見えた。


正面から振り下ろされると思っていた動作から変化が生じる。

こちらの反応を見て、瞬間で変えたのだ。

『…っく!』

見逃せない!

そして、目の前から姿が消えた。

感覚を更に研ぎ澄ませ、空気の流れを捉える。

先程と同様、右後方に揺らぎを感じる。

どんな方法かは不明だけど、視えない速さといった類じゃない。

セルストは己が在る空間そのものを入れ換えたのだ。


そして振り下ろされた剣は、盾に触れる。


ズンっ!と重みを帯びた音が響く。


「ほう?」

刃は四つ。

そして、両手首の腕輪を連動させた。

直に体に触れていないはずの盾から明らかな重みがのしかかり、足を着いている地面が沈む。

重い!…受け止めただけでは当然その威力全てが消え去るわけでもなく、気を緩めると膝から崩れるどころか、私が消える。

そんな嫌な結果が予想できる程に重たい一撃だ。

でも何故か…大丈夫な気がした。


そんな予感とは裏腹に、盾はその見た目も含めてみるみる内に傷付き、ヒビ割れ、防ぎきれない圧力が、私の体へと流れ、肌を切り裂く。

「このまま耐えるつもりか?、それとも大人しくその業と共に消えるか?」

『消えるつもりはない。でも…うん。多分私は死なない、まだその時じゃないって感じたから。』




空が暗い。

いつの間にか水気と稲妻を孕んだ雲に覆われている。




未だゆっくりと動く視界の中、迫る剣撃から目を逸らし、私は空を見上げた。

紫を帯びた光が、頭上の雲間から姿を見せる。




盾を構築している刃が、一つ、また一つと、力に耐えきれず、弾かれ、その力が弱くなっていく。


『…ああ、そうか…。』


自分がここで死なないと感じた理由。


いつだって、自分より他者。

特に私の心配を一番に考えて行動する。

そんな馬鹿な人を知っている。


『…おかえり。』


雷に打たれた。


正確には、私の盾が全て消え去った瞬間、間を縫って落雷のような一撃が、命を奪う一撃を逸らしたのだ。


凄まじい威力を残して地面に打ち付けられたセルストの一撃は、大地を抉り、込められた闘気が弾けて爆発のように巻き上がった。

衝撃は私どころか、セルスト本人をも吹き飛ばし、体は中を舞う。




「すまねぇ。遅くなっちまった。」


『バカ…。』


吹き飛んだ私の体を包み込むように抱きとめたその腕は、あの時、海底洞窟で触れた硬さも冷たさを消し去り、懐かしさと温もりを私の肌に感じさせる。


消え去った盾に使役された刃は私の手元に戻ってきた。


『このまま、支えてくれる?』

「任せろ、お安い御用ってヤツだ。」


眼下では、すでにセルストが体勢を整え、こちらを見上げ、今一度となる構えを取っているのが見える。


『セルスト卿。貴方の一撃は凌いだ!。』

横槍が入った事は、彼を納得させきる結果ではない。

だからこそ、私は残していた最後の一本。

手の平の中で握りしめていたその一本。


男を納得させる為。

その身を止める為。

命ではなく業を、魂を絶ち切る為。


己を賭けた一撃を用意してたのは、セルストだけじゃない。

薄緑色の小さな刃は紅く染まり、もはや元の色とは全く違う、鮮やかな赤色に光り輝く




込めた触媒は己の血。

練り上げた魔力の一部を溜めに溜めた。


傷付き倒れていく兵士たちを見ているだけしか出来なかった悔しさもこの痛みに乗せた。


私のために戦ってくれた父を止められなかった自分の弱さ、母の命を危険に合わせてしまった親不孝な自分への怒りを込めた。


そして、今私を支えてくれる大切な人への想いを、セルストにも伝えたい。




明暗伴う想いを込めた一撃を。

せめて膝を着かせるだけでいい。


『届け!!』


空から大地に向けて、か細くも強い光が放たれた。

感想、要望、質問なんでも感謝します!


一筋の赤い閃光が貫いたモノは何か?


次回もお楽しみに!

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