257話 魂に惹かれる意思
257話目投稿します。
本当に望むモノは、難解な言葉とは裏腹に単純。
『はは…ちょっと早まったかな…』
目に見える程の闘気を吹き上げ剣を構えるセルスト。
「この状況で何を言うかと思えば、少し見直したぞ?」
というのが彼の言葉だったが、その直後のコレだ。
「一応聞いておいてやろう。貴様は何に賭ける?」
『その攻撃を凌ぐ事。賭けるのは…命だ!』
あー…言ってしまった。
とはいえ、この闘気が発せられた以上、私の退路なんてすでに無い。
「凌ぐ…か。俺の首を取っても構わんのだぞ?」
『…貴方は…貴方に対して、暗い気持ちが無いわけじゃない。それでも私は…』
もしかしたら、私が助けたい人の一人は、この男の力が必要なのかもしれない、と微かな可能性として残しておく手が必要だ。
「良かろう。ならば見せてみろ。話はこの後で良い。」
さて、どうしたものか…威勢よく振り上げた拳の下ろし先を見失ったなんていうわけでもないが、目の前の光景、そこから繰り出される一撃は、今まで見たことも、受けたこともない程の威力である事は間違いない。
当然相手も手加減なんて考えるようなタチじゃない。
気楽に放つ拳でさえ、三刃の盾で時間稼ぎができる程度。
五刃にしたところで痴れている。
『もっと、力を強くする方法は…』
「武器を作らせたらガルドのヤツには勝てる気はしねぇなぁ…」
そう言っていたのは今この時も町の工房で槌を振るっているであろうヴェルンの言葉だ。
彼はそう「武器製作では勝てない」と言った。
逆を言えば、その対象が武器以外のモノなら負けないという事。
そして私は彼が作り上げた武器でない物を身に着けている。
且つ、素材は刃と同じ…
それなら。
「イクゾ…」
呟いた声がブレたように聞こえ、その体から吹き出す闘気が赤味から炎の蒼を経て、黒へと変化していく。
『…黒い…炎…』
炎だけじゃない、セルストの体も、その皮膚が肌の色から蒼い色、そしてその腕には鱗のような突起が浮かぶ。
『蒼龍の力ってことか…』
私が意識を失いながらも戦った時、エル姉に後から聞いた話、今のセルストの姿に聞いたソレを重ね、納得する。
『確かに…私も化け物か…』
己の意志で引き出せるセルストとは違う。
私はまだ感情が高まって抑えきれなくなった時、激しい昂りで我を忘れるような時でない限り、その力は出せない…はずだ。
「貴様がいつまでもそうであるなら…俺が全て焼き尽くしてやろう。」
町も、仲間も、王都も、家族も、全て、世界から燃やし尽くすとしっかりと聞こえる言葉で言う。
その言葉が耳に聞こえた瞬間、一瞬視界がボヤけると共に目の奥に何かが刺さるような感覚、そして胸がドクりと脈打つ。
「…ソウダ。ソノ力ダ!」
こちらに翳した手。
何か…意識が引き寄せられるような感覚。
そして視界が赤から黒へと染まる。
暗闇。
何が起こったのか?
見回す光景の中、誰かの足音が近付いてくるのが分かる。
『誰!?』
「貴様は相対している者の姿すら忘れるのか?」
『セルスト卿…』
見れば彼が構えていた剣はその手に無く、纏っていた闘気も消えている。
『ここは…?』
「記憶だ。俺たちだけが視える遠い記憶だ。」
そう言ってセルストは遠くを指差す。
その先、一点の光がこちらに近付いてくる。
光は私達を包み込み、視界に映る光景。
そこに動くのは蒼と赤の体躯を持つ巨大な影。
『…これは、ベリズ?』
「俺は蒼龍の名を知らぬ。興味があったのはその力だけだ。」
映像の中の竜は互いに競い合うかのように空を舞う。
いや、これは…戦い。
同じ種であり、シロの話によれば彼を含む稀有な存在の数は少ない。
何故2体が互いを傷つけ合うのか?
「貴様がそこに疑問を持つのか?」
彼らに比べて、遥かに脆弱な人間ですら、時に争いを起こしている。
現に、今隣に立つ男は、その手で私の大切な人の命を奪い、世界に於いて稀有な存在を滅ぼした。
『でもわかり合える人だって居るでしょう?』
「理由など些細な事だ。」
言われて思い出す。
シロの言葉、出会って間もない頃、本心かは今となっては分からないが、火竜を止める理由は己の住処を追い出された、というある意味においては些末な事だった。
「我らより余程本能に訴えるモノの考えなど俺から言えば痴れている。」
面倒な事だ、と愚痴るように付け足す。
『遥か昔から争っていた…と?』
「厄介な事に我らが相容れぬのもそうかもしれんな?」
まるで自分の意思ではないとでも言いたげに聞こえる。
『争いを望んでるのは貴方も同じでしょう?』
「否定はせん。だが、貴様との戦いがそれだけでないのは遺憾でもある。」
成り行きとはいえ、竜に命を託された私。
ただ強者を求めて戦いに身を投じて手に入れた竜の力を持つセルスト。
それは魂に惹かれて、互いに望まぬとしても争う宿命をその身に継承してしまった証だ。
「俺は既に魂を侵されている。今更この身を安寧に戻す事など有り得ん。」
『…私は戦いを望みたくはない。』
魂の本能に揺さぶられる意志。
侵された魂の浄化でもできれば、彼もまた純粋に力を求めるだけの強者になるのだろうか?
命のやりとりではなく、互いを高め合うような、そんな存在として…。
『魂に刻まれた本能…』
その魂を浄化する手段。
力を求めた先に辿り着く未来は、今のままでは望むモノにはならない。
『やっぱり貴方を止めなきゃいけない。セルスト卿…!』
正面で向かい合って、強く願う。
断つべきは命でなく。
分かつべきはその魂
感想、要望、質問なんでも感謝します!
必要なのはその身に宿る純粋な力じゃない。
断ち切る力。
次回もお楽しみに!




