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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第八章 消える星空
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255話 打ち砕く記憶

255話目投稿します。


もう二度と同じ記憶は生み出してはいけない。

どうしようもない不安。

父と母ならきっと大丈夫だ、と繰り返し頭の中で反芻しても消えないソレは、マリーを始めとする町の者たちにもまだ大っぴらに伝えていなかった私の新しい力を曝け出す事になってしまった。

それ程までに視界に映った光景が焦燥感を加速させたのだ。


『ただの砂煙なら良かったのに!』


そう。砂煙に混ざって一瞬ではあったが私の視界は見逃さなかった。

蒼い炎がそこに混ざってい事に。

ただの砂埃だけなら父の馬鹿力で起こり得る事でもあるが、恐らくコレはセルストが放った一撃で巻き起こったに違いない。

炎でありながら周囲に燃え広がっているわけではない。

そして轟音は爆発音とも受け取れた。


早く!、もっと早く!


何も気にせずに試すかのように飛んだ初飛行の時より全然遅い。

専用の眼鏡を作ってもらって、前より早く飛べるはずなのに…

『な、なんで!』

焦りがそうさせるのか、まるで歩き方を忘れたかのように考えがまとまらない。

集中力を欠いているのは明らか。


ぐちゃぐちゃな頭の中で、揺れることなく明確に、憶えている記憶だけがはっきりと、嫌な予感が過ぎるのだ。


安心しろ。まだ死んではおらん。


そんな台詞と共に私に突き出された大切な人の姿。

それだけが鮮明に頭の中に浮かんでいる。

もし、もしも、あの砂煙が晴れて、あの男の手で父が掴まれていたとしたら…?

怖い…怖い!、嫌だ!

不安定に揺れる視界の中、ただ只管に急いだ。




「ごほっ…相変わらず無茶しやがるな、オマエも。」

「貴様こそ人の事が言えるのか?」

周囲の視界が悪く、互いの顔が見える程度の中で交わされる言葉。

「チッ…」

競り合っていた剣と斧が、煙の外から飛び込んできた氷の塊によって分かたれる。

「まったく、アンタら男共は歳取っても変わらないわね。呆れるわよ。」

「魔女め…」

「世界一怖い魔女だぜ?、それに強くて綺麗だ。」

間を空けずに振られる一閃を容易く受け止める剣。

「それ褒めてるの?…そ れ と も!、怒らせたいのかしらっ!」

間髪いれずに放たれる熟練の戦士と、世界一と呼ばれた魔女の連携は、確実に男を圧している。


「しかし、貴様らも分かっているだろうが…ククッ…歳を取ったな?」

間合いを空け、煙を払うように剣を振り下ろす。

「以前のオマエなら一人で戦いたがったろうになぁ?」

決して焦る事なく吐かれた嫌味。

それにも動じないのは、彼が言う通り、年月を重ねたからこそか?

「戦いが好きなのは変わらんが、俺も昔とは違うさ。」

巨大な斧の柄をドスンと地に着ける。

いつの間にか傍には魔女と呼ばれた本人の姿もあった。

「護らなきゃいけないものができたのよ。」


「精々、俺の退屈を埋めるのに役立ってくれよ?」


今一度、男は拳を硬く握り、その中から蒼い炎を生み出した。




ドォォォオオオオン!!


と再び上がる爆発音。

『父さん!母さん!!』

発生箇所はもう目の前、巻き上がった砂埃も肌に触れ、中から伝わる蒼い熱量もヒリ付くように感じられた。

このまま飛び込んでしまうのは簡単だ。

でも、父と母の邪魔になってしまっては元も子もない。


続いて放たれた爆発に、驚きと恐怖はあっても、2人が無事な証拠でもある事に少しだけ安堵を覚え、ひとまずはそのまま下降、地に足を着ける。


『ここからは慎重に動かないと…』


よしんばセルストの前にこの身を晒したとして、人質を取ったりするような男でもないはずだ。

だが私の感知できないような攻撃に巻き込まれるような事は避けたい。

身を潜め、煙が晴れるのを待った。




「護りたいモノか。」

腰を落とし、全身に力を溜めながら呟く。

「貴方にとっての大事なモノは戦いしか無いとでも言うの?」

杖を器用に振り回し、切っ先に魔力を集中させる。

「さてな?」

魔女目掛けて踏み込んだ足。

一息に詰めるその間を戦士の斧が阻む。

「通さねえさ。」

何度でも繰り返される駆け引きと、互いの持ち駒を削る盤上の戦い。

2人の連携は隙が無いようにも見えるが、それは実力が均衡している理由にはならない。


互いに余力を残しつつも、決め手に欠けるのは果たしてどちらか?


「さて…観客も到着したようだ。余興としては十分だろう?」

男の言葉に少しだけ戦士が動揺を見せ、周囲を見回す。

「ダメよ!、油断しなっ」

「なっ!?」

魔女の言葉を遮ったのは男の手。

言葉通り、目に見えない速さで喉元を掴みその体が中に浮いた。


砂煙の晴れてきたこの場に、もう一人の大将の姿があった。




『ダメ…ダメだよ!』

晴れてきた視界でまず最初に目があったのは父。

直後、セルストの姿が消え、次の瞬間には母の首を掴み、真綿でも扱うかのように軽々と持ち上げる光景が映った。

「姉弟揃ってこの手に掴まれるとはな?、奇妙な定めだな。アイナ=スタット?」

「くっ!…うっぐっ!」

反論する息は遮られ、小さく呻き声だけが発せられた。


私の視界に映った光景は、あの時の場面と同じ…違いがあるとすれば、その姿は母、降っていた雨がまだ晴れきらない砂煙に置き換えられた…それだけ…。


ダメだ…コレ以上はダメダ…もウ、ニドと…


『っ!』

頭に昇った血が沸騰するかのような衝動が私を襲い、直後、目の前に見えたのはセルストの横顔と、それを目掛けて放たれた自分の拳。


振り抜いた拳に痛みを感じた。

「ごほっ…ごほっ…」

セルストの手から解放された母が腰を落として息を整えている。

「アイナ!、大丈夫か!?」

駆け寄った父が母の肩に腕を回し、背中を擦る。


『父さん、母さん…ここまでだよ。』


吹き飛んだセルストと、両親の間に割って立つ私の頭は、先の一瞬で滾った熱から醒め、今はただ、鮮明な意識の中で私が戦うべき相手を見据えていた。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


今必要な戦いなら、今必要な運命なら、逃げてはならない。


次回もお楽しみに!

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