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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第八章 消える星空
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254話 戦場を駆けるモノ

254話目投稿します。


己の力を振るわない戦場は、その記憶の中へと重みを宿す。

「あら、あの人はもう出たの?」

父の背中を見送って少しの時間を挟み、前線拠点に姿を見せたのは母だ。

『お母さん、なんでこんなところに?』

「お弁当持ってきたんだけど?」

小脇に抱えた手提げというには余りにも大きい布袋をひょいっと見せる。

『あー…』

先程までの不安はどこへ行ったのか、私の中で緊張という名の糸が緩む。


天幕に案内して、手近な兵を呼び止める。

体力的な補充物資を受け取った兵は足早にこの場から立ち去り、手の空いた者たちを集めて配給を行ってくれた。


「さて…と。」

エプロンを脱ぎ去り、軍議の地図があるのもお構いなしにテーブルに放り投げる母。

「私もジョンを追うわ。」

『え…でも!』

と口にしたものの、その後の台詞は喉の奥に留めた。

きっと母も、父が私に言ったのと同じ事を返すに違いないのだ。

それに、心配ばかりかける父に合流してくれるなら、これ以上に心強い援軍は父の立場からしてもあるまい。

『うん…分かった。でも約束して?』

せめて、と母に伝えたのは、今日の晩御飯のおかずについて。

「勝ち負けどちらにせよ、精力つけなきゃねぇ〜」

と母は笑顔を残して父が向かった方角とほぼ同じ方へと地を駆け出した。


『さて…私も自分のやるべきこと、やらなきゃだ。』




父を見送り、母もまた同様に。

そして役目を果たすために私もまた結界の外へと足を踏み出した。


僧兵と術士の混成部隊となる今回の戦場。

マリーが取った陣形は僧兵数名に術士一人の小規模な部隊に分けて、それぞれの隊が小規模な戦闘を繰り返して制圧していくといったモノだった。


小隊の組分けもすでに終わり、今は戦闘前最後になるガラティアの鼓舞が行われている最中だ。

「いいか、おまえら!、おまえらの後ろには大将が作った結界がある!、確かにソレのおかげで町への被害は少ねえかもしれねぇ。」

拳を重ね合わせ更に強く叫ぶ。

「でも分かってるよな?、この結界に触れられたら負けだと思え!。アチラさんに決して触れさせんじゃぁねぇぞ!?」


おおおおおおぉぉぉ!!


と歓声と地響きが上がる。

そして、各小隊が足並みを揃えて敵軍が位置する場所へと進軍を開始した。




「フィル様、こちらへ。」

マリーが自分の愛馬と共に私のソレを連れてきてくれた。

『勝算は?』

「アチラ…スナントの軍隊は此度の反乱が無くとも以前から四領の中でも随一と言われていました。」

先に戦ったカジャのように肉体を極限まで鍛え上げたような武人も多く居るが、スナントの兵士たちはその種の特性から強靭な肉体を持ちながらも魔力に長けている者が多いという。

その両方に対処し得るための小隊編成。

「少しずつでも戦力を削るのが目的…僧兵の素早さと術士の援護…これでどこまで対抗できるか。」

それが勝敗を決する、と。




『…ぶつかる。』

視線の先、馬の足を止めた少し小高い丘、更に馬上とはいえ、少しだけ高い視点から、両軍がジリジリとその距離を詰めているのが分かる。

そして…互いの雄叫びが戦場に木霊し、一気に残された距離が詰まる。

遠くからでも分かる。

所々で飛ぶ叫声と血飛沫の朱。

『…これが…』

「戦です。」

隣に控えるマリーは視線を逸らすことなく目の前の光景を見据えている。

少しの変化も逃すまいと、配下である兵士たちにどの瞬間でも指示を出すために。


「がぁぁああああっ!!」

打って変わってもう一人の柱であるガラティアは最前線を一人受け持つ形で拳を振るっている。

多くの人影に紛れてしっかりとその姿を捉えることはできずとも、その周りに飛び交うセルスト軍の兵士が空へと打ち上がる。

彼女の進む方向はわかり易い。

しかも最前線に居ながら、こちらの兵士たちが押されている方向に動いている辺りは状況がしっかり視えている証拠だ。




『…皆、必死なんだよね…』

泥に、血に、悲鳴と命乞い。

それらが飛び交う戦場。

当然、双方無傷な者などいるわけがない。

力尽きて伏した姿は、敵味方関係なくただ視界に入る事が辛い。

「私が初めて戦場に立った時、一つだけグリオス様に言われた事があります。」

私の手を取り、目線を合わせてマリーは教えてくれた。

「目を逸らすな、と」

己が企てた策、それによって傷つき倒れる者。

失われた命が信じた義に殉じたのならば、指揮する立場を担う者は、その光景を一寸たりとも忘れてはいけない、と。


『そう…だよね…町のために皆が護りたいモノのために命をかけてるんだ。』


戦いは続く。

恐らく…いや、間違いなく互いのどちらかの最後の一人が倒れるまで。

それが戦の終わりと言えるのか?

互いに譲れないモノがあって、護りたいモノがあって、だから命をかける?

皆にも護りたいモノがあるように、自分にも…。


そして、セルスト軍の姿が徐々に少なくなり、恐らくは最後の一人、その体が中に舞った。

どうやらガラティアも無傷ではないだろうが無事なようだ。


「この地の戦いは終わった!我々の勝利…」

と勝鬨を上げようとしたマリーの言葉は、戦場の先に上がった巨大な砂煙と轟音に遮られる事となった。

『あれは!』

あそこに居る。

私の両親と、敵軍の大将。

その激突が今正にあの砂煙の中心に居る。

『マリーさん、一時帰還の指示は任せる。』

返事を待たず、私は馬上から飛び降りて中を駆けた。


『…いかなきゃ!父さん!母さん!』



感想、要望、質問なんでも感謝します!


親が子を心配するように、子もまた親を心配して止まない。

例えそれが伝説の強者であっても。


次回もお楽しみに!

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