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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第二章 新たな暮らし
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24話 書庫の主

24話目投稿します。


王都での新たな暮らしが始まりました。

この日常からまた新しい冒険への話が紡がれます。


というわけで、2章に入ります。

王立学術研究所。

その一角、私に割り当てられた部屋は書庫の体裁を取っての造りをしているものの、倉庫に利用される事も多く、部屋の一部には用途の判らない物が積み上げられている。

普通の研究員と違って領主のツテで入所する形となった私にも形式上としての仕事が与えられた。

とは言っても、稀に訪れる訪問者への対応と手伝いといったものではっきり言えば楽な仕事だ。

空いた時間はあまり部屋を空にしない限りは好きに過ごしてよいという事なので、書庫の片っ端から興味を引く本を見つけては読みふけっている。

それがここ2ヶ月半の間の私の習慣となっている。


3ヶ月半ほど前、北方領から王都への旅を無事に終えた私たちは、生活に慣れるのも踏まえ、しばらく王都の領主本宅へお世話になった。

王都に着く前に丘陵から見下ろした王都の姿にも驚いたものだが、実際に間近で見て触れるものは私やカイル、イヴにとって真新しいものばかりだった。

到着した当日に関して言えば、エル姉が頻りに「御上り」と笑っていたのは記憶に新しいし、少し悔しくもある。まぁ間違いではないので言い返せないのだが。

領主本宅は王城に近い場所にあり、それはつまり王都の中心部で浮かぶ区画に踏み入れる事に外ならず、実際に区画に移動する最中から、足元がふわふわした感覚もまた記憶に新しい。

それからの数日間を招かれたスタットロード家本宅にて、私たちは王都の案内を受けたり、美味しい食事を頂いたり、小綺麗な服を着せられたりと慌ただしくも楽しい時間を過ごした。


ある程度環境に落ち着いた数日後、私は生活の拠点を下層部、本宅のある中心部からいわゆる一般の民衆が暮らす区画に移す事となる。

これに関しては叔母のレオネシアとイヴが大層難色を示したものだが、空いた時間はできるだけ本宅に遊びにいくという約束で納得してくれた。

下層部に構える別宅の造りは周囲の建物とそれほどの違いなく、豪華ではないものの、私やカイルにとっては変に気を使わなくていいという意味ではありがたい。

無論、スタットロード家の別宅という点において、それなりの従者が居るのは同様だが、与えられた個室の造りなどは気構えしなくて助かる。

いざ別宅に移る時に寂しそうにしていたイヴの顔は気がかりだったものの、立場上本宅に残るカイルにくれぐれも、と言い残すと少しの笑みと共に「任せろ!」と言ってくれたのは私にとっては一番の安堵となったのは間違いない。


『そういえば今日は本宅に行く予定だったっけ…あれ?明日だったっけ…?』

楽しくはあるがほぼ変わらない日課のおかげで若干の日付感覚の薄れを感じてしまう。

『まぁ…迎えが来ればいけばいいよね。』

と言うのも、本宅に行く日はある程度事前に連絡しているのもあるのだが、そもそもカイルが事あるごとに別宅に来るものだから、当然本宅に行く日もカイルが迎えに来るのが習慣化されているのだ。

『あれもマメというか、暇というか…まぁ…いいけど。』

あれこれと独り言を呟きながら、机の上に溜まってきた読書の後片付けをする。

書棚に本を戻していると、普通の部屋に比べれば大きい書庫の扉がギィと音を立てる。

顔を向けると白衣を纏った研究員が、頭より高く積み重ねた本を器用に抱えながら入ってくるのが見えた。

自分の片づけをひとまず中断して、そちらに走り寄る。

『こんにちわ、ロニーさん。少し持ちますよ~?』

研究員のロニーは、ここに2年ほど前に入所したらしく、研究員としてはまだまだ若手の新人という事だそうで、故にこういった書籍の片づけなどを申し付けられる事も多々あるようで、私とも顔なじみだ。

「あ、フィル。ごめん、ちょっとお願い。」

私の声に反応して、持っている本の山からひょこっと顔を覗かせる。

「もー…教授はあれこれ理由をつけてはため込むから大変だよぅ。」

これもいつもの愚痴。本人は至って大変そうだとも嫌そうとも思ってないのも知ってる。

『ふふ、いつも楽しそう。』

半分に分けられた本を互いに抱え、書棚に向かう。

「そういえば教授がまた遊びにおいでって言ってたよ~?」

ロニーさんの研究室は主に古代史についての研究を扱っているようで、以前に伺った際には私にとって色んな意味で興味がある話を聞かせてもらえたのを覚えている。

『今日だったか、明日だったか、本宅に用事があるので戻ったらまたお土産持って行きますね。』

と返事をすると、「やった!」と嬉しそうにロニーさんが拳を握る。

「私」に対してなのか「お土産」に対してなのかは聞かないでおこう。


程なくロニーさんが持ち込んだ片づけを終わらせ、書庫の扉に程近い机に戻ってきたところで別の訪問者が開いたままの扉をコンコンと叩いた。

私たちの姿を捉えた訪問者は右手を少し上げ、「よう!」と私に声をかける。

「おー、カイル君だっけ?久しぶりだねぇ。」

ロニーさんはカイルに近づき、両手を握ってブンブンと振る。

その勢いと、私たちより少し年上の魅力からか、戸惑いと照れた様子で、

「あ、こんにちわ、ロニーさん。」

ロニーさんとは違ってこちらはしっかりと名前を憶えているようだが…

「ほら、フィル~。ナイト様が来たよ~?」

と私に向き直り、示すようにカイルの肩をバンバンと叩く。

『ロニーさん、それあんまり揶揄わないであげて。』

ニシシと笑いながら私たちに手を振り、ロニーさんは書庫を後にした。


手荷物と今日の仕事の片づけを終えた私もカイルを連れ、書庫の扉を閉じ研究所を後にした。

『んーーーー、今日も疲れたなぁ。』

与えられた仕事としての時間のほとんどを椅子に座って過ごす私は、凝り固まった体を伸ばす。

「お疲れさん。」とカイルが私に言う。

その返答替わりにカイルの胸板を小突いてから、

『もっと労ってくれてもいいんだけど?ナイト様?』

ほんの少しの嫌味も込めて付け足す。

肩を並べて歩く街並みは夕暮れに染まり、辺りの家からは夕餉のいい香りが漂ってきていた。

『おなかすいたし、早く行こう?。』

感想、要望、質問なんでも感謝します!


新たな暮らしには何が待ち受けているのでしょうか?


次回もお楽しみに!

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