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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第八章 消える星空
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251話 朱に染まる円環

251話目投稿します。


防衛対策は手を抜かない。

自分にできる事があるのなら、無茶でも通す。

マリーら魔術師部隊と共に町を出る。

事前にリアンを通じてエル姉に追いかけるよう伝えておいた。

これで少しは魔法陣の強さを高める事が可能になるはずだ。


魔術師隊の主な面々は、以前、火山で共に戦った者たちが殆どな気がする。

あの時の行軍は山道だったため、今こうして平地を馬に乗って走る彼らの姿は、少しだけ新鮮に見える。


『マリーさん、普通の魔法を飛ばせる範囲、せめてその半分程度の距離は取りたい。』

「分かりました、細かい距離まで調べるには時間がありませんが、目測で出来るだけの位置に敷きましょう。急ぎます!」

速度を上げたマリーの馬を先頭に、遠く南の空は少々黒ずんでいるようにも見える中、私たち一団は直走る。




「起点となる位置は一番強固になります。方角、距離、周囲の環境からこの辺りが妥当でしょう。」

事前に隊の者には通達が行き届いてるようで、随時馬を降りた者から陣を作るための準備が始められる。

「本来なら術者が一人で書き上げるのですが、今回はこの状況です。」

人海戦術で敷設して、魔力を通すための回路はマリーが担うという事だ。

彼女に負担がかかるのかどうかと聞いたところ、先の火竜との戦いに比べれば天と地ほどの違いだそうで、問題になるような程ではないということだ。

これについては胸を撫で下ろす。


「フィル様、こちらに。」

促されたその場所は、人一人分が腰を落ち着ける程度の円陣が描かれていて、そこから東西に魔紋が伸びている。

最終的にこの魔紋は町から一定の距離を保ったまま連なり、方角的には町の北側で繋がる事となるはず。

果たしてそれだけの記述が間に合うのかと心配にもなるが、そこは彼らの表情から汲み取って信じるのみだ。

「私の計算では魔紋の開通は一時ほど掛かります。その間、フィル様の魔力を馴染ませるためにこちらで待機して頂きます。」

護衛もすでにガラティア配下の兵士に手配済みだという。

『分かった。馴染ませるって具体的にはどうすればいい?』

「触れて、陣の構造そのものを探るように意識を集中してください。大丈夫です。フィル様なら然程難しくはないでしょう。」

『うん。』

早速、円陣の中心に腰を下ろして指先で魔紋に触れる。


確かに。

マリーが言うようにその文字、紋様に僅かに籠もる魔力を感じる。

これを記述した魔導士達のモノだ。

微弱に感じる其々の感情も私の中に流れ込んでくるような感覚。

うん。分かるよ。

必死さと、少しの焦り、何よりもやり遂げるという意志、そして目前に迫る威圧感への恐怖。

『大丈夫。私も頑張るから、皆で無事に…』


目を閉じて、意識を集中。

頭の中に魔紋が描かれていく様子を捉える。

視界を閉ざした暗い脳裏の中に、青白い紋様が溝を流れる水のように広がっていく。


こんなのを何処かで見た記憶がある。

大きな魔法陣…それが敷かれた広大な空間。

あぁ、そうだ。

あの時の魔法陣は、ただ一人、私の為に作られた巨大な陣。

時を超えるための力場をあの空間に留めるためのモノ。

とある少女の肉体を魔力へと変質させ、それが霧散しないようにあの空間に留めるためのモノ。

あの時はまだ魔法陣というものそのものの構造を理解していなかったから分からなかった。

でも今、短い時間で簡単ではあったがマリーから教えてもらって、記憶に残る映像と、知識が交わる。

『リルも、メルも、あそこに居たんだね…そして私と一緒に…』

あの空間へと旅立った。

そういう事だと理解した。


あの時の事を今、この状況で思い出す事になるとは思いもよらず。

そして改めて思い出す。

あの世界の人達、魔導院にいた研究者たちが長い時をかけて私に託した未来の形。

それはきっとこの戦いに負けて終わるような未来じゃないはずだ。


今共に生きる人だけじゃない。

遥か先の未来と、分かたれた時で生きる人たちの願いもこの先で待っているのだ。


脳裏に浮かび上がる紋様も、気付けば半円。

実際に経過した時間が薄れる程にただただ意識をより深みへと。

『この魔紋を、体の一部に…』

使役するのではない。

体の一部として把握するんだ。

そして、盾を構えるように、町を守ればいい。




「…ィル様!、フィル様!」

眠っていたかのように途切れていた意識が呼び戻される。

『マリー、さん?…』

「やはり貴女は凄い才能をお持ちのようです。」

はっきりとしてくる意識。

肩を抱えたまま、マリーが驚きと心配が混ざったような表情で私を見ている。

『魔紋は?…』

「ええ、間もなく終わるでしょう。フィル様も凄い集中力でした…少し怖くなる程に…」

『へへ…心配ばかりでゴメンナサイ。』


少しの時間を置いて魔紋の完成を知らせる合図が北の空に放たれ、改めてこちらに向き直るマリー。

その顔に頷きで返し、ナイフを腰から取り出す。

『じゃあ始めるね?、エル姉、居るかな?』

私が意識を閉ざしていた間に合流していた護衛の中からエル姉も姿を見せる。

「ああ、着いてる。言っとくけど血は戻せねぇからな?」

『うん。分かってる。』

ふぅ…と大きく息を吐き、歯を食いしばる。

ナイフを添えて、

一息に己の手首を切り裂いた。


勢い良く流れる血が、私の足元、魔紋に触れ、青色で描かれた文字がみるみるうちに朱色に塗り替えられていく。

「あの…フィル様!」

先程までとは違う意識が薄れていく感覚。

流れ落ちる血を一向に止める様子のない私に周囲がざわめき始める。

「フィル様!、もうおやめください!」

止めに入ろうとしたマリーの体を遮ったのはエル姉だった。

「アイツは無茶はするけど命を無駄にするようなヤツじゃない。アンタも分かってるだろう?こうなる事は。」

「で、ですが!」

『だい、じょうぶ…だよ。』

エル姉の言う通りだ。

私だってこれで死ぬつもりなんて無い。

まだ意識は保ててる。

見極めてもらうためにエル姉を呼び出したのだから。

まだ大丈夫だ。

「おい!、アンタらも心配するのは分かるが今はしっかり役目を全うしろよ!」

護衛として取り囲む兵士たちにエル姉が喝を入れる。

慌てながらも言われた事を胸に、其々が表情を引き締める。


『…っく…』

ふらつき、足から力が抜け、膝から崩れる。

四つん這いに伏せ、体がガクガクと震え始め、意識が飛びかける。

直後、私の手首に添えられた手から、温かい光が放たれ、朱色の流れは止まった。

「ったく…見てて気分のいいもんじゃねぇぞ?」

明らかに怒りの感情を乗せて、それでも治癒の魔法を私に施すエル姉。

「フィル様…私はとんでもない事を教えてしまったのですね…」

『ううん、マリーさん、ありがとう。貴女が教えてくれたから後悔せずに済むよ。』

エル姉の腕に体を預けて、少し目を閉じた。


『少し休むね?』




感想、要望、質問なんでも感謝します!


気付けば自分の部屋。

倒れた時、気付けばあった姿は、未だ戻らず。


次回もお楽しみに!

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