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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第八章 消える星空
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249話 指揮官というモノ

249話目投稿します。


迫る困難は近く、緊張の糸は少しずつ強く張り詰められる。

それでも忘れてはならないモノがここにある。

慌ただしく走り回る兵士と、鳴り響く警鐘。

まだ日も昇りきらない時間から緊張感が町を奔る。

『状況は?』

執務室に駆け込んできた伝令兵と共に自室を出る。

寝間着姿のままではあるが、今は気にしている場合ではない。着替えなど状況確認が終わってからで問題ない。

隣接した建物、様々な会議が行われる議事堂へと足早に走るその脇でリアンの姿を捉え、目線で私の身支度の準備を頼む。

「斥候からの報せでスナントから出立する多数の兵士の数が確認できたとのことです。」

『いよいよか…こちらの準備は?』

会議室の扉の脇に立つ兵士が私の動きに合わせて扉を開く。

室内にはすでにグリオス、マリー、ガラティアの姿も見える。

今、この町に駐屯している騎士隊、武僧兵隊、魔術士隊、それぞれを率いる立場の3人だ。


「騎士隊は防衛に残る者と出陣する者で最終配備を確認中だ。」

「こっちはいつでもいけるぜ!」

「魔術士隊は都市防衛用の魔法陣の展開を急がせている状態です。第一陣への参加は難しいかと。」

『…そう。ありがとう。皆の判断にある程度任せたいところだけど…魔法陣はどれくらいで動かせそう?』

少し考える素振りをしたあと、マリーは答える。

「伝令からの報せから予想されるあちらの到着まで半日はかかるでしょう。しかし僅かに時間が足りません。」

曰く、マリーが得意とする魔法陣を主とした魔力は、その名の通り、陣が完成しない事には機能しない。

そして、町から距離を取る必要があれば、その範囲は当然広くなってしまう。

『マリーさん、その魔法陣の術式、私にも使えるかな?』

コクリ、と頷き、傍らの部下に指示を出す。

「あまり時間はありませんが、フィル様ならもしかしたら…すぐに魔導書をお持ちします。」

マリーの言葉に、私も頷きで返す。


『グリオス様、騎士隊の準備も忙しいと思いますが、一つだけお願いがあります。』

「ふむ?」

『何としても水路の建設は留めないようお願いします。防衛が必要ならそこを重点的に。』

ほう?と少し不思議そうな顔をするグリオス。

理由はある。

現状、この町に運ばれる資材の多くは陸送、そして時が経つほどに運搬にかかる時間は増えている。

それは物資を各方面から仕入れる必要に迫られているからに他ならない。

水路は確かに即座に完成できるものでもないが、この作業が伸びる程にこの町の発展が停まる事と同義だ。


『皆も覚えておいて、今この町で一番に守らなくてはならないのは水路と、それに携わる皆の手よ。』


「ハッ!」

「相分かった!」

「おうよ!」




会議は程なく終わり、一旦自室に戻る。

扉の前で待っていたのはリアン、そしてヴェルン。

『ヴェルンさん、どうしたんです?』

休暇から戻った日に話して以降、私のところに顔を出すこともなかった彼がこの状況下で足を運んだ。

「持たせてすまなんだ。やっと一段落してな。」

「さあ、フィル様、準備を。」

と私の自室の扉を開くリアン。

2人に促される形で入った部屋の真ん中に置かれた鎧掛け。

そこには今まで私が使っていたモノとは違う新しい鎧が掛かっていた。


白を基調とした軽鎧は以前ヴェルンが作成し、東領を訪れた際に渡されたソレに近い感じもするが、明らかに違う点か目に見えて解る。

『これ…』

「ふっふっふ…間違いなくワシの最高傑作じゃ。」

「私も驚きました。素晴らしい一品です。」

とリアンも感動を隠せない様子。

多分リアン以上に驚きを隠せないのは私だ。

何故なら、この鎧、その一番重要とされる箇所に使われている素材が鉄ではなかったのだ。

『ヴェルン…貴方これ、経費度外視してない?』

「馬鹿言っちゃなんねぇよ嬢ちゃん。アンタ専用の鎧で金なんて惜しんじゃいかんだろう?」

『む…』

そう言い返されてしまっては文句の言いようがない。

「まぁ、今回は真ん中だけじゃ。ちょっと時間は掛かるじゃろうが、手足の防具も楽しみにしとれよ?」

腕によりをかけてくれるのはありがたいが、皆の装備品の強化や改良にも力を注いでほしいのが正直なところで、名匠の情熱と言うものが迸る点に苦笑するしかない。

『ありがとう、まぁ…楽しみにしとくよ。』


流石に目の前で着替える訳にもいかず、2人に退室してもらって、いそいそと準備を始めるわけだが、こんな時ヘルトが居れば楽だったろうな…と少し寂しい思いを感じてしまう。




「ふむ。大きさは問題なさそうか?。すぐには難しいが緩いとこでもあれば直すぞ?」

着替えを終えて2人を呼び戻したのだが…。

『いや、むしろ丁度良すぎて怖いんだけど…。』

以前の鎧の時から私の体が成長してないのか、それともヴェルンの目が鋭いのか…はたまた、私の体を密かに調べている者が居るのか…末恐ろしくも感じるが、経験上細かく追求するとロクな目に合わない気がした。

『何でこんなに違和感がないのよ…』

「ソコは…」

少しだけ、私にとっては、だが、嫌な笑みを浮かべる名匠。

『ソコは?』

「秘密じゃ。」

『指揮官命令!』

「ワシは軍属じゃないんでな。」

『ぐっ…』

八方塞がりというのはこういう事だろうか…?

いつかその秘密とやらを断固として探ってやると密かに決意する。

いっその事キョウカイの力で…とリアンの顔を伺うのだが…?

『リアンさん?』

「何か?」

『私の目を見て?』

「ええ、見ておりますとも。」


キノセイという事に…。

『アンタらかぁ!!』

出来ないでしょう?コレは。


こんな状況下で、今まで私用に作られた防具類の作成計画がどこから発せられたモノだったのかを理解する事となってしまった。


「さぁ、参りましょう、フィル様!」


といつの間に、どこから沸いて出たのか、現れたマリーに脇を抱えられ、物凄い力で引っ張られる。

『ちょっ、この流れって…まさか!?』


いやまぁ…指揮官としては当然かもだけど…。

『またかぁぁぁぁあああ!!』


感想、要望、質問なんでも感謝します!


激励は声を上げる者によって絶大な効果となる。

今までも、これからも、この身を以て経験したモノだ。


次回もお楽しみに!

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