247話 夢の涙を
247話目投稿します。
不思議な夢を見た。
目を閉じて、眠りについている。
しかし、意識はどこかはっきりとしている気がする。
この手の事は何度か経験がある。
ただ、今まで似たような状態と少し違うのは、手の平から伝わるイヴの温もりを感じるところだ。
目が開かない。
間違いなくベッドの上で眠っている感触はある。
金縛りにでもあっているように身動きが取れない体でも耳はしっかり聞こえるようで…
「フィル。随分と待たせちまったな。」
「お姉ちゃん、すっごい頑張ってたんだよ?」
「あぁ、解ってる。お前にも寂しい思い、させちまってるよな。」
「イヴは、お兄ちゃんのお手伝いもしたいな。」
「迷惑かけちまうな。でも助かるよ。」
「ううん…イヴよりお兄ちゃんの方がきっとお姉ちゃんの力になれるから。」
身動きが取れない、話し声は聞こえる。
懐かしくて、悲しくて、嬉しい。
彼の声を聞けるのは、あまりにも予想外過ぎて…。
そして、手の平に感じるイヴの手に少し力が込められ、握り返された手。
頬には別の…イヴのソレより少し硬さを感じる指の感触。
触れた指先が目元へと動き、瞼を拭う。
眠りの中にありながら、その声を聞いた私は泣いているのだ。
指先のヌシは、その涙を拭ってくれた。
その感触に応えたい…口を動かして…彼と話をしたい!
「フィル…無理しちゃダメだ。大丈夫。もうすぐ、もうすぐだから…待っててくれよ。」
何がもうすぐだ!、アンタが動けるはずがないじゃないか!
あの洞窟で未だに石と化しているアンタが!
意識だけがワナワナと震えている。
「戻ったら…いくらでも殴っていいから、今は無理すんなよ。」
絶対に殴ってやる。
今の台詞を後悔したくなる程に殴ってやる。
だから…だから…早く私の傍に戻ってきてよ…
『 カ イ ル 』
「ああ…待っててくれ…」
まるで空からの喉から声を絞りだすように、彼の名前を呼んだ。
そしてまた意識が遠のくような感覚と共に、彼の気配が薄く掠れていく。
嘘じゃない、よね。
目覚めた朝、夢のような出来事をイヴに聞いてみたものの、良く分からないといった表情で、眠そうに瞼を擦る。
でも確かに、彼と思しき気配と会話をしていたのはイヴ。
その口から己の名を発していたのだから、間違いないはずではあるのだが…。
全ては私の妄想、願望といったものが夢として見せただけかもしれない。
「イヴおなかすいたよ。あさごはんたべよ?」
と言う彼女の頭を撫でて、朝の一時を過ごした。
「おねえちゃん、あそんでくれてありがとう!。イヴ、みんなといっしょにおねえちゃんがおしごとからかえってくるの、まってる!」
町を出る前予定していた形としては、今日この日の朝から戻る流れではあったが、午前中は命一杯イヴと過ごし、オーレンやレオネシアも一緒にゆったりとした時間を過ごす形となった。
そして迎えた出発の時間。
『また時間が取れたら帰ってくるから、一緒に遊ぼうね?』
「うん。イヴまってる。」
いい子ね、と頭を撫でて、そして小さなその体を強く抱き締める。
イヴもまた精一杯、私の背に回した腕に力を込める。
『叔母様、オーレン、繰り返しになってしまうけれど、イヴをお願いします。』
「ええ、お任せください、フィル姉さま。」
以前なら、叔母が応えていた場面だ。
叔母も少し驚いた顔を見せたが、直後、嬉しそうな表情に変わる。
『それじゃあ、行ってきます。』
馬車に乗り込み、屋敷から離れていく様子を窓から伺い、手を振る皆にこちらからも手を振り返して応える。
このまま馬車に乗せてもらって町まで戻るのも悪くはないが、流石にそれでは到着が遅くなってしまうし、今日中に戻る予定としている以上、変に心配をかけるわけにはいかない。
ひとまず、王都を出るまではゆっくり馬車に揺られる事として、窓の外を眺め、王都の風景をこの目に留めておく。
「アイツは中々骨がありそうだな?」
『チキ、キミは中々悪趣味だねぇ?』
「アンタに言われたかねぇよ。」
お互い様だ。
いつの間に馬車に乗り込んだのか…というより、いつから居たのか、と言った方が正しいか?
少なくとも動いている間、馬車の扉が開いた様子はないし、馬車が動きを止めた事も無い。
『ホントに神出鬼没…少し呆れるわ。』
「で、何か用?」
『出来る範囲で構わない。オーレン”の”護衛を頼むわ。』
見るからに不満そうではあるが。
『骨があるっていうなら、しっかりと護ってあげて。』
「出来る範囲で、だろ?しゃーないな、ゴトーシュサマの命令なら、はい。リョーカイでーす。」
『マグゼにいいつけるわよ?』
「げげ…わ、解ってるって、アイツだけじゃなくて屋敷にいる連中はしっかり護ってやるさ。まぁ、それはオレだけがやってる事でもないんだし。」
『解ってるわよそれくらい。その上で貴方にオーレンをしっかり護ってほしいって言ってるの。』
「…気になる事でもあんのか?。」
『無茶しなきゃいいけど、ってだけよ。』
私の返事を最後に、チキは気配を消した。
今はもう馬車の中には、間違いなく居ない。
扉を空ける様子も見せなかったが…いっそ魔法を使っているとでも言われた方がしっくり来そうな程に不思議な事だが…。
今度じっくり問い詰めてみるか。
間違いなく隠密行動という点においては、間違いなくキョウカイでも随一と思う。
エル姉やリアンが言っていた事に改めて納得する。
王都の正門から外に出てしばらくしたところで、御者に声をかけ、馬車から降りる。
『数日間、お世話になりました。もう戻って大丈夫です。』
「はい。それではまたフィル様の足となれる事を楽しみにお待ちしておりますね。くれぐれもお気をつけて…」
『ええ、叔母様たちに宜しく伝えて?』
頷き、馬車の向きを変えて王都へと戻っていく。
そして私は、南へと身を翻し、身に付けた装具を改めて確認。
魔力を込めて、体を浮かせる。
王都に戻った時は、もっと遠くで地に足をつけた。
ここで高く浮んだ視界から見える王都の景色は中々にして素晴らしい。
その形を目に留め、町の形状を焼き付ける。
戻った先、私たちが作っている町でも王都と同様の綺麗なモノを造り上げなくてはならないのだ。
『流石にここまで大きくはできないだろうけど、ね。』
そうして、南の空に向かって、魔力の飛翔に身を委ねたのだった。
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最初に迎えたのは、落ち着かない様子の名匠。
次回もお楽しみに!