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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第八章 消える星空
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246話 幼き者たちの想い

246話目投稿します。


血生臭い争い事に巻き込みたくはない。

だが、幼き者にも強い想いはある。

晴れた気分で技術院を後にした時間は何だかんだと夕暮れが近く、それでも昨日に比べればかなり早い時間で帰宅の途につくこととなった。


馬車を降り屋敷に入る前、庭からの声に引き寄せられるかのように訪れた一画。

普段は日の高い内に行っているオーレンの日々の鍛錬。

以前よりかなり腕を上げているのは目に見えてわかる。

今の彼なら間違いなく父の実力を上回っているのではなかろうか?


『精が出るね、オーレン。』

一連の型が終わったところを見計らって声を掛ける。

名を呼んだ私の姿を視界に収め、少しばかり弱々しく笑う。


「ボクは…今のままで良いのでしょうか?」

鍛錬を終え、浴布で汗を拭きながらポツリと呟く。

「フィルお姉様は父の遺した中でもとりわけ危険な所を担ってくれています。母は王都に残ってはいるものの、毎日忙しそうで…」

私より濃い血を継いでいる自分が一番力に成れていない。

そんな現状がまだ幼い彼を悩ませていた。

『…そっか…そうだよね。オーレンは家督の正統な後継者だもんね…』

世話になった叔父の後を継いで、それが叔母の助けになれば、と思っては居たが、考えてみれば、本来の後継者であるはずのオーレンに何も話をしていなかった。

彼はまだ幼く、出来ることは限られている。

だとしても、両親の背中をその目にしてただ真っ直ぐに育った彼は、今まさに己の無力感を感じている。

今の自分にできる事など痴れていると。

それでも未熟な成りに後継者としての姿を望んでいるのだ。

彼が望むなら、私は自分の立場など簡単に捨てても良い。

だが、少なくとも今、彼をそこに立たせる事は出来ない。

「ボクに…いえ、私に何か姉様のお手伝いが出来ることはありませんか?」

がっしりと私の両手を握る熱は十二分に伝わってくる。

『オーレン。今までキミに何の相談もせずに決めた事、今更だって思われるだろうけど謝る。』

頭を下げると、反射的に恐縮してしまうオーレンだが、それでも、相手が幼くとも私なりの想いを伝えておくべきだ。

『でも残念だけど今のキミで私を手伝える仕事はないの。それはキミが若いからってだけじゃない。』

はっきりとした通告に彼は少し沈む。

想いだけではどうしょうもない事は確実にある。

それは逆も然りだ。

だからこそ、今は彼の想いを大事にしてあげたい。

『でもね、キミがここに居てくれる事で助かってる事がないわけじゃないの。』

わかる?と付け加えると、少しだけ考える様子を経て答えてくれた。

「イヴの居場所…ですか?」

『半分正解。イヴだけじゃない、叔母様やこの家の皆、勿論オーレン自身もね。』

改めて彼の手を握り返して、真っ直ぐに目を見て伝える。

『私の故郷はここじゃない…でも、この家は間違いなく私が帰りたいと思う場所なんだよ?』

オーレンがここに居てくれる事が私の支えになっている事。

それを忘れないでほしいと。

在り来りな物言いだとしても、今の私の想いである事は間違いないのだ。


「…分かりました…ならば今は姉様の帰る場所を護るためにこの身を灌ぎましょう。姉様が無事に戻られるその日まで。」

『期待してるよ、オーレン。』

肩に移した手でポンっと叩く。

もう先程までの沈んだ表情は無い。

代わりに見せた顔、その姿はどことなく叔父を彷彿とさせる雰囲気を纏った若き未来の当主のソレだ。




「えー、おねえちゃんのお休み、もう終わりなの?、イヴと全然遊んでないよぉ〜。」

夕食の時間を終え、居間で過ごすお茶の時間。

私の膝の上に腰掛けたイヴが少々…いや結構な不満声を上げる。

『ゴメン、イヴ。明日の夕方には戻らなきゃいけないんだ。』

「むー…おねえちゃんもうずっとそんなのばっかり。」

それでも出会った時に比べれば随分と聞き分けは良くなっている少女。

でも、彼女の言う通り、長い間この屋敷に留め置いてまともに接してあげる時間を取れていないのも事実。

『お詫びにはならないだろうけど、今日は一緒に寝よう?、あと明日の昼まで一緒に居るから。』

「ホント!?、じゃあゆるしてあげる!」

パァッと笑顔でその身を私の太腿に投げ出し戯れる。

決して彼女の不満の全てが解消されるわけじゃないと分かってはいるが、こうして笑ってくれる表情に少し安心する。

これも日々、レオネシアやオーレンがしっかりと世話をしてくれる事に他ならない。

向かいに座る2人の顔を見て、感謝の笑みで頷くと、2人もまた同じような表情で返してくれた。




「おねえちゃん、くろいのちょっとうすくなったね。おやすみたのしかった?」

ベッドの中、隣で横たわるイヴに「黒いの」と言われて少し焦る。

彼女の言うソレは、所謂”暗い感情”のようなものだと今の時点では考えている。

屋敷に戻って来た時に、私の中にソレが在ったという事。

焦る気持ちを苦笑に変えて答える返事。

『そうだね、イヴとあまり一緒に居られなかったけど、色んな人に会ってきて、随分と気が楽になったよ。勿論イヴのお陰もあるよ?』

「ふふ、やった!。」


『叔母様やオーレンは優しい?』

「うん!、イヴ、レオママもオーレンも、あとやしきのみんなも大好き!」

夕方、オーレンにも伝えた事ではあるが、彼女もオーレン同様に掛け替えのない返りたい場所で待っていてくれる一人だ。

『あんまり説得力ないけど、イヴが元気にしてくれて本当に嬉しい。我慢ばかりさせてゴメンだけどね。』

「イヴ、おねえちゃんのおてつだいしたいよ?、でもおねえちゃんも、オーレンも、レオママも、あまりうれしくないんだよね、きっと。」

彼女の言葉に正直驚いた。

確かに、イヴの力はまだ解らない事が多く、それが闇を吸い取る力だという事は何となく理解している。

そして出来ればそんな力を使ってほしくないと私たちが思っているのも彼女は理解している。

だからこそ、この屋敷での日常を、不満を抱えつつも過ごしてくれている。

「でも、アインパパがいなくなって、まちにくろいのがいっぱいふえちゃったの…」

イヴが言うには、葬儀の後、王都に充満してしまった不安や哀しみ、中にはセルストに対する恨みも、彼女の体を蝕むモノだった。

私が出発してからの数日、少しずつ闇を喰み、体調を崩しながらも王都の黒い影をその身に吸収して行ったと、まだ拙い彼女の話から伺えた。


私が王都に到着した時に、出発の時より明るく感じたのは、彼女が頑張ったからこその雰囲気だったというわけだ。


『イヴ…頑張ってくれてたんだね…ゴメン、ゴメンね?』


「いいよ、おねえちゃん。イヴがおねえちゃんのおてつだいできること、あんまりないから…おねえちゃんがよろこぶならイヴもうれしい。」


『ありがとう、イヴ。』


まだ小さなその体をしっかりと抱き締めて、私たちは眠りについた。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


かくして短くも充実した安らぎの時間は終わりを告げる。


次回もお楽しみに!

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