245話 再会の仲間
245話目投稿します。
姿を見せた男は予想外、その技術と知識が今ここで必要なのだと示されるモノが目の前にある。
『え?、まさか、ガルドおじさん?』
あの濃い顔を見間違えるはずはない。
船上から姿を見せたのは間違いなくノザンリィの鍛冶屋であり、刃物を造らせたら並ぶ者は居ないと言わしめる刀匠ガルドその人だった。
「流石に驚いたな?」
何故か偉そうなノプス所長ではあったが、横に立ったパーシィが即座に横槍を入れる。
「何で所長が偉そうに言うんですか…そもそも所長の手柄でもないでしょうに。」
聞けば私がノザンリィを両親と共に出発してしばらく経ったあと、王都からの遣いが彼の元を訪れ、驚くべき事に、遣いから手渡されたのが国王ラグリア直々の召集令だったという。
当時のガルドはそりゃあもう相当に冷や汗をかき、王に謁見するまでの間、生きた心地がしなかったという。
北の名匠とまで言われていても所詮は一般人。
知らないところで悪名でも湧いたのか?首が飛ぶのか?と目を回していたらしい。
実際のところは以前私がラグリアに口を滑らせたのが原因なわけだが、新たな魔導船の開発に関して件の石材を組み込めないか?といった事で、その実作業における優秀な腕が必要だったという事だ。
謁見の場で内容を理解したガルドは、その心労からそのまま大の字に倒れて大きく息を吐いたらしい。
まぁ気持ちは解らなくはない。
『で、西から運ばれた石材をおじさんが加工してる、と。』
ガルドとノプスが並んで首を縦に振る。
「実際は一度あの海底洞窟まで行ってからここに来てるんだけどね。」
付け加えられたパーシィの話によれば、石材の削り出しにも指導が必要だったため、ガルド自身が掘削作業員を伴ってあの洞窟に足を運んだらしい。
「カイルの坊主の話は俺も聞いてはいたが、目の前でアレを見ると俺も辛かった。嬢ちゃん、ラルゴのためにも頑張ってくれよ?」
『うん。』
最近はそっちの進捗は正直なところ芳しくはない。
更に言えば治療が必要なのはカイルだけではなくなってしまったのだから、むしろもっと力を入れたいところではあるのだが…。
『で、石の船って浮くの?』
「馬鹿言っちゃいけねぇよ嬢ちゃん。石は水に沈むもんだ。それにただの石の船作るのにわざわざ田舎モンを呼んだりしねぇだろう?」
言いながらガルドが指を差した机の上、置かれた容れ物には少し緑掛かった砂…というか粉。
『まさか、というか…加工するのも相当って言ってなかった?』
「そこは、ほれ。」
手の平を上に向けて、親指と人差指を丸めて輪を作る。
まぁ依頼者が依頼者だからこそか。
「とは言ってもな、嬢ちゃんのおかげで加工も随分楽にはなったからな。むしろ粉製機作る方がコイツより掛かったってもんだ。」
この男は刀匠じゃなかったか?と若干気になるところではあるが、まぁ…粉にするのも砥石で削るのも似たようなモノなのだろうか?
「この船は今のところは一隻しか作る予定が無いんだ。そして、これは水に浮かべる必要はない代物だ。」
ノプスが船体をコンコンと突付く。
『何と無く予想はついてきたんだけど…コレってもしかしなくても空を飛ぶ船って事で、動力源が私って事かな?』
驚いた表情のノプスだが、スッとこちらを指差し「正解。」と笑う。
船の大きさで言えば…2人、ギリギリ3人乗れるかどうか、と言ったところだろうか?
『うーん…凄い勿体ない気がするから言い辛いんだけど…』
「かーーーーっ!、ヴェルンの野郎、なんちゅうモンを作りやがったんだ!」
憤りの言葉とは裏腹に、嬉しそうに私の装具を手にとって見定めるガルド。
「所長…睡眠時間の変換って訴えれますか?」
ここ数日の作業が台無しになったと言っても過言ではないパーシィを始めとする作業員。
同情はするが、いっそ私専用というなら作る前に相談してほしかったモノだが、この装具が私の手に渡った時間を考えればどちらにせよこんな状況になったのかもしれない。
『んー…』
しかし、これはこれで価値はある。
『この船、小型化しないってのはどうかな?』
未完成とは言えど、これまで造り上げたモノを全て無駄にするのではなく、別の形へと組み替える。
動力源が私というのであれば、コレそのものを私の持ち場として、もっと大きな船体に組み込む。
とはいえ、新しく一隻を作るような人員確保も中々難しい。
「あ…それなら…」
良いか悪いか判断しかねるが、と前置きしてからのパーシィの提案。
そして案内された別室。
開かれた扉の中は明かりを落としているため暗い。
「成程。パーシィ、悪くない提案だよ。」
当然ノプスはこの部屋に有る物を把握している。
付き添った他の作業員も凡そは同様で、中には早速、と準備のために一旦立ち去る者もしばしば。
「私も段取りが必要みたいだね。ガルド氏、必要な粉の再計算が必要だ。」
「おう。わかった。」
私の目にまだこの暗い部屋の中は見えていないが、ノプスやガルドを含め、作業にあたる面々はすでに今後の作業のための準備にむかってしまった。
今は私とパーシィだけだ。
「フィル。入って?」
私とパーシィが部屋に入ると扉は締り、視界が完全な暗闇に包まれる。
程なく灯った光はパーシィが発した小さな魔力光。
「ええっと…確かこっちに…。」
室内を明るくする為の光を点ける装置。
その場所を探る様子のパーシィ。
大人しく待つ私の鼻に、技術院作業場特有の油の匂いと、わずかに感じるのは潮の香りだろうか?
「あった!、フィル?、点けるよー?」
パーシィの声を合図に、部屋が一気に明るくなり、急転する視界に眩しさを覚え、目を閉じる。
眩しすぎてまだ開かない瞼と、私の傍に戻って来るパーシィの気配。
そして…。
「やっぱりさ、フィルの船はこれじゃない?」
『…うん…いや、私だけじゃない。パーシィも、でしょ?』
慣れてきた明るさに開いた視界。
そこに映った船の姿は、短いなれど、私やパーシィを始めとした仲間で西の過去を求めて旅をした大切な船。
そこに私たちのような意志はなくとも、大切な仲間として旅をした船だ。
『魔導船…』
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命がなくとも、意思がなくとも、共に歩んだ旅路を過ごした仲間。
いずれまた、その力が必要な時が来る。
次回もお楽しみに!