244話 技術院の挑戦
244話目投稿します。
休暇とは本当に何なのか?疑問符を数える暇もなく色んな出来事が起こる。
『ふわぁぁぁぁあっ…』
「あら、フィル。大きな欠伸ね?」
朝、屋敷の食堂に向かう途中、レオネシアと一緒になる。
「昨日は遅かったみたいね?」
折角の休暇なのに、と苦笑されてしまう。
叔母の言う通り、昨日は結局夜遅くまで研究所に缶詰状態になった…というより、殆どロニーによる軟禁状態だったわけで、屋敷に戻ったのは日付が変わってから、という程の時間だった。
それもあって、眠気だけでなく空腹も辛い。
早いとこ食堂でゆっくりと美味しい朝食でこの空きっ腹を満たしたいところだ。
『まさかロニーさんにあれ程恐怖を感じるとは思わなかったですよ…』
装具と刃、私の魔力の分析まで考え始めたロニー。
とりあえず採血、とまで言い始めた時は流石に背筋が冷たくなるのを身に覚えた。
「あの子はアインの時からそう。あの人も言っていたのよ?。彼女は要職に付かせるより赴くままに追い求める法が利に繋がるって。」
『え…それってつまり…』
いつまでも只の一般職員と思ってるのは本人だけで実際には研究所随一と言える程の者だ、という事だ。
通りで途中から増えていく職員も文句も言わずに参加していたわけだ。
未来の世界で魔導院と呼ばれていたあの研究所でもニコラという本人以外の評価の高い者は居た。
その顔を少し思い出して笑う。
『案外似てるのかも。』
朝食後しばしの落ち着いた時間を挟んだ後、今日もまた屋敷を後に、今度は行き先を技術院にお願いして馬車に乗り込む。
『連日付き合ってもらってゴメンナサイね?』
御者は昨日と同じ人で、彼もまた私同様に昨日の帰宅は遅くなってしまった。
少し眠そうなのも仕方のない事だ。
「いいえ、お気遣いありがとうございます。フィル様。」
『今日は早く帰れるようにする…多分。』
「ふふ…では参りますね。」
多少の睡眠不足も何のその。
馬車に揺られ、ついつい転寝してしまったのは彼に気遣いした曲に申し訳ないとも思ったが、特に何事もなく技術院にたどり着いたのだった。
「フィル!、久しぶり…でもないか?、前会ったのが、確か会議の時だったな。何年前だっけ?」
技術院所長のノプスは真面目に頭を悩ませてはいるが…。
『ノプス所長。久しぶりはそうだけど、まだ年は経ってないよ…』
「そうだっけ?」
仕事してると時間感覚が狂うと本人は豪快に笑うが、近くの職員は苦笑している者しか居ない。
『それはそれで問題でしょ…』
と、挨拶もそこそこに早速私への対応として案内をしてくれる所長の後に続く。
『水路の設計書が大雑把すぎますよ。あれだと完成は相当にかかる。』
「あ、やっぱり?。ありゃ陛下からどれぐらいの船があるか?って聞かれて出したヤツだ…今は…そんなでもないよ?」
と、到着した作業場の扉を開く。
以前と変わらないのであれば、ここはパーシィが勤めている魔導船の改修所のはずだ。
予想は間違っておらず、開かれた作業場の中で忙しそうに駆け回る作業員の中に彼女の姿も見える。
「パーシィ〜。落ち着いたらおいでー!」
大声で彼女の名前を呼び、彼女もまたどこかしらの物陰から返事を返す。
「所長?、少し待ってくださいねー!」
中々にして忙しそうだ。
「ってフィル!?、いつ戻ったのよ!」
しばらくしてこちらに姿を見せ、私の姿を視界に捉えるや否や、急ぎ足で近付き、勢い良く抱きついてくる。
ロニーの時とは違って、今度はしっかりと抱き止める。
『私も何やかんやで忙しくてね。ホントは昨日来る予定だったんだけど、ロニーさんに捕まっちゃって…ゴメン。』
抱き締められた彼女の体が、その口よりわかり易く「会いたかった」と教えてくれる。
「パーシィ。司令殿に状況報告してもらえるかな?」
妙に畏まった様子でノプスが促し、一瞬頭に疑問符を出したパーシィだったが、これまた互いの視線を交わし、私の方をまじまじと見つめ、把握した様子。
「一先ずは小型化の算段はついて、今はどれだけ量産化できるかってところ。」
話がてら室内を案内して回る中で、実際に形が出来上がっているモノが数隻。
『ここにあるのはそんなに数がないけど?』
「組み上げたモノは順次、実用試験してるよ。」
今ここにある正確な数は三隻、ちょうど昨日も完成したものが王都の港湾部に運ばれ今も尚実動試験が行われているらしい。
「量産化するためには出来るだけ安価に仕上げる必要があるからねぇ。実用に耐えうるかどうかも浮かせてみないと判断できないのが手間なところさ。」
雑なノプスでも資金という言葉は頭の辞書にあるようだ。
『で、その実用試験を無事に通過?したのはどれくらいあるの?』
「実は割と沢山出来上がってるんだよ。」
パーシィ曰く、試作機に使われた資材は私たちが使った魔導船と大差なく、そのまま小型化したようなもので、当然魔導船の実績が実用性を物語っている。
そこから製作を重ねる毎に逆にその出来栄えを下げていく形で一隻に必要な資金を削っているといった感じらしい。
「だからさぁ、正直なところそろそろ完成品の行き先も何とかしなきゃならんくなってきたって所なのさ。」
確かに水上に浮いているとはいえ、港湾部を埋め尽くすわけにもいかず、行き場の無い船の行き場が必要という悪循環になってしまっているという。
『こっちの水路も最終はともかく、開通もまだ掛かるだろうしなぁ…』
「でもね、今はちょっと違うんだよね。」
とパーシィが立ち止まったのは作りかけの船の前。
隣りにあるソレとは一転して違っているのがわかる。
『…これって…』
「実はね、ロニーさんもちょこちょこここに来てるんだよね。あとは…」
私達の話し声が聞こえたのか、製作中の船上からひょっこりと頭を覗かせた人影。
その口から発せられたのは…
「ありゃ?、もしかしてジョンのとこの嬢ちゃんか?」
『えっ?…』
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姿を見せた男。彼もまた久しぶりの再会となる人物だ。
次回もお楽しみに!