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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第八章 消える星空
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243話 好奇心はお茶に添えて

243話目投稿します。


久しい仲間との再会は、懐かしい日々を思い出す時間でもある。

学術研究所。

ここに勤めていたのはかれこれ2年程前だっただろうか?

その間、異世界…というよりは未来の世界で過ごした時間もあり、すでに明確な期間としては不明ではあるが、随分前なのは確かだ。

外から見える景観にさしたる変わりはなく、これはこれで懐かしい気分を後押しする理由の一つでもある。


ギィ…と重苦しい音と共に開く書庫の扉の感触すら感慨を覚えてしまうのは今日までに起こった出来事があまりにも波乱万丈だった事にも起因するのか?


今は誰か整理する者が他に居るのか、初めてここを案内された時に比べれば整理整頓がしっかりと成されているようだ。

「ん、しょっ、と。」

懐かしさに耽る私の耳に誰かの声が聞こえ、音のする方へと自然に足が動く。

本棚の影から頭だけ覗かせて視界に映った人。

その姿もまたさしたる変わりもなく、忙しくも元気そうで何より、と胸が少し熱くなるのを感じた。

『ロニーさん。』

突然名を呼ばれた彼女は周囲を見回し、本棚の影から顔を覗かせる私と視線を交える。

「っ!」

ドサドサっと抱えていた書籍が床に落ち、重さから解放された腕が私を求めて伸びる。

『わわっ!』

ドスン!と今度は彼女の勢いを支えきれず、共々後ろへと倒れる事となる。

床に残る埃が舞い、窓から差し込む光に揺られて、まるで埃が煌めいているような錯覚すら覚える。

「フィル!!」

改めて私の名前を呼び、両手で頬を包み、そしてまた確かめるように抱きつく。

「会いたかったよぉー!」

感極まった彼女の背を擦り、『私も…』と口を開く。


『本の整理、ロニーさんがやってたの?』

少し落ち着きを取り戻した彼女と共に散らばってしまった本を片付ける。

「ううん。今は当番でやってる。今日は私だったってだけだよ。」

『そっか。運が良かったねぇ?』

「もう少し早く来てくれたらもっと良かったよ?」

と返す言葉も相変わらずで少し安心する。

こうして2人で本の整理をするのは本当に久しぶりだ。

以前なら大抵この後は小さなお茶会が開かれていたのを思い出し、

『生憎だけど、今日はお土産はないんだ。』

と苦笑する。

「フィルに会えたのが私にとってのお土産かな〜。」

とロニーも笑う。


お茶請けはなくともお茶は飲めるわけで、少し口が寂しいものの積もった話をするには都合が良い。

「ふーん、じゃあマリーの鼻は見事にへし折られたってわけね。ざまぁみろ。」

話題として挙がったのはやはり建設中の町の話。そこには彼女の姉であるマリーについても含まれるわけだが、先日の訓練の話を聞いた彼女の台詞、最後の一言は小声ではあったがしっかりと聞こえてしまったよ…ロニーさん。


『ロニーさんは今どうしてるの?』

先程片付けた本、全てというわけではないが、目についたその題材はいずれも石を基調とした建造物についてだった。

そもそも彼女の専攻は史実、しかもかなり古い部類のモノだったはずだが…。

「…うん。私なりにあの遺跡での出来事は思う所があってね。もしかしたらあの時の言葉が無ければ、彼があんな事にはならなかったかもしれない、と。」

だから古い史実を調べると同時にあの遺跡のような建造物についての研究を掘り返していたのだ、と。


そうか…だからこそ彼女は私に顔も見せず、ひたすら研究に没頭していたのだ。

彼女なりにカイルをもとに戻す方法を、彼女なりの方法で探していたのだ。

『…ゴメン。』

「何謝ってんのさ?、確かにあの頃は私も自分を責めたりもしたけどさ。今の私がこうして居られるのはフィルのおかげでもあるんだよ?」

逆に礼を言わなければ、と。

「確かにあの時のフィルの様子は見ていられなかった。」

一度は自分も目を逸らし、後悔に苛まれ、何をする気力も湧かない日々。

それでも耳に入ってくるのは、何より私がこの足を止めず前へと進み続けている事実。

一番辛かったはずの私が希望を捨てずに居る事が彼女の活力になったのだ、と。


『そっか…だったら良かった。』

会う時間も取れず、言葉を交わす機会もなかったが、私にもロニーが奔走しているという話は耳に届いていた。

『お互い様…かな?』

「ふふ。そうかもね。」


「ところで…フィル、腕のソレって。」

腕輪を指差すロニー。

流石は目聡い。

遺跡について研究を続け、且つあの海底洞窟にも足繁く通っていたであろう彼女の目を誤魔化すのは難しそうだ。

まぁ隠す事でもないが…。

むしろ彼女に話してみれば新しい情報が手に入る可能性は高い。

『じゃあ…まずはコレ、かな?』

一本の刃を腰から取り出す。

スッと指先を揺らし、少し離れた床に落ちている紙屑に狙いを付ける。

少し意識を集中して…

貫くんじゃない…引っ掛けて…持ち上げる。

『ふぅ…』

紙屑を手元まで運ぶ。

「お…おお!、すごいな!!」

『実は細かい操作はまだ苦手。今のも上手く出来て良かった。』

意識して放てば、間違いなく書庫の床を破壊してしまう事を付け加えておく。

次に、身につけた装具。

これもまた精密な動きは慣れているわけではないが、勢いよく飛び上がって天井に頭を挿すわけにはいかない。

慎重に…。

ふわり、と体を浮かせる。

「おお…それも風魔法ってわけじゃないんだね?」


『ふぅ…こっちは王都に来る直前に渡されたから、さっきのより慣れてないんだよね。』

先程の少し暗い表情から一転、今のロニーは己の好奇心を震わせる出来事に鼻息も荒い。

「もっと、もっと見せて!」

ぐわっと掴まれた肩が軋む程の力だ。

『いたたた!?、わ、わかったから!』


ロニーの勢いに気圧され、溜息を付く。

窓からの日差しはまだ昼より前の早い時間を教えてくれるものの、どうやらこのままだと今日の予定は都合良くはならなさそうだ。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


何故か休暇は休暇で忙しい。休むとは一体…?


次回もお楽しみに!

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