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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第八章 消える星空
248/412

241話 立場の目線

241話目投稿します。


見るモノによって違うモノの見え方。

言葉ではなく経験として理解する方が早い事もあるものだ。

数少ない人波を一先ずは上層に上がる昇降機が設置されている場所へと向かう。

目敏く私の姿を見つけた住民の幾人かは恭しく会釈をしてくれたりもするのだが、正直慣れない…というか、都度畏まらないでほしいと返事をするのも中々にして面倒。

ラグリアに話そうものなら、気にする必要はない、だとか、小心者め、などと小馬鹿にされるのは間違いない。

でも仕方ないじゃないか、数年前までの私は地方に暮らすただの田舎者の娘だったのだ。

今の状況や立場は一体誰のせいか?と逆に問い詰めてやりたい。

残念ながらその原因の半分、それ以上を担った人に問い詰める事はできないのだが…。


いっその事、今日になって身についた力を使って屋敷まで飛ぶか?とも考えたが、昇降機前の水門を手続きも無しに通るのも今の私の立場上からすれば褒められたモノでもない。

それに多少なりとも人目がある中でソレを使うのも今時点では気を使うべきだと思う。


『あー…』

そういえば荷馬車の主に口止めをしておくべきだったか…短い時間ではあったがあの男の印象としては会話好きな感触があった。

土産話が膨らまない事を祈る他あるまい…。




通行人とのやりとりを何度か繰り返し、中にはまるで信仰の神様みたいに崇められガッシリと手を握られるなど、対応に困る事もしばしば。

水門に辿り着く頃には先の飛行による疲労とは違った疲れにヘトヘトになってしまった。

「はい。以上で終了です。」

お手数かけます、と門兵は謙遜するが、大事な事だ。

彼らのような存在の重要性は今になってよく分かる。

「お疲れのようですが、上で足を御用意致しますか?」

私の様子を鑑みての提案。

『あー…そっか…成程。』

改めて見たところ経験豊富そうな門兵からの提案は、まさに先程までの住民との触れ合いを見越しての事と分かる。


多くの観衆の中で立場のある者がその目に晒されるというのは、場合によっては激しい熱狂の渦にもなりかねない。

故に貴族を始めとした立場のある者は町中の移動でも馬車などを使うわけだ。

中には少しでも楽したい、といった者も居るだろうが、少なくともそういった手段を取れば余計な疲労からは逃れられるのは確かだ。

『まぁ…有名人が居れば誰だってそうなるか?、えっと…この時間の人波ってどんな感じかな?』

多くないならそのままでも問題はないと思いたいが…。

「そうですね…これといった催しの予定はなかったと思いますが…フィル様の場合ですと、上の方に見つかれば色々とその…。」

詰め寄られるのは間違いない、という事だろう。

『そっか…じゃあ用意してもらおうかな…。』

「心中お察しします。では早速伝令を走らせますね。」




用意のため、としばしの時間を置いて昇降機へと向かう。

乗り込んだ馬車から見える上層の様子は人波はそこそこだが、下での出来事に比べれば何事も起こらない。

馬車に身を隠す効果というのは絶大だ、と身を持っての経験を得る事となった。

『私が軽く思ってたより見方次第って随分変わるって事か〜。』




「フィル!!」

屋敷に到着した馬車から下りた直後、ものすごい勢いで私を抱きしめたのは現当主であるレオネシア=スタットロード、私の叔母だ。

いつもなら近況を急かしたり、体に傷を作っていないか、と言った心配が強かったモノだが、ただただ私の名を呼んで、優しく抱きしめてくれた。

『叔母様…』

彼女に倣う…というわけではないが、何となく叔母の気持ちも解る。

故に私もただ、彼女の背に腕を回し、優しい叔母を抱きしめ返す。

『…ただいま戻りました。』

「ええ、ええ。おかえりなさい。」


無事の帰還と相成った祝いも兼ねて用意された豪勢な夕食の時間。

普段の夕食より遅い時間のはずだが、集まったイヴやオーレンを始めとする屋敷の者たちも最初から私の到着を待つ予定だったようで、成長期の2人にとって空腹の我慢はそれなりに堪えたはずだ。

『イヴ、オーレン、待たせちゃってごめんね?』

オーレンは流石に恐縮と言うが、イヴはやはり相当我慢したようで、モリモリと平らげていく。

そんな変わらない様子もまた見ていて和むモノだ。

建設中の町でも、賑やかな食事の場は幾度もあったが、やはりこの屋敷で取るモノに比べればどこか異なる。

ここにはここだけの温もりのようなものが確かにある。




「そう…やはり南との衝突は避けられない、と。」

『ええ。情報からすれば、今まさに侵攻が始まっていてもおかしくない、と。』

夕食を終え、食後の短いお茶の時間も終え、就寝の時間となり、イヴとオーレンは私との時間を惜しみながら自室へと戻り、訪れた夜。

執務室兼応接室である部屋へと呼び出された私は、叔母との夜の茶会の時間を得る。

建設都市の近況、南方からの圧力。

逆に王都の近況、ラグリアの様子や技術院の開発、学術研究所が最近調査している事、果ては王都に飛び交う世間話までしっかりと聞く事ができた。

叔母もそれなりに情報通なようで、存外真面目な内容が全てといった感じにはならない。


「最近、学術研究所の方が少し慌ただしい気もするんだけど、あまり明確な情報が手に入らなくてね…どうやら西側が絡む案件のようではあるのだけれど…。」

ごめんなさい、と謝る叔母だが、それこそ非礼に当てはまるものではない、というものだ。

『いえいえ、叔母様、頭を上げてください。謝るような事でもないでしょう?』

私の返答を聞いた叔母が、ふふ、と笑って「言われてみればそうかも?」と更に笑う。


「最近は私の執務室に籠りっきり…オーレンやイヴにも寂しい想いをさせているのでは、と思うところもあってね…」

謝り癖がついてしまったのかもしれない、と叔母は言う。

叔父は、叔父の仕事っぷりというのは改めて考えても常軌を逸していたと言える。

キョウカイや軍部に関する物を私が担っているとは言え、その他の仕事量もそうそう慣れるモノでもない。

叔母もまた、少し前の私同様に、気を張り詰めてしまっているのではないか?と感じ


『叔母様、明日は皆でお出かけしませんか?』


と、一つの提案を伝える。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


以前訪れた王都近郊の草原、あの時間を共に過ごした者の今は…


次回もお楽しみに!

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