238話 指導者の仕事
238話目投稿します。
現場への訪問は作業者への何よりの激励、単純な触れ合いもまた力の源だ。
『思ってたより全然広い…』
今まで生きてきた中で都市建設も初めての経験ではあるが、建物を造るという意味ではモノは異なっても故郷で目にした事はある。
簡易なモノであればそれこそ、王都のスタットロード家に於いてオーレンの鍛錬の場、その休憩所として建設が行われたのもそれとなく目にした記憶はあった。
しかし、今目の前で行われている建設作業は主だったところが掘削。
少しずつその範囲を伸ばしていく作業場はほぼ一直線に王都に向けて進められている。
「作業は順調だが、当然すぐに完成となる物でもないからな。」
取り纏めとしてあたる中でグリオスが案内してくれてはいるが、彼にしても今までの殆どは戦いの装用の印象が強かったせいか、作業用の服装は新鮮そのものだ。
『お任せしっぱなしで申し訳ないです。』
「いや、むしろ俺以上の適任者もそうは居まいよ」
嬉しそうに言うグリオスだが、その腕に巻かれた包帯が少々気にかかる。
先日の兵士隊訓練場での立合い相手となったグリオス。
彼の攻撃もまた父には及ばなかったが重みのあるモノだったのは良く覚えている。
兵士達の訓練と、この河川作業、日々忙しい中で残った傷が影響しないわけもない。
『先日の傷…私が言うのも何ですが、ご無理はしないでください。』
「がっはっは!、こんなのは大したモノじゃあないさ。それにフィルの一撃であれば負った価値もあるというもの。」
立場が変わったとはいえ、その豪快さは変わらず。
曰く、領主としての狭苦しい生活より今の方が気楽で楽しいのだ、と。
『私は全然予想ができないのですが、完成はどれ程かかるのですか?』
「この広さのままで続けたとすれば王都に繋げるのは数年かかる。一応は技術院からの指示書ではあるが…ヤツらはこの手の勘定が雑だからな。」
普段から持ち歩いているであろう覚書きを眺めながら少し困ったような表情を見せる。
『貨物船となれば様々でしょうが…』
確かにノプスの性格を考えれば、遠い未来に完成するであろう船舶の運航を考えての河川幅を書いていたとしても何ら気にしなさそうだ…。
『一度、王都に確認したほうが良さそうですね。』
「うむ…すまんが頼めるか?」
『では一先ずの開通を優先に、幅は…そうですね馬が2頭走れる程度あれば十分かと。』
「分かった。掘削頭に伝えよう。アレはいい仕事をするぞ?ヌシも鼻が高かろう。」
掘削頭とは、その名の通り、この工事に於いて土を削るのを主に行う衆で、頭というからには掘削作業の纏め役といったところだろう。
が、鼻が高い、というのは…。
『あ、もしかしてノームが?』
グリオスと連れ立って案内された掘削の最前線。
作業内容故の膨大な土の山、行き交うジャイアントと船乗りが止まることなく掘り出された土の運搬に勤しむ。
少々照れ臭いのは忙しそうに動き回る彼らも、私の姿を見て喜んでいるところ。
別に何をするでもなく、ちょっとした挨拶してるだけなのだが…。
「どれだけ厳しく接したとしても、ヌシの役に立ちたい者は多い。そういった者にとっては現場に足を運んでくれる指導者の存在は何より嬉しいモノさ。」
『そんなものですか…』
「うむ。その辺に関してならマリーのヤツが熱く語ってくれるぞ?」
『いや、それは遠慮しておきます。』
また良からぬ事を押し付けられるのがオチだ。
「ふぃる!ヨクキタ!」
『やっぱりノームは凄いなぁ…偉いぞ?』
「オレ、ウレシイゾ!モットガンバル!ふぃるモヨロコブ!」
モフモフ頭を撫でるととても嬉しそうだ。
『ん?』
気付けば他のコボルト作業員がノームの後ろに列を作っている。
「オレモドルゾ!」
場所を譲る形でノームは作業に戻ったのだが…後ろに立っていたコボルトがおずおずと頭を突き出す。
ノームにしたのと同じ様に頭を撫でてあげると、同じく喜び、作業へと戻る。
『えっと…何だコレ…』
「指導者の仕事だな。」
『おおう…』
唐突に沸いて出た指導者の仕事とやらが終わったのは、グリオスが改めて作業の変更をノームたちに伝え終わって一旦の落ち着きを挟んだ後だった。
町に戻り、自室へ辿り着いた頃には日が暮れ、待機していたリアンも「思ったよりかかりましたね。」と漏らす程。
彼の報告を受けて急ぎの仕事を終え、数日先の予定を考える。
「確かに一度王都に戻るべきかもしれませんね。いっそフィル様も休暇を取ってみては如何ですか?」
指示が必要な事であれば、マリーやリアンに任せる事も出来る。
河川については、伝令を送るより直接聞いた方が、ノプスの性格を考えれば確か。
それにイヴを始め、スタットロード家の面々やラグリアに会うのもまた報告を兼ねる意味でも悪い事じゃない。
気掛かりなところと言えば、やはり南方からの侵攻。
休暇を進言したリアン本人からの報告で、その動きも近いともなればのんびり休暇を取るのも憚られる。
「大丈夫です。フィル様が不在であっても、我々は戦える。むしろそうでなければ意味がない。」
その本意は、私が軍勢に紛れての戦いに参加すべきではない、と。
「間違いなくセルスト卿に相対できるのはフィル様でしょう。その力を削がれるわけにはいかない。どれ程こちらに犠牲が出るとしても、フィル様は入り乱れる戦場に出るべきではないのです。」
『でも…』
「私たちはフィル様のために活路を開くために貴女様と共にあるのです。」
だから、もしも侵攻が起こったとしても、自分達を信じて欲しい、と。
『うん。そうだね…私だけじゃないんだよね。』
今更ながら極当たり前の事を理解する。
戦うのは私だけじゃないのだ、と。
感想、要望、質問なんでも感謝します!
王都への短い休暇は、しばしの安らぎと大事なモノの再確認の時間。
次回もお楽しみに!




