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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第八章 消える星空
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237話 隠密の集い

237話目投稿します。


どれほど人を楽しませても、叱りを受ける事はある。

それもまた家族の暮らしの一部だ。

父との立合いの日から数日後、町に流れる世間話の中に私たち家族は揃いも揃って化け物か?などと言った冗談めいた噂話が飛び交うようになり、案の定私と父は、憤慨した母によってこっぴどく叱られる羽目になってしまった。


小声で私を責める父だったが、それすら理由の一つとして上乗せされ、その時の母の笑顔は恐怖以外の何事も感じることが出来なかった。


結局のところ、立合いでのやりとりの中、私が欲していた圧倒的な力による攻撃手段は父からの助言も得られず御座なりとなってしまっては居るが、母の説教の後で相談に乗ると言ってくれた事で一先ずの課題として私個人の今後を示す事となる。


あれだけの力を魅せた父を、王国軍の強力な駒としてセルストにぶつけるのも手段の一つである事は私でなくとも考えに及ぶところだが、出来ることならセルスト相手だけでなく、そんな事に関わってほしくはないと思うのは肉親だからなのだろうか?

だとしたら私は卑怯者、贔屓者と咎められても仕方ない。


『父や母だけじゃない…出来ることなら誰にも…』

傷ついてほしくはない。




そして迎えたその日の夜。

まだそれほど遅くはないが、早めにその日の作業を終えて戻った私。

執務室兼自室に物音静かに訪れる数名の影。

気配から察するに以前のような襲撃者の類ではない。

纏った緊迫感は大差なくとも、私に向けられる殺気はない。

「随分と暴れてたみたいだな?」

「あまり無茶されない方が良いですよ?」

早々にたしなめる言葉と、心配を踏まえた助言。

この訪問者たちもまた久しぶりに姿を見せる。

『南方の様子はどうだった?』


「あの一団は全体の半分どころか1割にも満たないな。」

先日の襲撃の際にセルストを迎えに来た敵軍の一団。

もたらされた情報によれば可能な範囲で確認できた総数の1割に満たない、という事だ。

彼らが調べた範囲という事ならそれ以下の可能性もある。

「程なくこちらへの侵攻が始まるでしょう。こちらの水路の確保が間に合うかどうか…と言ったところですね。」

南方に潜入を試みていたエル姉とリアンからもたらされたのは、敵軍の動きが近い事とその物量。

私が見た一団の規模から考えると、今この町に駐屯している総数では足りない。


「東領への侵攻はあまり考えられないと思われます。」

オスタは今回の出兵には参加せず東に残り南方からの侵攻を監視していたようで、時折ちょっかいを出してくる事はあっても以前のように本格的な侵攻の様子は無いという。

「存外、あちらの防衛に関しては、エルフ族の協力もありますので何とかなりそうですよ。」


「王都を繋ぐ水路建設は順調だけど、作業員の疲労が心配なぐらいかな?いっそフィル様が激励に行けば皆も喜ぶかもね。」

エデは資材運搬に紛れて進捗を見守っていた。

同時に王都を行き来してあちらの情報も仕入れている様子。

「技術院周りでまた面白いモノが開発されてるみたいだ。細かいとこまでは調べる時間が無くてすまないが…」

技術院といえば、今回の都市建設に於いて現状での明確な協力の形は未だに見えていない。

所長のノプスからすれば真っ先に支所を作りたがりそうな気もするが…。

「多分、開発が形になったらこちらへの参画があると思うよ。」

とすれば、ノプスだけでなく、パーシィにも会えるかもしれない。

あまり危険な場所に出向かれても私の心配の種が増えるものの、彼女自身の強い想いと行動は私には止められないところでもある。


「水路が完成すれば西からの航路もできますので元領主様も指折り待っている状況ですね。」

それまでの西の動きとしては、先のエデの報告に付け足すように加えられる。

「恐らく技術院で開発が行われているのは船舶に関する物と推測されます。」

ヴェスが得た情報、聞けば西からの先兵の一部として、技術院からの要請で熟練の船乗りが多く集められているらしい。

私が出立する前もパーシィは引き続き魔導船の改修に携わっていた事も踏まえると大筋は間違いないだろう。


こうして夜な夜な集うキョウカイの面々を見ていると、情報の大切さと、彼らの存在の有り難さがよく分かる。


備え付けの小さな調理場で彼らに労いがてらのお茶を出す。

「フィル様、腕をあげられましたね?」

リアンから褒められると嬉しくなる。

『ありがとう。』

感謝の言葉は褒められた事に対してだけじゃない。

人知れず私の手助けに動いてくれる彼らへと贈る言葉だ。




しばしの休息を得た彼ら、再び己の任務につくため足早に町を後にする。

「じゃあ、リアン。またしばらくは頼むぜ?」

「貴女の援護に比べれば随分と楽になりそうですね。」

「ヘッ、言ってろ。」

悪態を付きながら、エル姉は姿を消し、リアンは「やれやれ」と肩を竦める。


「では明日から宜しくお願いしますね。フィル様。」

早速、寝泊りする居を探さなければ、と町へと繰り出すリアン。

『だったら母のところに行ってみるといいかもしれない。』

「ありがとうございます。では本日はそのように…」


リアンが町に残るのなら、明日からの事務作業も楽になるかもしれない。

と、思いつつも南方からの侵攻はやはり少々気掛かり。

今宵聞かされた彼らの報告を元に、対策を練る必要がある。




皆を見送った執務室、その机の上に広げられた地図が目に留まる。

今尚新たな記述が増えていくこの地図の、南側…スナントと呼ばれた国に暮らす人々が望むのは本当に闘争の先にしか無いのだろうか?

押し寄せる南の軍勢が焼き尽くす大地は、過ぎ去ったその地に新たな芽を育む事ができるのか?

避けられない戦いは止むを得ないとしても、命の駆け引きの先に新たな未来を作り出す方法は…必ずあると思いたい。



感想、要望、質問なんでも感謝します!


迫る南風。

体を蝕む熱気に悩むのなら、時に北国の涼しい風を感じてみるのも悪くないだろう。


次回もお楽しみに!

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