236話 伝説が語る力
236話目投稿します。
偉大さは、その本質の理解が困難だからこそ感じる。
父の冒険者としての姿を見た事は無い。
物心ついた時には、ノザンリィの町で狩人もしくは木こりとしての生活をしていた。
普段から持ち歩いていた武器としては斧。
片刃で大振り、扱う者が限られるくらいの大きさではあったが、父がその重さに体を揺らされた記憶はまったく覚えがない。
しかし、父が待ち受けていた。準備されていた戦いの場には、斧だけじゃない、剣、槍、短剣、鉈、鎌、果ては農具として日常的に扱われる物まで様々な武器が用意されている。
『父、斧以外も使えるんだ?』
「真の達人ってのは武器を選ばないってぇ話もあるからな。まぁ…俺が達人って代物かどうかは分からんけどな。」
でも、と歩み寄り担ぎあげた一品はやはり斧。
「日頃から使い慣れてるのはやっぱりコイツだろうな。お前だってそう思うだろ?」
『そりゃね。』
斧といっても、生活の中、それこそ木こりとして使うソレとは一線を隔している見た目。
恐らくそれこそが父の愛用の代物なのだろう。
『そんなの持ってたんだ…?』
刀身は大きく両刃、父の体躯と比べても大きすぎるソレは、ジャイアント達が持ち歩いた方が違和感を感じないと思うほどだ。
「これこそ、お前のソレが出来る前までガルドの最高傑作とまで言われた一品だ。お前のと同じで扱える者はそうそう居ないんだぜ?」
確かに斧でなくとも、大きさだけでも、この武器を扱える者はそうそう居ないのは何となくわかる。
『今まで見た事無いんだけど…』
「そりゃお前、俺がコイツを日常的に振り回してたりすりゃウチの裏の森なんざあっという間に平地になっちまうよ。」
達人は武器を選ばない、と父は言うが、その達人が己に見合った、馴染んだ得物を手に取れば、そこに生まれる力は圧倒的な物になるだろう。
私が見た事がないのは、両親がソレが生み出す力を知っているからこそ、隠し続けていたのに他ならない。
「で、どうする?」
『少なくとも今までのようにはいかなさそうだね。でもやるよ?。父さんの本気、私も見てみたい。』
私とて、相手が父、伝説の冒険者だとしても、そう簡単にその力に呑まれるつもりはない。
今、新たな王国軍に必要なのは力そのものは勿論だが、何よりソレに類する者たちの意識の持ち方。
傭兵部隊、冒険者部隊は、他の隊とはその立場は異なるが、彼らが軍の一画として力を貸してくれるのであれば、皆と同じ想いを留めていて欲しい。
だとすれば私に出来る事は、目の前に立つ男に全力で相対する事。
『いつでもいいよ。』
「娘に向かって振り下ろすのは気が引けるなぁ…でも、ま。」
飄々とした言葉を発した直後、父の姿が視界から消え…
背中にピリっとした感覚。
三刃は自然に圧を感じる方向へ防御壁を展開している。
が、それでも私は立っていた場所から、一歩だけ身を逸らした。
直後、バキン!と音を立てて、私が立っていた場所に一筋の亀裂が走る。
「おぉ~、流石はフィルだ。」
ガラティアも、グリオスも、マリーと魔術師たちさえ、三刃が作り出す防御壁を打ち崩す事はできなかった。
しかし、父はいとも容易く、その壁を打ち破り、攻撃を通した。
『父も…流石だわ。』
まず動きが見えなかった。
恐らくは背後の頭上から振り下ろされた一閃。
加減をした、とは思いたくないが、この一合だけでは父の力が図り切れないのも事実。
「しかし、硬いな、ソレ。そう簡単には破れねぇわ。」
『軽く通したクセに…』
あっはっは!と笑いながらも「そうでもねぇよ?」などと軽口を叩く。
父の強さはこの一合だけでも確かなモノだと解る。
あまりにも他の追随を許さない程の圧倒的な力なのに、あの人…セルスト=ヴィルゲイムとは纏った空気も雰囲気も真逆。
あの人が言うように、戦いにおける緊張感、命の駆け引きを行うという緊迫感、倒れてしまう事によって失われる危機感…それを知らしめるためのここ数日間の私の行い。
最初に相対したガラティアが疑う程に私らしくない行動は、少なからず私の心を軋ませるモノだった。
『父…私は…間違ってるの、かな?』
「どうだろうな?、でもさ、何をしようが、何を思っても、結局はフィルだろう?。俺やアイナとは考え方だって違う。それが俺たちの娘として育ったお前そのものさ。」
だからこそ、自分は今この時、私の前に立っているのだ、と。
「俺も、アイナも、根っこのところはお前を溺愛してるって事だな!」
ガハハ!と笑う。
流石に多くの観衆が目を向ける最中で恥ずかし気もなくそんな台詞を言われてしまうと、こちらの方が羞恥心に耐えきれなくなるので止めて頂きたいところ。
『父、馬鹿…』
「で、まだやるか?正直、その硬さと昔からのその勘の良さを知ってる身としては疲れるんだが…。」
しかし、ここでやめるわけにはいかない。
このまま痛み分けのような形で終わらせてしまっては、この数日間で私が荒らしてしまったこの町の空気が揺らぐ。
強さは強さとして、今以上の物が必要なのは間違いないのだ。
だから、父との手合わせもまた、明確な終わりを知らしめる必要がある。
『父が強いのは解った。だったら、私も…私の力を確かめるための時間を貰う。』
ここしばらくの間、事戦いに於いて、主に防御を担っていた刃。
護りの力を強くすれば、より多くを護れる物として間違いはないだろう。
しかし、それだけでは戦いに勝てるわけもない。
鋭い刃を投擲して打ち崩せるのは、あくまで相手の弱いところ。
殆どの場面で通用するであろうソレだけでは勝てない相手がいる。
そう、例えばベリズのように強靭な肉体を持つ者ですら、打ち崩せるような圧倒的な力。
刃の鋭さだけで足りない時、そこに込めるべき力の源を。
曰く容易いわけではないが私の防御の上から通した父の一撃。
それと同じ、それ以上の力が欲しい。
「ふむ…フィルにはちょっと難しいかもな。」
相談を踏まえた父から返された言葉。
父は勿論、魔力に長けているわけではない。
その父は、父と同様の力は私には難しいと言う。
けれど
「きっとお前にはお前に相応しい剣があると思うぞ?」
感想、要望、質問なんでも感謝します!
自分に相応しい剣、それを手にするために必要な事は…
次回もお楽しみに!