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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第七章 鳴動戦火
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235話 非情な駆け引き

235話目投稿します。


敵軍にあって自軍に足りないモノ。

頂きに立つ者が身を以て知らしめる重みを投じる。

「ぜあっ!」

ドゴッ!

威勢の良い掛け声と共に揺れる地面。

シロがその実体とも言える姿を消し、セルストとその軍勢が去ってからの数日後、改めて再編された国軍の訓練場であるこの町の兵舎の一画。

今日の主な鍛錬はガラティアに対する武闘兵達の組手が行われているようだ。


やはり彼女は以前と同様、それ以上の研鑽による強さを元に並居る武闘兵をものともしない様子で相対している。

が、あの男の言葉を聞いた後となってはそれすらも緊迫感に欠けている気がするのは私の焦りなのだろうか?


「よう、フィル。ここに来るのも珍しいな?シロのヤツは一緒じゃねぇのか?」

私の姿を捉えたガラティアが汗を拭きながらこちらへと歩み寄る。

私とシロの手合せの直後、セルストの襲撃から避難させた者たちは、まだ、シロの事を知らない。

あまりにも呆気なさ過ぎる消失は、いつもみたく気付かないうちに姿を消すのと変わらぬ気がしたのと、彼の存在による拠り所を無くしてしまう事への怖れ。

叶わぬ事と分かっては居てもどこかで縋りたいという甘えもあった。


『…張り切ってるみたい。』

「そりゃあんなの魅せられたら体の疼きが止まらねぇさ。見に行ったヤツらは殆どアタシと同じだろうさ。」

『ふーん…そっか。』

盛り上がるのも猛るのもいい。

でも何かが足りていない。


『ガラも私と戦ってみたかったりするの?』


何気なく呟いた言葉に驚く彼女。

カイルじゃあるまいし、私の口から出るような類ではない。

ただ冒険を楽しむだけの日々であれば良かった。

「アタシは手加減は得意じゃねぇんだが…」


シュっ!


小さく動かした指、放たれた魔力に舞う刃がガラティアの喉元で止まる。

『多分、ガラが思ってる前の私とは違うよ。』

流石の挑発は功を奏し、ガラティアの目は野生の獣のように鋭いものへと変わる。

彼女が纏う気配に呼応して訓練場の空気が張り詰めるのを感じる。

これで、やっとといったところか。


『ガラ。一つだけ言っておく。』


殺すつもりでこい。


「いつの間にかお嬢様が魔女になっちまったみてぇだな。」

久しぶりの本気が出せそうだ、と。

少し腰を落としたその体から魔力ではない気が膨れ上がる。

あれは恐らく命の力。

誰しも持ち得て、常に体を巡っている生命力の源と言っても過言ではない力だ。

彼女ら武闘家と言った類の戦士が己の体をより強靭なモノへと高めるための技術。

その見た目すら一回り大きく感じるような気迫からは、気安く手加減などといった言葉とは無縁、決して平和に感けたようなモノではない。


「シュッ!」

短く息を吐き、一足で間合いを詰め、拳を突き出す。

ギンッ!

確かな重みを感じる。

がそれもシロとの攻防に及ぶモノではない。

ましてセルストの猛攻に比べようもない。

重みを感じたところで、受け止める盾は私に触れているわけでもなく、衝撃すら私には届かない。


手を翳す。

狙いを付ける。

放つ。


ドゥ!と轟音を上げて、訓練所の屋根に穴が開いた。


「っつ!」


ガラティアの首筋に紅い筋が滴る。


『避けれるように打ったんだよ?ガラ。』


「お前…本当にフィルか?」


『足りないんだよ。ガラも、皆も、全然足りない。』

唾を飲み込んだのはガラティアだけじゃない。

周囲で私とガラティアのやり取りを見物していた者たちも同様に喉を鳴らし、額から汗を足らす。


「…すまねぇ。まだアタシは油断してたみたいだ。」

抑えた首筋をパンッ!と強く叩くと、紅色の筋は綺麗に消え去り、僅かに熱を孕んだ蒸気と化す。

先程までも決して本気でなかったわけじゃない。

ただ、彼女の中で、訓練の一環という考えは、命の駆け引きに姿を変えた。


『次は…無いよ。』




その後の一挙手一投足に全霊を込めたガラティアの動きは、繊細さと力強さを兼ね備えた戦士のソレと化した。

その拳は終ぞ私の防御を破る事にはならなかったが、その衝撃を私の疲労感へと変える事には成功する。

「…ぶはぁぁあああ!!…」

構えを解いた私に警戒を緩めぬまま、少しの時間を空けてから『どうだったか?』と問うた彼女から漏れた大きな呼吸。

しっかりと私の意図もこの駆け引きの中で理解してくれたようで、こちらとしても少しだけ気が晴れる。

あの人が言うように微温湯に浸っていた感は否めなかった武闘兵も先程までと打って変わって意識の違う空気を感じられる。


『ガラ、傷はしっかりと治療してね。後は…お願い。屋根の修理は…私から通達しておくから…』

「ああ。すまないな。」


彼女はどちらかと言えば考えるより体が反応する性格だ。

それでも今は言葉の重みを感じる。

その目と視線を交えて私は訓練場を後にした。




それからの数日を掛けて、私は武闘兵以外の訓練施設を転々と訪れる事となる。

鉄製の武具を使って戦う王国軍の本隊とも言える騎兵隊ではグリオスを相手に。

魔法を主とする術師隊に於いてはマリーを含めた全術師を一挙に相手取った。




そして訪れた今日。

まるで道場破りのような日々を繰り返し、町の話題は私が訪れる隊でどんな駆け引きが繰り広げられるのか、という話で持ち切りとなる。

今日の相手は…多分今までのようにはいかない。

決まった訓練施設を拠としない者たち。

彼らが集うのは壁外からの収集品を集める一画。

冒険者という一面を持つ彼ら、この軍としての役割は遊撃部隊。

隊の総称は傭兵部隊。

それを束ねるのは、過去に伝説とまで言わしめた冒険者。

私の父、ジョン=スタットその人だ。


「ついに俺の番か?」


『父、ホントの力、私に見せて。』


「こんな日が来るとはな…酒を交わすより楽しめそうだ。」


感想、要望、質問なんでも感謝します!


伝説なんて幼い頃は知らなかった。底を知る事は乗り越える事。


次回もお楽しみに!

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