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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第七章 鳴動戦火
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232話 立ち合いの最期

232話目投稿します。


乱入者は唐突に訪れる。

ピリピリと空気が振動するのが、肌だけでなく視線からも解る。

シロから青白い雷光が発生し、周辺の地面を抉り、舞い上がった石片が雷に触れて粉々になって舞い上がる。


「フィル、おヌシに一つ頼みたい。」

この技はカイルにも見せていない、と。

「小僧を頼むぞ。」

『何を…』

そんな言い方、まるで居なくなるような言い分ではないか。


問い詰める間もなく、シロの足が地を蹴り、空を切り4体の分身と共に私へと迫る。


先程までの自動防御ではなく、迫るシロに向けて手を翳し、その方向を起点として全身を覆う壁を生み出す。

「今までの強度では耐えられぬぞ!」

『端から全力出してたら決着なんてもう付いてるよ。』

呼応するように追加の刃が中に舞い、展開した壁が厚みを帯びる。


マリーの分析を聞いてから注視する視界に強化される瞬間魔法陣のような文言が一瞬だけ浮かび溶けて消える。

魔法陣の知識を取り入れれば、また新たな力になるかもしれない。

それもこの手合わせが終わってからの話だ。


キンッ!


と同時に激突する5つの攻撃。

こちらに伝わるその威力は予想より随分と弱く感じる。

少なくともシロが言うように三刃の盾では防ぎきれなかったとは思うが…

「小僧ならおヌシの盾すら容易に破れるじゃろうな。」

その呟きは、私も驚きを隠せないが、カイルが効けば間違いなく照れてしまう類いのモノだ。

『ぐ…それ、直接言って、あげなよ。』

「…」

気が緩んだ瞬間、5匹のシロの中の一つに狙いを定め、三刃を放つ。

「む…?」

結界と防御壁を組み合わせた牢獄状の結界。

内外からの攻撃の全てに耐える防御壁と、封じ込めた対象の動きを制限すると共に、護る事も可能な結界だ。

「ふふ…これは一本取られた、と言わざるを得んな。」


「勝者!、フィル=スタット!!」


勝利者の宣言を上げるガラティアに呼応するように観衆は一層の盛り上がりを見せた。

案外、当事者に喜びは浅く、大きく息を吐いて刃を納める私に対して、シロは嬉しそうに微笑む。

駆け寄るガラティアは、私の肩に腕を回し「今度、私とも手合わせしようぜ」などと言ってくるわけだが、彼女の性格を考えればまぁ、解らなくもない。

手合わせの最中、飛び掛かりそうになる拳を抑えるのに必死だったのは私の目にも映っていた。

あのシロの連続攻撃や私の自動防御は彼女のような人種にとってはいい組手となる事だろう。

「シロもお疲れさん、やっぱお前もつえぇよなぁ!」




「抜け殻でもその力。流石は霊獣の一翼。理の守護者よな。」




頭上から響き渡る威圧感のある声と、蒼い光。

「ヌシが件の愚か者か。」

特段驚いた様子がないシロ。この状況を予想、予測していたのか、鋭い視線で睨み返すその想いは、遥か昔からの知人を慮っての事だろうか?

「その罪は貴殿の中で晴れたのか?人の世に踏み込んだ代償をその身に受け、散るがよい。」

蒼の光がシロに向けて放たれるが、キンッ!とシロに触れる前にその光は消失する事となる。


『セルスト卿、そう簡単に貴方の思い通りにさせるわけにはいかないよ。』

彼に対する怒りは決して消える事はない。

誰のためでもなく、ただ己の欲望のまま、力を欲し、争いを欲し、闘争を望む。

世のしがらみからは程遠い、本能に近いその行為は、まさに自然災害そのものと言っても過言ではない。

だが、その行為にはセルスト本人の意志によって行われている事もまた事実。

気まぐれに焼かれた大地とそこに住まう者たちにとって、彼を恨む以上の感情が必要だろうか?

「以前より力の使い方はわきまえたようだが、その程度で止められると思っているのか?」

己の炎を防いだ私に対して、彼の興味は薄い。

先の戦いに於いて、彼を追い詰めたのは今の私とは違う私。

本能のままに生きる彼と同様に私の中に眠る存在が発する本能に身を委ねた私だ。

『私の中の力で貴方を止められるなら…』

犠牲は外ではなく内に。


「その霊獣は望んでいるようだがな。」


セルストの言葉を聞いてかどうかは分からないが、シロはその答えを以て私の前へと立った。

『シロ?』

「これも時代というものじゃよ。」


私との旅は楽しかった、と呟き、小さな毛玉は止める間も与えず空へ向かって地を蹴った。




止められない。

今まで共に過ごしてきた彼から発せられたその言葉の意味は、痛々しい程に私の身を貫き、それでも乗り越えていけ、と言う願いが込められている。

今この時に、何故西の地から彼が姿を見せたのか、何故彼の姿が小さく見えたのか、セルストが彼に対して言った「抜け殻」という言葉の意味。

それを示す全ての意味。

考えたくはない、考えたくはなくとも事実は動く。


『シロ!負けるな!!』


空でぶつかりあうセルストとシロ。

雷光の青と、蒼炎の蒼がぶつかりあい、大気の振動と、過熱していく熱気、舞い散る紅い飛沫。


「フィル様…今のうちに…」

駆け寄ってきたマリーに、急ぎ令を発する。

『うん…うん…まず皆の避難をお願い。早馬で町に伝令、父と母に防衛の警戒を報せてほしい。ガラ、貴女は避難時の殿を。』

「解った。フィル。お前はどうするんだ?」


『私は…シロを見なくちゃいけない。それに彼の動向も。』


この軍勢の中で最も強い力。

それは間違いなく私だ。

普通なら護衛を買って出そうな2人も今は私の言う事に素直に従ってくれる。




『長きを生きた霊獣の最期の願いは、その戦いは私が立ち会う。』




感想、要望、質問なんでも感謝します!


その被害はあまりにも大きい。

其々の心を抉るに十分な爪痕を残す。


次回もお楽しみに!

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