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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第七章 鳴動戦火
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231話 成長の証

231話目投稿します。


見世物としての手合わせもそこそこに、すでに2人には周囲の歓声などは関係ない。

剣でも持っているなら迎撃する事も考えたかもしれない。

生憎とそんな技術が無いのは、私自身も、マリーも、そしてシロも知っている。

「シュッ!」

小さく息を吐く声と共に、視界からシロの姿が消える。

右後方からのピリッと痺れるような感覚に反応した体、右手を振りかぶって後方に視線を移すより速く、キン!と甲高い音が耳に届く。

「意志より速く動くか。」

追いついた視界の中で、刃によって形成された盾がシロの鋭い爪を押し留めている。




「いわゆる防御本能というモノでしょう。」

マリーとの作戦と練習の中で改めて私の中へと落とし込まれた自らの力の一旦。

『ぼうぎょほんのう?』

「そうですね…例えばー…ほいっ!」

手に持っていた本を私の頭上に掲げる。その硬そうな角で私の頭に狙いをつけて。

『わわっ?』

と当然にして両手でそれを防ぐ。

「ソレですよ。体が自然と反応する今までの経験から来る沁み込みといいますか。」

『ソレを刃にも使え、って?』




多分今の段階では、日常と戦闘、就寝、そういった切り替えは必要だろう。

理想は何をしていたとしても自動的に反応してくれる事。

意識せずとも反応してくれる手があれば、それ以上に便利な事などそうそう思いつかない。

惜しむらくは、刃ではなく器用な手先でも浮かべられれば、最近の私を悩ませている書類仕事も役にも立ちそうなモノだが。

『ふふ…どう?凄いでしょ?』

「しばらく見んうちに面白いモノを摘まみ上げたものじゃな。」

『シロの速さなんて、そう簡単に見えるモノでもないからね。』

見越しての練習をしてきたつもりだ。


力を溜めて、の攻撃から一転、シロの動きは、手数を重視した連続攻撃へと変化する。

これについても手加減されているのは何となくわかる。

多分、シロが見極めようとしているのは、防御反応できる時間。

一撃と二撃目、二撃目と三撃目、と次第に速く、短くなるその時間と、私が反応しきれる手数、そして意識の外で可能な刃の動き。


徐々にその動きを早めていくシロの攻撃の素晴らしさ、それを防ぐ私の盾、その攻防はまるで私とシロの2人で繰り広げられる舞踏だ。

私の実力を図るための手合わせは、最早、私にもシロにとっても楽しい力のやり取り。

『こんな事もできる。』

「まだまだ修行が足りん。」

『そっちは手も足もでないじゃない?』

「小娘が立派な口になった。」




「初めに、キミの名前を教えてくれるかな?」

初めてであった時に目の前の毛玉が私に問いかけた時の言葉だ。


『あれやこれやでもう結構な間一緒に居たけどさ、シロ、アンタ初めて会った時、随分と猫被ってたよね。』

「処世術というヤツじゃよ。可愛い小動物、に見えたであろう?」

『ずる賢いヤツだ。』

「おヌシも随分と”世渡り上手”になったではないか。」


合間に交わす言葉が、次第にただの口喧嘩染みてきた気がしないでもない。

まぁ、観客に聞こえるわけではないが、例えばガラティアのような西方出身の者などは耳がいいという話なので、一部の笑っている者たちの耳には届いているのかもしれない。


『あの時だって、私が助けなくても何とかなったでしょう?』

「代わりにあの山が無くなったかもしれぬが?」

獣を撃退するためにシロが己の力を放っていたら、確かに軽度なら山火事や土砂崩れ、下手すれば言葉通りノーザン山は平坦な街道になり果てていた可能性も…まぁそれはそれで往来が楽になるかもしれないが。

「ワシとの出会いを後悔しておるか?」

『…少しだけ。でも今はそれ以上に感謝してる。』


カイルとシロの契約が無ければ、恐らく火山鎮火に駆り出される事はなかった。

それはそれで無い方が平穏な生活ではあっただろうが、冒険者としての楽しみは少なかったはずだ。

『シロとの旅は楽しかった。楽しかったよ。』

「であれば、ワシも遠慮する事はなさそうじゃな?」


「これを防げたら、おヌシの勝ちでよいぞ。」


唐突に告げられた手合わせを終えるための条件。

先の近接攻撃と同様に、四肢を地に踏ん張り、力を溜めているのは同様。

しかし…

『な、成程…』

確かにこれを防げたら御眼鏡に叶う、という事で間違いはないだろうが、それにしても厄介な事だ。

目に見えるだけで数えても、次の攻撃にゾッとする。

あの近接攻撃を受ける盾は、破壊とまではいかぬものの、魔力を削がれるような感覚は強い。

一撃の重さは言うまでもなく、剣で受ければ追加の雷撃で体の自由は奪われ、耐えられなければ致命傷の上、身動きを取る事すら儘ならないだろう。

それを5つ。

同時に受けなければならない。

分身体…というのは後に教えてもらったわけだが、各々に同等の一撃で、且つ一点に集中して、であれば私の盾は耐えきれず破壊されるだろう。

強度を上げつつも、多数を受ける方法。

狙いは私の体そのものであれば、盾としてではなく鎧としての防御壁を造ればいい。

『一回くらいなら何とか行ける。』

今まで私が盾を作り出していた際に使った本数は3本。

強度を高める一番の方法、考えるまでもなく単純な方法。数を増やせばいい。


マリーが私の盾を分析したところ、目に映らないだけで実のところ刃の間には特殊な魔法陣のような式句が編み込まれているらしく、その数を増やせば増やすほどに式句は複雑に編み込まれていく、その複雑さこそが防御壁としての硬さに直結しているのだ、と。


シロの一撃が強烈なモノであるなら、私も己の出来うる限りの防御を以てこれに耐えるまで。

5つの刃を使った全身防御。

意識の外で自動的に発生する盾と異なり、私の意志を強くして展開する防御魔法。

「準備が出来たなら、こちらも放つ。」

『ご丁寧にどうも。』


あまりにも余裕ぶったシロの言葉に少しだけイラつきを覚える。


『シロ、アンタが私たち人に比べて長い年月を生きてきたのは解る。でもその油断こそ、ベリズや蒼竜の命を脅かしたという事を、忘れないで。』


「…解っておるよ…」


感想、要望、質問なんでも感謝します!


此度の手合わせは、何も相手の攻撃を受けるだけのモノではない。


次回もお楽しみに!

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