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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第七章 鳴動戦火
236/412

230話 試し合い

230話目投稿します。


賭けを行えるのも、何かを試せるのも、互いを見るのも、本番ではないからこそ。

三日が経過した。

手合わせはわざわざ町から離れた場所で周囲を気にせずに大立ち回りできる事も踏まえて、という事だったのでそれこそ、相手となるシロと、立会人となるガラティアの3人だけかとも思っていたのだが…。


誰が始めたのか、改めて今日、到着した現場ではいくつかの屋台が立ち、観客席のような場所さえ準備されている。

『これじゃまるで、御前試合とか賭け試合みたいじゃない…まったく…』

首謀者は後でとっちめてやらないと、と小さく呟く私の横で、ガラティアの肩が一瞬ビクっと跳ねたが?

視線を向けると、目を逸らし、下手な口笛を吹いている彼女。

『ガラ、三日間お酒禁止。』

「うっ…後生だよ、それ…」

処罰の言葉を聞いた途端に、しっかりと視線を合わせる辺りはまだまだだな、と思うところではあるが、解りやすい首謀者で良かった。

父はともかく、母だったとしたら影武者でも掴まされそうなモノだ。


「んで、練習の時間の成果は何かあるんか?」

一瞬、視線を己の腰元へと向け、少しだけ考える素振りを加える。

『どうだろう?、でもま、作戦は上々。』

「マリーが相談に乗ったって聞いてるからな、楽しめそうだ。」

ペロリと舌なめずりして、取り出した紙幣。

『…当事者の前で掛け金とか数えないでよ。もう…』

背中を抓る。

『で、観客の予想は?』

「正直なとこ、ばらけてるんじゃねぇかな?。シロとフィルの大体の力を知ってるのってそんなにいねぇから、シロの実力を見た事あるのは東の連中だろ?、んで、王都や西の連中はどちらかってーとフィル寄りって感じか。」

懐から取り出した紙幣。勿論自分のお金をガラティアに放り渡す。

「結局自分も賭けるんじゃん。」

『負けるつもりで戦う事なんて端っから勝負ですらないからね。』




「よもや見世物になってしまうとはな、立会人の選択を誤ったようじゃな。」

『それは少し同意。まぁ…他に居ても結果変わらない気がしなくもないけどね。』

この地に再び訪れる事は、先の光景を思い出して暗い気持ちが出てきてしまうのではないか?と不安もあったが、この雰囲気のおかげでそんな空気はまったく感じられず、それはそれで助かるというモノだ。

『あぁ、そういう算段も…って事も、無くはないか。』

ガラティアがそこまで考えて企てたのかは解らないが、少なくとも、今日の手合わせを見れば、私の実力と、少なくとも今時点で味方として加わるシロの実力もその記憶にしっかりと刻まれる事だろう。


グリオスなどは軍を率いる際にはそういった力強いところを魅せるのが効果的なのだと言っていた気がする。

そこに居る者たちに、憧れであったり、安堵感であったり、希望であったりと、士気に関わる企てという名の政は、何も遊びたい、騒ぎたいだけの理由で行うわけではないのだ、と。




「さて、それではこれより、我らが司令、フィル=スタットと、その盟友、雷狼シロとの手合わせを行う!、立会人はアタシ、元西方領主の姉であるガラティア=ヴェストロードが取り仕切らせてもらう。皆もわざわざ集まったのであれば、しっかと御二方に声援を送るように!」

口上を高らかに述べるガラティア。

それに呼応して大歓声と変貌する観客席の圧。まぁ賭けの場が動いているなら単純な歓声だけというわけでもないだろう。

妙な熱気もまた含まれているのが解る。

会場に響き渡るガラティアの口上はさらに続き、今回の手合わせの取り決め、決着の条件などが述べられる。

まぁ、勿論負けを認める発言もそうだが、互いに納得が行けば終わりになる可能性もまた然りといったところか。


「御二方、準備は宜しいですか?」

シロは毛繕いをしながら「問題ないよ」と返す。

私も無言で頷き、シロと同様の意志を伝える。


「それでは、始め!!」


毛繕いを終えるでもなく、随分とのんびりしたままのシロ。

明らかな油断と見るか、それとも誘いか?

いずれにせよこちらの動きを待っているのには変わりない。


私の打てる手での最初の攻撃。

手の内を知られていないのならば、こちらも全力を隠すか、それとも最大限を投入するか?

有効打とするなら、捉えきれぬ程の速さで打ちぬく事か。

『迷っててもどうしようもない、よね。』


シロの速さに負けない速度を持った刃の一撃。

頭の中で描くその一閃を、こちらの様子を伺っている毛玉に狙いを定め、放つ。


ドシュッ と重くはなくとも、鋭い一撃が、彼の足元、土の地面へと命中する。


「ほう…話には聞いていたが、速さは申し分ないな。それで全力か?」

『どうかな?、鍛錬すればもっと速くなるかもしれないけどね。』

余裕の回避で初めて見る私の攻撃を把握したシロ。

となれば、もう隠す必要はない。

2本の刃を追加して、次々とシロへと放ち、戻し、そしてまた放つ。


観客からは、シロが何かを避けているのは解るだろうが、何分、その対象が小さすぎて遠目では何が起こっているのか解らない者もいるだろう。

端から見れば、攻守が逆にも見えるかもしれない。


「さて、そろそろ行くぞ?」

直後、私の頭上、暗雲からの雷鳴一閃。

『っく!』

寸での回避は私の攻撃と違って、一瞬の出来事とはいえ、派手さは十分。

ギリギリとはいえ、成功した回避に会場は沸き立つ。

「少し体は鍛えるべきじゃの。」

『解ってはいるけどね…得意ではない。』

肉体面など、周りの人材を見てれば自分の貧弱さなど良く分かる。

だが、その手の人種の鍛錬を真似したところで根本から付いていくことは困難。

もっと初心者にも出来そうな事を教えてほしいところだ。


「少し強めに行くぞ?、構えよ。」


体が蒼い光を纏い、地に付けた四肢に力を溜めるような振動が見られる。

恐らく、次に来るのは雷撃を纏った近接攻撃…。

マリーと考えた作戦の中で想定された攻撃の一つだ。


『こっちだって試す事はまだまだ、あるよ。』



感想、要望、質問なんでも感謝します!


立ち向かうための力を調べる事。強者を前にして互いを見極める事の重要性を。


次回もお楽しみに!

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