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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第七章 鳴動戦火
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229話 参謀の特訓

229話目投稿します。


日常生活の中でもできる修行。

要不要ではなく、常時に於いての積み重ねが体に沁み込ませる方法だ。

寝る前に少しだけ、のつもりであった相談は、あれやこれやと話している間に朝日が昇る時間になってしまった。

『あぁ…朝日が目に痛い…』

「ええ…少々張り切り過ぎました…」

町の共用炊事場に並んで歩く朝の光景。

普段からシャキっとしているマリーでも徹夜明けの朝ともあれば流石に気が緩む様子。

時折、欠伸が出かける口を何とか抑えつつ、何とか足を前へと運ぶ。

私は私でマリーの事を馬鹿にはできない。

彼女以上に足元はふらつき、気を抜けばそのまま歩きながらでも眠りにつけそうな程だ。


『でもお陰様で、光明が見えた気がしますよ。』

「無論、特訓の方もお手伝いは惜しみません、フィル様。」

顔を洗う事で意識も少しばかりマシになった。

作戦立案となってしまった昨夜の訪問は、同時に今できる事を更に突き詰める必要を示唆し、手合わせまでの残された時間をマリーとの特訓と、精神力の向上に傾ける事となる。

『あぁ…あとさ…マリーさんには悪いんだけど、そのぉ~…』

ヘルトが居なくなってしまった分、日々の書類仕事も中々にして思うように進まず、こちらも私の頭を悩ませる原因でもあった。

「ふふ、そちらの方も耳には入っておりますよ。こちらの仕事が一段落したら執務室の方へ伺いますね。」




改めて朝の一時を歩く町並み、よく見れば、すでに食事処のような店がちらほら見える。

『って、あそこって…』

数店舗ある中の一つは、私が良く知る人たちが寝どころとしている建物だったはずだが、朝も早くから多くの者たちが長蛇の列を生み出している。

残念ながら外から見える限り、オシャレなテラス席なんてものはなく、祭りの屋台のような簡易な座席が用意されている程度で、確かにあの席数であれば長蛇の列となるのも当然だろう。


『お母さん、いる?』

割り込むわけではないが、長蛇の列を描き分け、室内に入り、この建物を現在の居としている片割れ、自分の母の姿を探す。

「おう、フィルか。おはようさん!」

生憎と母の姿はすぐに見つからず、代わりに返事をしたのは父。

両手に盆を持ち、奥の調理場から出来上がった料理の配膳を行っているようだ。

奥に居るよ、と顎で促され、朝食を楽しむ客の間をすり抜け、調理場へと向かう。

『お母さん?』

「あら、フィル。おはよう…で、悪いんだけどせっかく顔を出したのなら手伝ってくれない?」

『えー…私眠いんだけど…』

「あとで朝ごはんも作ってあげるから。」

『むー…』

特に用事があったわけでもなかったので、顔を出した事に一層の後悔したものの、先には立たないモノだ。




「で、何か用事でもあったの?」

朝食の時間を終え、訪れていた多くの兵士、作業員たちは其々の仕事へと向かい、今は片付けを終え、遅めの朝食を取る私たち家族3人だけだ。

『いや?、別に。何かすっごい列が出来てたから何してんだか?って。』

「毎朝忙しいが、俺はこーいうのも楽しいゾ?」

私たちの朝食として用意されたモノは、先程まで訪れていた客に出していたモノと同じ。

つまりはまぁ、残り物ではあるが、美味しそういに頬張る父は、その言葉通り、朝の作業もこの食事も満足そうだ。

「あら、奇遇ね。私もこんな生活いいかも?って思ってたとこ。」

この中では一番疲れているはずの母は、父以上に満足げな笑顔だ。

『いっそ、キュリオシティの女将さんみたいに宿でもやれば?…町の代表としては名店ってのがあると嬉しく思うけど。』

私としては珍しく立場を傘にした意見を述べる。

案の定、2人は驚いたような顔だ。

「ふふ、それもいいかもね?」

「冒険者の果てってか?」

と笑う。

そんな両親の姿を見て、そんな暮らしも楽しそうだと私も感じるのだった。




お茶を交えての雑談の最中、シロの様子を伺うが2人は余り把握していないようで、強いて言えば戻ってきた時に僅かに焦げたような匂いを残しているくらいだ、との事。

『現地調査ってところか…』

彼自身も何らかの鍛錬をすることもあるだろうが、体に染み付く匂いを考えれば、あの地に足を運んでいるのは想像に容易い。

朝食のお礼を残して、私も山積した仕事のため自室、執務室へと戻る途に着いた。


パタン、と扉を閉めても、つい先日まで耳に入っていた声が聞こえることはない。

その代わりに目に入るのは乱雑に積み上げられた書類の山だ。

溜息を吐くのは簡単だ。

でもそんな事より手を動かし、整理するところから始める。

付くのなら、彼女が戻ってきてからでいい。

でないと「仕方ないですね」と、少し困ったような顔を見ることができない。




お昼を回った頃、悲しい程に以前の仕事量に比べるべくもない片付かない書類の山に、泣きそうになっていた私。

「フィル様はまず整理する事を勉強すべきかもしれませんね。」

約束通り姿を見せてくれたマリー。

私の目にはその背後に神々しい光がさしているようにも見えた。

『だってさぁ〜今までこんな仕事したことないのに読んで選んで決めるとか悩む事ばっかりだもん…』

口を尖らせたところで解決するわけでもないが、確かにこの手の作業方法はどこかしかで教わりたいところだ。

「ええ。大丈夫ですよ。作戦の練習だけでなく、フィル様が望むならば私の技術は全てお教えしましょう。」




中々マリーの教育は厳しく、それでいて釣り合いも良く、出来るところ、出来ないところを明確に、解決方法も様々。

今日だけでは片付かないと思っていた山も残りわずか。

結果としては上々。

しかし、疲れも同様に体にのしかかるわけだが、その疲労感は書類仕事のせいではなかった。


「では今日はこれで失礼しますね。」

『うう…ありがとぉ〜…』

もうすでに私の体はベッドに横たわっている。

「明日も来ますが…ソレ、くれぐれも手を抜かぬように。」

私の頭上を指し、少し厳し目に残してマリーは部屋を後にした。


一人になった静寂の室内。

ランプの灯りとは別に揺れるのは、先程もマリーが指し示した私の頭上で動く刃。


彼女の提案した練習の一つ。

『常に操作している状況を保つ…か。』


感想、要望、質問なんでも感謝します!


刃は貫く、斬る、投げるだけではない。

視点を変えれば、この力が使える場所は無限に拡がる。


次回もお楽しみに!

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