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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第七章 鳴動戦火
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227話 人外の意義

227話目投稿します。


人の世に暮らす者、人外の力を以て生きる者の矜持とは?

ガラティアの話では西に姿を見せて以降、ずっと身動きもなく件の石像の頭部に鎮座して眠っていた小動物にしか見えない毛玉。


『ほんと、突然現れるよね…空間転移とかできたりするの?今更なんだけど…』

私の自室に用意してもらった彼用の食事を平らげ満足そうに毛繕いをする姿は、口さえ開かなければただの仔犬にしか見えない。

「流石に一瞬とはいかぬよ。じゃが、」

知らない者からすればそう見えるかもしれない、と。

「ほれ、遠くの空に雷が見える事なんてよくある話じゃろ?」

その気になれば雷光と同等の速さでの移動も可能という事だ。


それについては現世での主であるカイルも彼との特訓で近いモノを身に着け、私も目にした事がある技だ。


『それにしても、ちょっと痩せた?』

以前と比べて何となくではあるが、その体が一回り小さくなっている気がしたのだ。

「悲しいかな、ワシの主は手が掛かるのでな。」

ヒヒッと笑うその様子は以前と代わりはない。

ほんの少しだけ安心する。


『で、改めてこっちに来たのはどうしてなの?』

ふむ。と頷き、私の問いに応えるシロ。

「あの馬鹿力の娘がおヌシに徴集されたという話は眠り心地に耳に入っておったんじゃよ。そして気配を探ってみれば少々面白いモノがヌシの壁となっておるようだったので調子を身に来た、という事じゃ。」

彼なりに心配してくれているようで嬉しく思うのだが…どことなく今までの彼と違う印象がその身を包んでいるような気がしてならない。


彼の体が纏う空気には不安という気配が漂っている。




遠く離れた場所に居ても、私を始めとする近しい者の凡そを把握していたようだが、改めて今に至る出来事を話す事となった。

叔父の葬儀の後、セルスト率いる南の軍勢を押し留めるための拠点。

今尚建設の途にあるこの町は、彼に言わせてみれば私の姿そのものだという。

『どういう事?』

「未完成、といったところかの。」

『成程。確かに。』

ふてぶてしいのは相変わらずだ。

「でも、きっと良い町になるさ。」

『…』


「ここに来た理由はもう一つあってな。」

懐かしい知り合いに会えるかもしれないと、人伝に聞いたのだ、と。

シロにとっての知り合い、それは間違いなく普通の人ではないはず。

以前の主だった聖女との再会はそれそのものが奇跡のようなものだ。

となれば、彼と同種の存在、もしくはベリズのような…。

『それってもしかして…』

「然り。」

セルストの偉業とされる蒼き竜の崩御、シロ本人も当時の事は記憶に留めていたらしいのだが、彼の中にその存在が残っている事までは認知していなかったという。

私の中のベリズの存在そのものも、今となってはシロから感じ取れる気配は薄いようで、その事実を直に耳にすること以外で把握する事は難しいのだ、と。


『でも、それが解ったからってどうするの?』

「ワシらのような存在にもな、魂に刻まれた”役割”というのがあるんじゃよ。」

その存在が消えるという意味。

時代か、災害か、はたまた己と違う種の力か、その滅び自体は彼らにとっては然したる問題ではない。

だが、その力が他の種によって振るわれるのであれば、それは世界にとっての脅威以外の何者でもない。

ベリズや蒼い竜と同じ種がまだ残っていれば、間違いなく私やセルストは世界の脅威と見なされ、この世界から消去されていただろう。

近い存在であれ、彼らと少し異なる種のシロは、私と共に在る事で脅威となりうるかの判断を常に抱えていた。

「まぁ、それも今更といったところじゃがな…」

自嘲気味に笑うシロ、私の監視だけでなく、力を持つ者としての長きに渡る疲労感を浮かべる溜息を吐く。

『カイルだけじゃなく、私にも貴方が傍に居る理由ができてたってわけね。』


そうなると、シロ本人としては、セルストの存在を抹消する事が目的であるとでも言うのだろうか?

「その力を以て、世界を統べるなどと宣うようであれば、然るべき措置を取る。それだけじゃよ。」

確かに、ただの人外の力をその身に宿していたとしても、突発的に暴風を巻き起こす程度なら、その身が人か竜かの違いというだけで、世界を覆すような惨事とは言えない。

『シロは、あの人を止められるの?』

「おヌシもおるじゃろ?」

『あぁ…そういう事…』

残念ながら私の力も併せての話のようだ。


それだけアテにされている、と言うことだ。

彼の期待にどこまで応えられるのか、その自信は正直なところあまり無い。

「と、言うわけで、今のおヌシの力を図っておきたいのじゃが…」

満面の笑みで、私に突き付けた手合わせの願い。

その時の私の表情は、さぞ引き攣った笑みで、冷や汗を流していたに違いない。

『えーっと…どうしてもやらなきゃ、ダメ?』

「ダメじゃ。」




シロから提案された手合わせの内容、それは人の目で捉える事が難しいシロの動きを、私に出来る方法で捕えればいい、という物だった。

作戦を立てる時間、その練習、準備を整えるまでに与えられた時間は三日。

場所は…ここから東に離れた位置。

乗り越える為、という理由もあるのだろうが、シロも意地が悪い。

恐らく、あの時、あの場に居た生存者の殆どは、望んで立ち入ろうとは思わないだろう。


『少し…辛い気持ちに、なるんだろうな…』

それはシロも解っている。

その先に私が進んでいける事を望み、それこそ彼がアテにする私の力。


セルストと戦うための力をこの身に…。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


重い空気が残る戦場は、過去の記憶を乗り越えるための試練の場だ。


次回もお楽しみに!

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