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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第七章 鳴動戦火
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226話 静寂の湖底

226話目投稿します。


危険が付きまとうならばいっその事…

悲しい事なんて…無い。

彼女とは必ずまた楽しくお話ができる。

その頃にはカイルだって一緒のはずだ。

だから今は、彼女の体を安全な場所で保管する手段を講じるのみだ。


こと石像の監視や保管に於いての意見を聞くなら…。

「あそこはさ、本来の造りが特殊だったろ?だから天井が崩れる、なんて事を考える必要がなかったんだよ。」

あの時から西に居た間、その殆どを石像の監視、保護を行っていたガラティア。

彼女の言う言葉は確かに納得のいく理由だ。

確かにあの海底洞窟は天井から全てあの特殊な材質の石で出来ていた。

強度は言うまでもない。

今、出来るだけ早急にそういった場所を用意できるかどうか…正直なところ難しい。

地下室を掘る事は、ノームたちコボルト族の助けがあればそれほど難しい事ではないが、それにしてももしこの町に直接セルストが乗り込んでくれば崩壊は目を見るより明らかだ。


『うーん…どうしたものかな…』

ガラティアへの相談を終え、ひとまず自室へと戻る道すがら、私を見つけたノームが駆け寄ってくる。

「ふぃる、ドウシタ?ゲンキカ?」

『ノームはいつも元気そうだね。心配してくれてありがと。』

軽く返す感謝の言葉でもノームは大喜びだ。

そのまま彼と共に歩き、離れていた間の話を少し聞いた。

オスタングに留まってからの日々、ジャイアントと共に鉱山資源の採掘を行ったり、火山の地熱を利用した取り組みの一旦を担うなど、私の予想以上に多くの経験をしてきたという話は私を随分と驚かせる結果となった。

凄い!と賞賛する言葉もまた、ノームの喜びを最大限に引き出す事となる。

「ふぃるニアエル、オレウレシイ、デモ…かいるイナイ、オレサビシイ。」

少し落ち込む様子のノームの頭、フワフワのその頭を撫でる。

『大丈夫。カイルにもそのうち会えるよ。』

そして何気ないノームからの質問。そこに一つの閃きが浮ぶ。

「かいる、イマドコニイル?」

石像になってしまったカイルが今居る場所、現実的な話をすれば、私の記憶に消える事なく浮ぶ海底洞窟の景色。


『カイルはあそこだから安全…そうか!。』




力自慢の兵士を集め、運搬用の荷台を用意させる。

荷台にはベッドのように柔らかい布を敷き詰め、ヘルトの体を横たえる。

昨日の今日で町の外に出ると言った私に母はいい顔をしないが、理由が理由だけに止める事もできなかったようで、妥協点として父を同行させる形を条件とした。

それはそれで私も安心できるので助かる。

今回集まってもらった兵士の中に、ギリアムは含まれていない。

いずれ、町からヘルトの姿が見えなくなることは彼にとっての違和感となりうるだろうが、それはそれで直接聞かれたら、ヘルトの意志を尊重した答えを返せばいい。


「にしても、何でわざわざ日暮れ前に出発なんだ?」

『夜じゃないといけない場所、だからだよ。』

父の問いは御尤もで、それほど深くはないが、森の中を抜けるのに周囲が暗くなる時間帯に向かうのは少々安全性に欠ける。

しかし、あの湖は恐らく夜でないと機能しない。

これも推測だが、もし当たっているならそれはそれとして湖の謎に迫る事にも繋がる。


『ノーム、眠そうだけど大丈夫?』

「スコシネムイ…デモオレガンバルゾ!」

「おう、いつの間にかフィルにも珍しい友人ができたもんだなぁ。」

改めて一緒に行動する事となったノーム、父はそう言いながら頭をワシャワシャと撫でる。

何だかんだであっという間に打ち解けてしまった2人の様子はまるで親子かと見違えてしまう程だ。

だが、今回の目的に於いて、父の馬鹿力とノームの掘削能力は必要不可欠だ。

今のうちに連携を取りやすくしておくのは悪い事じゃない。

そんな理由がなくても人間の暮らしに紛れるノームたちコボルト族はいずれも明るい性格をしている。

彼らの知識欲から来る行動は誰であれ笑顔になってしまうのは不思議でもなんでもないと思う。




到着と相成った湖…今は湖という言葉に疑問が残る光景ではあるが、水盆は淡い光を放ち、先日、私が動かした時と同様だ。

『うん、動きそうだ。』

護衛と運搬の手として同行した兵士たちはそのまま湖の縁で警戒に当たってもらい、父とノームを連れ、ヘルトの横たわる荷車を水盆の近くへと運ぶ。

準備を終え、2人に声を掛ける。

『じゃあ、始めるね。』

前回と同様、水盆に映る月を確認して、魔力を放つ。


ブンッ


という音と共に、周囲の空気の変化を感じる。

「お、おわっ?」

「ワワッ?」

前は、この驚きの声のヌシはヘルトとギリアムだったが、今回は父とノームだ。

目を開く前に私の目的の半分が達成できたことが解った。

瞼を開くと、先日、半日程を過ごした湖の底の景色が映った。


じゃあ早速、とノームと父を案内する。

迷う事もなく辿り着いた壁面。

薄い結界の向こう側、ギリアムが己の愛刀を犠牲にして掘った窪みがある。

これまた前回と同様に、腰の刃で結界に穴を空ける。

『ノーム、ここを掘ってほしいんだけど、いけそう?』

「ホル、オレ、トクイ!。マカセロ!」

ギリアムの一撃と比べるべくもなく、然して時間を掛けず、掘り進んでいくノーム、やがて彼の体も軽く入れるような広さを生み出し、すでにノームは結界の向こう側へ完全に入り込んだ。

どれくらい掘るのか?という問いに、天井を指さす。

改めて「ワカッタ!」とやる気満々のノームの姿は心強い。

このまま地上まで続く穴を掘り、結界の中へヘルトを安置しておけば、カイルと同様に周囲の環境としては万全だと言えるだろう。

いっその事…このまま私の部屋まで繋がせるのもアリか?…まぁそれはまた改めて考えるとして、一先ずは地上との道を造る事が重要だ。


ノームが穴掘りを頑張っている間、父の方はヘルトを乗せた箱を荷車から下す。

『父、くれぐれも、ね。』

「解ってるって。」




地上へと繋がれた地下道。

特に目的も教えずに湖で警護に当たっていた兵士たちからすれば、湖から一瞬で姿を消した私たちが別の方向から現れた…そう見えてさぞ不思議だっただろう。

現状、湖底へと続く道の場所を知るのは、父とノーム、そして私だけだ。


静かな湖畔の底で、眠りから解放されるまで、忙しく働いていたその身をゆっくりと癒してほしい、そんな事を考え…フッ、と少し自虐的に笑ってしまう。


『待っててね。』


感想、要望、質問なんでも感謝します!


彼は何かを感じ取ったのだろうか?


次回もお楽しみに!

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