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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第七章 鳴動戦火
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223話 掬い上げる鏡

223話目投稿します。


変化する水面に一滴を投じる。

この湖が何を意図するのか、今はまだ目的も、理由も分からぬままに。

この湖を不思議なモノとして見つけたのは夜の監視塔。

疲労感からか少々眠そうにしているギリアムと初めて会話したのもソコでの出来事だ。

あの夜、私の目に映ったこの湖は、静かな湖面をしているものの、いわゆる普通の湖のように周囲の景色を反射するでもないその様子に違和感を感じた。

だからこそ、私たちが今こんな状況に陥っているとも言えるのだが…。


「今日は月が見えますね。」

私と同じく天井を見上げるヘルトが呟く。

丸い鏡のようなその一画、結界とおぼしきモノのおかげではっきりとは見えないが、確かに青白い月が少しずつその姿を見せ始めている。

『そろそろ私たちが居ないって騒ぎになってそうな気がする。』

「戻ったら絶対隊長に怒られますよ…自分。」

まぁ、この状況を説明すれば多少大目に見てくれるとは思うが、それはそれで傍に居ながらも陥った状況に対する叱りにとって変わりそうな気がしなくもない。

『一応、私も一緒に謝ってあげるから…。』

ありがとうございます、とお礼をいいつつも首を垂れるその姿は新兵といった呼び名がしっくり来る。

年齢と経験の少なさを補っても十分な実力を有している彼だが、今の段階からこの先、兵士としての将来がとても楽しみではある。




「フィル様…何かソレ、光ってませんか?」

3人並んで月を見上げていた最中、ギリアムが妙な事を口走る。

彼が示す先は、件の水盆だが、普通に考えて光るわけがない。

特殊な材質とはいえ、所詮は石だ。

馬鹿な事を言ってるな、と話半分にそちらを見ると…

『うわ…ホントだ。』

正確には水盆そのものではなく、水盆の中に発生した水が光っているようだ。

「月が出始めてから、でしょうか?」

脱出の方法を考え始めてから今の時間までで、周囲に変化があるとすれば、というヘルトの推測は恐らく正解だ。

今更、この場に於いての不思議な事なんてのはいずれも私たちの予想の範疇を超えているわけだが、改めてみる水盆に満たされた水は、この湖の湖面と違って、まるで鏡のように夜空を映しているように見える。

天井を見上げて見るぼやけた視界とは異なり、はっきりと映る夜空の景色、星々の小さな光までもはっきり数えられる程だ。

『大発見じゃない、ギリアム。』

「そ、そうですか?はは、やった!」

褒められて素直に喜ぶギリアムを横に、水盆を改めて調べる。


もしこれが今までの遺跡と同様のモノであったなら、先に私が触れた時、何らかの反応があったはずで、勿論その変化はあった。

結界と見られる天井や壁面からソレらが消える事はなかったものの、私が触れた事でこの水盆は尽きない水を張った。

今はその水面に、夜空の景色を映しているわけだが…。

『そういえば…』

遺跡に触れた事はあっても、そこに魔力を放った事はないと思い当たる。


私が腰に下げている刃は、元はと言えば遺跡そのものもしくはその周囲から採取された石材だ。

同様のモノだとすれば、この水盆そのものも私の魔力に何らかの反応があるのではないか?

『んー…』

水盆に手を翳し、目を閉じる。

先に触れた時は離れた場所で待機していた2人に展開していた陣に意識の半分程を埋められていた。

今なら、今この水盆に集中すれば何か解るだろうか?


ブンっ、と頭の中で何かが鳴った。


「へっ?」

「えっ?」

傍に居る2人の驚くような声に、閉じていた目を見開き、振り返る、と…

『えっ?』

と、私も彼らと同じような声を上げる事となる。


目に入った景色、辺りは随分と暗いものの、間違いない。

『戻…った?』

森の中、木々の開けたこの場所、湖面に映る満点の星空に、昇り始めた月の光が加わり、夜でも十二分に明るい視界に映るのは昼間に二匹の兎が駆けていった景色と同じだ。

『はぁぁああああ…』

ぺたり、と膝から力が抜け、がくりと腰が落ちた。

駆け寄ってきた2人を見上げ、それぞれの手をグイっと掴む。

そのまま感触を確かめるように、握って、緩めてを繰り返す。

「あ、あの…フィル様?」

顔の傍まで引き寄せて肌の感触を味わっている私の様子を訝しげにヘルトが返す。

『…あ!、ごめん。いや…まぁ、念のため?…2人とも体に違和感とかない?』

見たところ、石化しているような様子も、意識を無くしたような印象もない。

まぁ、心配そうに私を見つめる様子を見れば解り切った事ではあるが。


ぐぅ、とギリアムの腹が鳴った。

ぐぅぅ、と連なるように私の腹も鳴る。

「ふふ…帰りましょうか。きっと皆さんも心配しておられるでしょうし。」

「あ、自分は先に走って報せて参ります!」

こちらの返事を待たず、来た道を駆けていったギリアム。


取り残された形となってしまった私とヘルトは、ひとまず昼食を取った辺りを探り、急ぎ湖に潜る前に傍らに外しておいた手荷物を回収。

その後、一応、最低限の警戒をしつつも、森をゆっくりと進む。


時折、木々のアーチかを抜けてくる夜の光が、足元を照らし、町へと戻る道を示す。


『一時はどうなる事かと思ったよ…』

「そうですね。流石にあのままの状態で朝を迎える事となれば…あまり考えたくはありませんね。」

うんうん、と2人で頷きあって夜の散歩を楽しむ事となった。

「にしても、ギリアム様はもう少し鍛えてもらう必要がありそうですね。」

『え?なんで?』

辛辣にヘルトが言うのは確かに一理ある。

「この状況下、無事に脱出できたのはまぁいいでしょう。しかし護衛であれば、町まで共に行くのが定石かと。」

『あぁ…確かに。』


彼の上司である隊長に、共に謝ると言ったものの、ヘルトが言う点においては説教かな?

と、思い浮かべる帰り道。

歩きながら少しだけ視線を湖の方へと向け、不思議な出来事を思い返す。


『じっくり調べてみない事には何ともいえないな…』


感想、要望、質問なんでも感謝します!


調査の旅を行うにしても、準備は大事なのだ、と経験者は語る。


次回もお楽しみに!

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