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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第七章 鳴動戦火
227/412

221話 壁の向こう

221話目投稿します。


逃げ場がないならまず作る。

今持ちうる手段を全て吐き出してでも

オスト山脈の火口から脱出した時の事はあまりはっきりとは覚えていない。

あの時の私はそもそも原因は解らないがこの時代から弾かれて未来の時間へと飛ばされた。

そこにどんな事象が起こったのか、はたまたあちら側からの干渉があったのか、意識を失い気付けばどこか見覚えのある天井を視界に収めていたのだ。


この天井が結界と考えれば目の前の水盆に触れた後、壁は消え去りこの空間は私たち諸共水に呑み込むだろう。

ここに降りてきた時、ギリアムを探さなければという意思はあったが、高度を上げることは出来なかった。

それがこの水盆に引き寄せられるような力が働いていたのか?

それともまた別の何かか?


いずれにせよ、この場にずっと留まる訳にはいかないのは確かな事実。

『結界の外…』

周囲を見回すと、互いに別の方向ではあるがヘルトとギリアムの姿が見える。

呼びかけ、確認を。

『湖の縁、壁はどうなってるか見てきて欲しいんだけど頼めるかな?』

「了解です!」

ギリアムは声がデカい。

対してヘルトの方は流石に大声は挙げず、こちらにも分かるように大きく頭を下げて応え、そのまま互いに奥へと進んで行った。




「壁でした!」

まあそうだろう。

『ヘルトはどうだった?』

「私が確認した場所も確かに壁が存在していました。ただ…そうですね…」

見上げた天井を指さす。

「壁の表面はあの天井のように幕…とでも言えばいいのでしょうか?触れた感じただの土や石といったものとは違う感触でした。

壁にも結界が張り巡らされている。

となれば試す事は一つだ。

『2人とも付いてきて。』


程なくして辿り着いた壁の一画。

ヘルトの見立てを信用していないわけではないが、己の手で実際に触れて確かめる。

『うん、ヘルトが言った通りで間違いなさそう。』

向き直ると嬉しそうに手を合わせているヘルトと、少し残念そうなギリアム。

だが、次は彼の出番だ。

『地味、といえば地味だけど試す価値はある。』

腰に下げたベルトから三本だけ取り出し、魔力を込める。

フウキとの戦いで使った盾を形成するのと同じ要領で三角形を形作り、結界とされる壁へと

押し付ける。

『ぐ…』

押し返してくるような抵抗感はあるが、私の考えた通りの光景が目の前に拡がり少しばかり胸を撫で下ろしたいところだ。

『ギリアム、ここに攻撃を!』

私が操る三角形の盾、それは今となっては結界の一部に三角の穴を開けるための楔

結界に風穴を開ける為の刃だ。

せめて少しばかりの説明を入れるべきだったか、ギリアムはいまいち状況を読み込めてない様子だが、ヘルトは察してくれたようで、ギリアムの手を取り、その腰に添えられたショートソードの柄へと促し、彼の背を押す。

『ギリアム、正直、あまり長い時間は使えないんだ。出来れば急いでくれると助かる、かな。』

私が取り出したのは3本の刃。

全てを使う事に比べれば、その強度は落ちるだが、今は少しでも長い時間維持する事の方が重要。

ならば僅かでも使い慣れている数で操る方がいい。

私の言葉と、ヘルトに背中を押され、ギリアムはハッと状況をその身に沁み込ませるかのように足を踏み出した。


その手に剣を構え、強く踏み込む足から強い衝撃の産声を感じる。

「おぉぉおおおお!」

切っ先は彼の体から生まれた力を集約し、その猛りと共に三角の穴のその先へと放たれる。

ズンっ!と響く音、揺れる大地。

『まだ!まだだよ!』

彼が放つ衝撃に耐えるように、私もまた両手を正面に翳して、刃の維持に意識と神経を集中させる。

その一撃は、私が思っていたよりも強い。

衝撃で上がる砂煙が晴れ、予想以上の結果…いや経過を私の目に映す。

申し分ない威力だとしても、まだ足りない。

必要な場所を生み出すためにはまだ圧倒的に足りない。

『続けて、ギリアム!狙いは真ん中!私に合わせて!』

「はいっ!」

何度も、何度も繰り返しギリアムの一撃が三角の先、岩壁へと繰り出される。

手持無沙汰のヘルトは、両拳を握りしめ、ギリアムの動きに合わせるように力んでいる。

それはそれで可愛いし、応援としても十二分。


『も、もう一撃っ!…』

「そ、そろそろ限界…ですっ!」

ズンっ!

何度打ち込んだだろうか、ギリアムの腕も、全身も、そして私も同様に、体中が疲労感で満たされている。

そして、ピシリという音と共に、彼が握る柄の先、切っ先にヒビが入る。

「こっちも限界…ですね…」

がくりと膝を付き、震える手で剣を持ち上げるが、その刀身は金属としての輝きを失うようにバラバラに砕けて散った。

「すまん…良く頑張ってくれたよ。」

手に残った柄を見つめて小さく呟く。

戦うにしては心もとない刀身、それは恐らく彼にとって最後の護身用や、戦い以外の利用として共に過ごしてきた相棒とも言える代物だったのだ。




「未だに理由が良く分かってないのですが…」

息を整え、改めて一連の労働の結果を確認する。

掘削した壁は何とか人が入れるだけの隙間を確保する事ができた。

『ははは…ごめんね、碌に説明もせずに…大事な剣も折れちゃった…』

「いえ、それは…まぁ、こいつも本望でしょう。」

刀身を失った柄を、それでもしっかりと胸元に収め、ギリアムは改めて削り取った壁を見やる。

『2人ともよく聞いてね。』

この後、私が行う事、そしてこの削り取った小さな空間の意味。

私が予想しうる事象を。


「元よりこの身はフィル様に捧げるつもりです。問題ありません!」

「貴女様のおかげで毎日が充実しているのです。きっと大丈夫。」

説明した頼み事は、2人にとっても相当な危険になりうる。

下手すればカイルと同様に石化してしまう事も。

しかし、2人の返事に含まれる不安は…


「狭いのとか暗いのってあまり得意じゃないんですよ…自分。」

「状況とフィル様の頼み事とあれば仕方ありませんが…ギリアム様?変なところを触らないでくださいね?くれぐれも!です。」


と、斜め上の不満すぎて笑ってしまった。


『さぁ、ぶっつけ本番って感じになっちゃうけど、やろうか!』

2人の手を取り、立ち上がる。


大丈夫。絶対に成功させるから。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


触れた先に広がる経過と結果。

苦労というのは報われる事があるからこそ頑張れるのだ。


次回もお楽しみに!

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