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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第七章 鳴動戦火
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220話 結界のカタチ

220話目投稿します。


考える事をやめた時、足は止まる。

ポツリと地に落ちる一滴。

湖底の不思議な空間で天井に位置する湖の水、しかし地に落ちた一滴の出処はそこではなく、私の不安から生まれたモノだ。


ギリアムが発見した水盆は、今まで私が目にした事がある遺跡に比べて随分と質素であると言えるが、モノとしては間違いなく同じ類のモノだ。


私の不安を煽る原因は今までに訪れた場所、全てではないが結界もしくはそれに類する何かがあったのだが、ここにはそれが無い。

カイルの前例を挙げれば、結界内に私以外の者が居た場合、カイル同様に石化してしまう可能性に対する恐怖。

彼は未だにその”呪い”から解けていない。

ヘルトとギリアムをそんな目に合わせるわけにはいかない。


結界…。

天井を見上げる。

この空間を生み出しているガラス張りのような天井、恐らくはそれこそがこの湖底の遺跡に対する結界。

私たちの命を護るためとはいえ、5本の刃を介して私が作り出した結界がこの地における壁を抜ける術となってしまった。

あの時のカイルが私の石剣を所持する事で壁を通り抜けたように、今度は私自身がヘルトとギリアムの喉元を締め上げるように手を添えてしまったというわけだ。

『…何てこと…』

狼狽える私を心配そうに見つめる2人の目が今は少し痛い。

浅はかな思慮で危険な目に合わせてしまっている。

「フィル様?!」

「だ、大丈夫ですか?顔色が悪いですよ。」

現状と自分の不甲斐なさからよろめいてしまった私を、それでも2人は支えてくれる。

『大丈夫、大丈夫だから。』


何とか、何とか無事にここから抜け出す方法は無いか?

目を見開き、頭を回転させる。

今まで私が体験した、見てきたモノを全て思い出せ。




思い返せば私が”遺跡”というモノに初めて触れたのはノザンリィだ。

しかし、故郷で発掘された遺跡には結界という壁は無かった。

もしそれが在ったとして、何故解除されたのか?その時の影響は何だったのか?

『うーん…あの時は…』

遺跡の存在に触れた、と言っていいものか…少なくとも何らかの影響を受けたのはメアリに頼まれて農地を調べた時だ。

地面に埋もれていた遺跡に共鳴して意識を失った。

『…もしかしたらアレが結界の解除だったのか?』

取って付けたような予想ではあるが、あの地で結界による”呪い”のようなモノを受けた者は居ない…居なかったはずだ。


「あの、フィル様。何かお手伝いできることはありますか?」

ブツブツと呟きながら考え込む私の様子を見たヘルトとギリアム。

少々手持無沙汰なようで、おずおずと私に問う。

『あ、うん…そうだな…』

ならば、と出来るだけこの空間を把握しておきたい。

『このまま待たせるのも暇だろうから、もうちょっと念入りに調べてきて貰えるかな?』

少しでも何か気に留まるなら、どんな些細な事でも構わない。

小石でも、地面の形状でも、何でも構わない、と伝える。

流石にこの先彼らが直面する危機を報せるにはまだ私の覚悟は固まっていない。

少しでも何かこの状況を好転させる何かに辿り着ければいいのだけれど…。


二つ目はエルフの集落。

元々は火山活動の余波が迫るオスタングへの救援として東の地に初めて赴き、叔父の薦めでオスタングに向かう前、わざわざ遠回りをして辿り着いた森の集落の更に最奥。

目に見えるような明確な建造物を模しての結界は無かったものの、あの時はルアの膨大な魔力と知識があったからこそ、私が遺跡に触れる前であっても結界の解除が行われた。

しかし、恐らくだが、例えルアの膨大な魔力を以てしても、あの森の外に出てしまえば同じ事は不可能だったのではないかとも思う。

大樹に程近いあの場所だからこその芸当。


周囲を見回すと、ギリギリ視界に映る位置で2人が目を皿にして調べている姿が見えた。

ありがたい事だ。

2人のためにも何でもいい、糸口を思いつかなければ。


三つ目は予想外に訪れた。

本来であればベリズの暴走を阻止するために訪れたオスト山脈の火口。

あろう事かソレは普通に考えれば人の身では到底辿り着くことさえ困難極まる場所。

ベリズの助けがあったからこそ遺跡に触れる事ができたし、オスタングを始めとする東の地が火山の噴火に焼き尽くされるのを防ぐ事が出来た。

結界について指して気にも留めて居なかったが、今となっては結界があったからこそ溶岩の中でその姿を留めていた、とも考えられる。

現に私が触れた後、つまりは結界が消失した今となっては以前にも増してあそこに足を踏み入れるのは難しいだろう。


私の目の前で鎮座する水盆はただ静かに触れるべき者を待ち構えているようにも見えてくる。


四つ目の遺跡は、西方で生きる船乗りにとっての墓場、アヴェストの喉と言われる大渦の底、何とか船で辿り着けた海底洞窟の奥。

今でもあの時の絶望感は忘れることなど出来ない。

そこに辿り着く前、体に酷い怪我と消耗を宿し、更にはその遺跡での出来事で、心までボロ布のように切り裂かれた。

大切な人との距離もまた同様に。


『もう二度とあんなのはゴメンだ。』

今までの遺跡での出来事を頭の中で繰り返し思い出す。

何か…何かが引っかかった気がした。

もっと、もっと考えろ。

その何か、私の中の記憶にひっかかる何かが…この状況を好転させるモノと信じろ。


石、結界…石化…。

結界が無くなれば、溶岩は遺跡を飲み込んだ…。

この水もきっと同じように水盆を飲み込む…。


水を溜める器。

その本来の姿は…。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


望みがあるなら足を止める事は許されない。

失いたくないモノがあるなら、足を止める事は許さない。


次回もお楽しみに!

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