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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第七章 鳴動戦火
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219話 湖底の不安

219話目投稿します。


辿り着いた…いや何かに引き寄せられるかのように訪れる事となった湖底で待ち受けるのは…

「う…あ…あれ?」

目を醒ましたギリアムは、体を起こすや否や周囲を見回し、その異質さに驚いた表情を見せるものの、私とヘルトの姿を視界に捉えると、少しホッとした安堵の顔を見せた。

『お?、起きたみたいだね。』

「ギリアム様、お身体の調子はどうですか?苦しいとか痛いところはございませんか?」

ヘルトの問いかけに、ピョンと立ち上がり、大袈裟に体を動かす。

溺れて意識を失っていた割りには元気そうで何より。

「っ…体は、まぁ何ともですが、頭が少し痛い気がしますね。」

それについては申し訳ないというか仕方ないというかではあるのだが。


ギリアムが目を醒ます少し前、私たち3人は私の操る結界に包まれ、謎の湖の底へと自然落下するようにゆっくりと下りてきたというわけだが、今この空間に辿り着いた際、水の境目を抜けた途端に結界はその効果を失われ、少し見上げた天井に位置する水の幕から言葉通りに落下する事となった。

幸か不幸か、意識があった私とヘルトは、足から着地できたのだが、ギリアムは落下の際に受け身も取れず”いい塩梅”に着地したというわけで、彼の頭痛の原因がソレだ。

彼が起きる前、見よう見まね、素人以下の治癒魔法は使ってみたものの効果があったかどうかは何とも言えない。

『まぁ何にせよ、ひとまずは無事という事で良かったよ。ヘルトに感謝するんだよ~ギリアムくん?』

「え?あ、はい。ありがとうございます。ヘルトさん。」

己の状況も良く分からないままでも、とりあえず、といった様子でヘルトに感謝の意を表すギリアム。

それとは対称にヘルトは短く「いえ…」と応えるものの、その頬は少し紅い。

少し意地悪が過ぎたか?




「では自分は少し調査を行ってきます!」

汚名返上だ!などと叫んではいるが、ギリアムよ…

「ギリアムさん、汚名は挽回するものですよ。」

私よりも先にヘルトが彼の言葉尻を摘まみ上げた。

「ぬ…汚名、挽回です!!」

彼もそれなりに恥ずかしかったようだ。

そそくさと湖底の奥へと走っていった。

『うーん…あまり無理しないでほしいところではあるんだけどなぁ…』

「私がしっかり見ておりますので、フィル様は少しお休みください。」

流石、と言わざるを得ない。

正直なところ、先程まで結界を使役していた、しかもまだ扱いきれぬ数の刃を介してというのは想像以上にこの体に負担を生んでしまった。

平然を取り繕ったところで、ギリアムは誤魔化せてもヘルトの目を欺くのは難しいようだ。

『うん、ありがとう。ヘルト。』

少しだけ目を閉じる。




湖面にはまったくと言って良いほど立たなかった波紋。

目を閉じて自然と澄んでいく意識の中で、その代わりとでも言うかのようにいくつもの波紋が浮んでは消えていく。

そうしているうちに、無数の波の行き着く先、何らかの建造物の姿が浮かび上がる。

浮き彫りになるその姿は私の背筋を冷たく凍り付かせるモノだった。


『こんな時に…いや、ここだからこそ、という事か…』




程なくして戻って来たギリアムの報告は、私の心をより一層ザワつかせる内容だった。

「この空間はそれほど大きくはありません。少々視界は悪いものの、広さで言えば湖と同じ規模でしょう。」

周囲を見回すような素振りを見せた後、付け加えた言葉。

「そして一番の発見は、恐らくこの湖の中心部分と思うのですが、石造りの水盆のようなモノを見つけました。正直ここが湖の底だというのも驚きはしましたが、何故か水盆は空っぽです。水の底だというのに不思議なものです。」

『やっぱり…』

水盆という形は今まで私が訪れたソレらとは違う気もするが石造りという点がどうしても私の心に突き刺さる。

「やはり…といいますと?」

脇から私を支えてくれているヘルトが疑問を返す。

『はは…幸か不幸か、何とも言えないんだけどさ。』

私はこの手の建造物や空間に縁があるのだ、と2人に告げる。

それがまた2人にとっては心強いといった支えになってしまうから困るのだが…。

『その水盆の周辺に、門…というか他の建物とかは無かった?』

「いえ、これまた不思議な事に、何もないところに石造りの土台、その上に水盆といった感じでして、正直自分も面喰らってしまったのです。」

彼の驚きは私のモノとは違う。

少し考えすぎだろうか?あの遺跡と同質のモノであれば、必ず結界のようなものがあるはずだと思っていたのだが…。

「ご案内しますか?」

というギリアムに、頷いて応える。

『うん、ひとまずどんなものか見てみないとね。』




「あぁ、見えてきました。アレですね。」

悲しいかな、私の不安は恐らく的中している。

が、予想に反してだが、ギリアムが言うように土台に鎮座した水盆以外は何もない。

もしソレだとすれば、気軽に触れることは憚られる。

「確かに不思議な水盆ですね…」

実際に見るまではヘルトもどこかギリアムの見たモノを信じられなかった様子だ。

『ギリアム、戻ってくる前にアレに触った?』

「ええ。一通り触って確認はしましたが、何の変哲もない石のようでしたが…」

もしかしたら…と腰からぶら下げている刃を一つ取り出す。

『解れば…だけど、このナイフと比べてどうかな?』

不思議そうな顔をするものの、受け取ったナイフを念入りに確認するギリアム。

鉱石などに詳しくなくとも、これは彼にとっては武器としてその目に映る。

とすればもしかすれば材質もある程度は解るかもしれない。

出来れば勘違いであってほしいところではあるのだが…。


「あ、確かにこれは水盆と似た感じがしますね。」


ギリアムの言葉を以てして、私の不安は確信を得るとなってしまったようだ。

手渡されたナイフの感触を確かめた後、こちらへと戻すが、まさにその表情は「それがなにか?」といった様子だ。

当然ながら、私の不安は彼にも、ヘルトにも理解が及ぶところではない。


『さて…どうしたものかな。』

彼やヘルトはともかく、この水盆、私は気安く触れるわけにはいかない。


もう二度とあんな事を繰り返すわけにはいかないのだ。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


よく考える。

それでも決断を迫られる事は数知れず。


次回もお楽しみに!

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