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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第七章 鳴動戦火
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218話 湖に沈む恥じらい

218話目投稿します。


勇んで飛び込む新兵。

明らかに足りない経験は、危険に触れるのも容易い。

水の中に潜ったのはいつ以来だろうか?

西への船旅で海の中にその身を投じた事はあったが、あの時はシロの結界に包まれていたから実際に海水をこの身に浴びたわけではない。

強いてあげれば、あの海の中で暗闇の教会での出来事の後、海上に打ち出されて落ちた時なのだが、あの時は水に潜ったり沈んだりといった事よりも体の状態がそれどころではなかった。

翌々考えれば、あの時の怪我で無事に生きて戻れたのも、私が気付いてなかっただけで今の体だったからこそなのだろうか?

などと考えては居たものの、ギリアムを追って湖に飛び込んだのだが、私の視界に彼の姿は見当たらない。

そしてこれまた不思議な事に、澄んでいるはずなのに、あまり遠くまで見えない。

更に困った事に、湖である故の真水のせいなのか、はたまたこの不思議な湖だからなのか、湖面に向かって手足を動かしても浮かび上がる事ができない。

ギリアムが戻ってこれなかった理由がコレなのは間違いない。


となれば、溺れる前に何とかしなければ…。

先に思い出していたように、あの時のシロのように結界のようなものを張れば何とか…。

潜る前にある程度身に付けていた物を外したが、これを残しておいて良かった。

腰に添えられた5本の刃。

王都の地下でフウキの攻撃を凌いだ盾のような形。

それを元にして、意識を集中、今の私、私とヘルトに必要なのは、火山で私を護ったベリズのような、シロとカイルの3人で海に潜った時のような結界だ。


叔母があのガラス張りの温室で教えてくれた事。

魔法はその心の強さ、想いの強さで扱うのだ、と。

だったらこの5本の刃を介してもできるはずだ。

私の傍で、すでに苦し気な表情をしているヘルト。

彼女をこのまま溺れさせるわけにはいかないし、無論私だってこんなところで溺死なんて後の歴史に記されたりしたら恥ずかしいどころの話ではない。


『ふっ…っく…』

流石に5本を同時に操るのは、まだ荷が重い。

それでも今は無理をしてでもやらなければ。




「はぁ、はぁ…フィ、フィル様…これは…」

彼女も限界が近かったようで、息を整えながらも今の状況を私に問う。

『…あまり、気を散らせられないんだけど…』

両手を広げたまま、ヘルトに説明をするが、やはり5本の同時操作はかなり制御が難しい。


「成程…フィル様がいつも身に付けておられる刃を介して結界を張った、と。」

早いところギリアムも探してあげなければ、見たまんまで体力に自信はあったとしても、彼の呼吸が無限なわけではない。

結界の維持にも少しだけ慣れてきたところで、結界毎ゆっくりと動かし、湖の底へと進む。

『ヘルト、もっと下に行くよ。大変かもだけど、周囲をしっかり見張っててほしい。』

平時であれば、人の気配を探るのはそれほど苦ではないが、今はそこに意識を持っていかれるわけには行かない。

「お任せください!」

一人でなくて良かった。

ヘルトに警戒、見張りを任せられるのであれば、私は結界の維持と移動に集中できるというものだ。


改めて眺める湖の中、また新しく分かった事だが、この湖には生物の姿がまったくと言って良いほどに見当たらない。

魚は勿論のこと、思い出してみれば、湖面で虫や蛙といった小さなモノ、水を飲んだり羽根を洗うために訪れる鳥もそうだし、湖面を走り去った脱兎2人と違う本物の兎のような小動物すら喉を潤すような姿は見なかった。


命を受け付けないのは湖なのか、はたまた命がこの湖そのものを警戒しているのか?

確かに私だって一度身を投じれば溺れるのが確実な湖ならあまり近付きたいとは思わないのは間違いないが…

「フィル様!、居ました!ギリアム様です!」

声を上げるヘルト。彼女が指さす方向に視界を向けると、間違いなくギリアムの姿。

力無く項垂れ、流れのままに底へ、底へと沈んでいく様子。

明らかに意識は無いだろう。

慣れてきた結界の操作に少し強い意志を込める。

ギリアムの意識がないおかげか、追いつくのはそれほど労せずに近付く事ができた。


結界の中にギリアムを引き入れるのに少し神経を使ったモノだが、ヘルトの見立てでは命に別状はないという事だ。

依然、集中力を切らせる事はできないものの、心配事が一つ減ってくれた事で気分としては随分楽になった。

『ギリアムの事は早く落ち着かせたいところだけど、今は上まで戻れそうにない。このまま下に向かうよ。』

「解りました。今はフィル様にお任せする他はありませんので、御髄に。」

そう応えながら、ヘルトは意識のないギリアムを膝枕に抱えているわけだが、彼が目を醒ましたらどんな顔をするのか楽しみが増えた。

「あの、フィル様…出来れば驚かないで頂きたいのですが…少々お目を煩わせます。」

『?…』

何のことか、と思った直後、ヘルトはギリアムの唇に口を寄せた。

『!?』

一瞬、一瞬だけだが結界が揺れる。

ヘルトの様子を見守っているわけだが、成程…命に別状はないとはいえ、危険ではないという事ではない。

意識を回復させるための人工呼吸、その為の口付け、そして私への配慮の言葉だったのだ。


『彼が目を醒ました時どうしようか?、内緒にしといたほうがいい?』

人命を救う行為だという事は言わなくても分かるし、ヘルトもそこに他意は無いだろう。

が、湖に入る前、少なくとも2人は各々の想いの気恥ずかしさから脱兎のように走り去った。

となれば、他意がなくとも口を滑らせてヘルトを困らせてしまうのも悪いというモノ。

「…出来れば、内密に…」

『解った。』


少々彼女の顔が紅いのも、見なかった事にした方が良さそうだ。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


湖の底にひとまずの休息を。

秘密を抱く湖底に待つものは?


次回もお楽しみに!

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