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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第七章 鳴動戦火
222/412

216話 違和感を生む水面

216話目投稿します。


気晴らしの目的地。そこで見つけた不思議は思っていた以上に興味を引くモノだった。

「フィル様…この時間が限られてる中で…宜しいのですか?」

今日は室内での仕事の予定は入れてない。

というのも、あの夜。監視塔に登って夜景を眺めた日、その景色の中、ひっそりと佇んでいた湖が気にかかっていた。

気分転換も兼ねるという意味も含め、最初は一人でこっそりと抜け出ようかと思っていたのだが、残念ながら隠しきれず、危険と私の希望を天秤に周囲が妥協した落しどころはヘルトともう一人、護衛としての兵士を加えた3人での外出となったわけで。

『いいのいいの。ヘルトだって気分転換は大事って思うところはあるでしょ?』

そう答えながら、彼女の持ち物を指さす。

彼女が手に持つ籐籠に入っているお弁当。

今日の朝早くから嬉しそうに作っていたのはしっかりとこの目で確認済みだ。

「う…そ、それはそうですが…」

「ヘルトさんはともかく、自分などがご一緒して…その良かったのですか?」

護衛としての兵士と称される位置に立つのは、あの夜、監視塔で出会ったギリアム。

彼と一緒に眺めて気になった湖という事。

あとは塔が建造されてからのしばらくの間ではあるが、湖の位置や、周辺の自然環境など、その頭にしっかりと記憶されている点が抜擢された理由として大きい。

ギリアムはそれはそれで、心配と謙遜の言葉を口にするものの、その顔はしっかりと楽しそうな、それも満面の笑顔で、どの口が喋っているのやら疑問に思ってしまう。

『いいのよ~。そもそも一人で行くはずだったのに、皆がどうしてもっていうから…むしろ2人に付き合わせちゃって悪いなって思ってるくらい。ごめんね?』

謝る私に対して、ヘルトとギリアムは互いの顔を見合わせ、何故か笑う。

『さ、ヘルトが言うようにあんまりのんびりもしてられないし、行こっか。』

「「はい!」」

と二人の返事が重なり、湖へと続く道の先へと溶けていった。


『そういえばヘルトはギリアムとは初めて?』

道すがら、今更ながらにも思える自己紹介だったが。

「オスタングにて、此度の再編成を機に志願されたギリアム様、ですね。新兵ながらもその槍捌きはグリオス様も目を見張る程と伺っております。」

「お…あ…こ、これは驚きました。」

随分と驚いている様子。

私自身も、ギリアムが槍使いとして優秀といった辺りは今初めて耳にした。

こちらが把握していない事でも、ヘルトの知る事は多い。

それだけ彼女が私の代わりに様々な仕事をしてくれているという事だ。

「私が存じ上げている情報には、ギリアム様が志願した理由も記されておりましたが…私の口から申し上げる事ではありませんね。」

大袈裟に仰け反るギリアムの様子を見れば、恐らくは本人にとってはあまり知られたくない事なのだろうとは思うが、そうなるとヘルトの情報の出所というのも中々恐ろしくも感じる。

『あら、秘密?』

「あ、い、いえ…秘密というわけでもないのですが…いやはやどうにも至極個人的な理由でして…お恥ずかしい限りなので今はご容赦いただけるとー…」

『ふーん、そっか。』




件の湖に到着したのはまだ弁当を頂くには少し早い時間。

『ちょっと早く着いちゃったね。ギリアムのおかげかな?』

ちょっとした誉め言葉だったのだが、当の本人は随分と嬉しそう。表情が緩んでいるのが良く分かる。

「ギリアム様、念のため警戒は緩めぬようお願いします。」

ぴしゃりと窘めるヘルトの言葉だが、何となくその言葉の棘は襲撃者を警戒して、という感じでもない。

どちらかというとギリアム本人を警戒しているかのような…謎だ。

「う…スイマセン…」

本人もその棘の原因というか理由が解っているようで、緩んだ表情を引き締め、素直に謝る。

そうなると流石のヘルトも明確すぎた棘をひっこめる。

「あ、いえ…私こそ申し訳ありません…」


パシン、と手を合わせ、気を取り直す。

『少し早いけど、お昼にしよっか。探索はその後だね。』

「はい、ではご用意しますね。」

「あ、自分はひとまず近場だけでも見てきますね。」


見たところ視界に映る範囲では綺麗な湖が殆どを統べていて、然して不思議な印象はない。

ならあの夜に私の気に留まった理由はなんだったのだろうか?

昼食の用意をヘルトに任せ、私はギリアムが向かった方と反対側、湖に沿うように足を進めた。

「フィル様、あまり遠くへいかぬよう。」

『うん、すぐ戻るよ。』

何のことはない湖、だと思うものの、改めて眺めてみると、どうにも違和感を感じる。

しかし、それが何なのか…うーむ。

違和感を覚えつつもソレが解らないままで悩み歩くのもヘルトの心配を誘ってしまう。

大人しく戻る事にする。


ヘルトが昼食を用意しているところに戻ると、向かいからほぼ同時に戻って来たギリアムの姿も視界に映る。

「フィル様、周囲には怪しいモノはありませんでしたよ。ただ…」

と、ギリアムも湖の違和感を感じ取っているのか。

「この湖は近くで見ると不思議ですね。ほら見てください。」

と指を刺す。

示したその先、湖は相変わらず波紋の一つも立てず、静かな水面…だが…

「この湖、風が吹いても波が立たないし、それに水面は静かなのに鏡みたいに景色が映らないんですよ!」

と少々興奮気味に言うが…ん?

最初は話半分で聞いていたものの、改めて彼の言葉を噛み砕いてじっくりと水面を見つめる。


確かにギリアムが言うようにこの湖は只管に静かだ。

単純過ぎて気付けなかった違和感の正体は、静かすぎる水面と、周囲の景色をまったく映さないところ。


『本当だ…単純すぎて気付かなかったよ。ありがとうギリアム。』

再び褒められたギリアムは嬉しそうだ。

厳密に言えば、私の中で彼を少々馬鹿にしていたという意味合いにもなるのだが、それは敢えて口にしない方がいいだろう。

『さぁ、ヘルトが呼んでる。行こう。』

「ええ。」

返事をしたギリアムと共に、手招きしているヘルトの元へと足を進める。

広げられた敷布と、そこに並ぶ美味しそうなお弁当が待ち構えていた。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


水面の底に何かが在るのか?

それを探る3人の短く小さい冒険の始まり


次回もお楽しみに!

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