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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第七章 鳴動戦火
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215話 塔の新兵

215話目投稿します。


そびえる塔に上るのは一苦労。だがそれに見合うだけのモノは得られる。

都市建設開始前、この地に鎮座していた南の関所はある意味ではこの都市建設に於ける起点ではあったが、今は本来の目的である土地への往来を阻む壁へと姿を変え、今も尚その範囲を拡げている。

一定の間隔で高くそびえる監視塔には南方からの侵入者を警戒するため、昼夜を問わず警備兵が常駐する場所だ。


今時点ではこの都市の中で一番高い建造物である中央の塔は、都市を一望出来る眺めのいい場所としてもその価値は高い。

『ふぅ…案外疲れるな…』

生憎と、この地には王都の昇降機のような気の利いた装置はない。

便利さに感けて意識の外に追いやっていた普通にあるべき疲れをこの地で思い出す羽目になるとは誰が考えたか?

いや、むしろ王都に住んでいなければそんな考えすらないわけなのだが…。

『便利ってのも考えモノだね。』

この塔は一番上に登るまで、それほど外が見れる造りにはなっていない。

外からの攻撃があった際に飛び道具が入る隙間を極力減らすため、そして内部の空気が籠らないようにと換気を兼ねた縦に細長い穴がある程度だ。

当然、空気だけでなく外からの光も同様で内側のランプを灯さなければ足元を見るのも困難なほどに薄暗い。

幸か不幸か、今の時間は僅かに差し込む光もない夜だ。

当然内側のランプは点灯しているため足を滑らせる心配もない。

むしろ日中にこの階段を登る方が視界が悪いのではなかろうか?と考えてしまう程だ。


何故この夜中に独り言を呟きながら、高い塔に登っているのか?

東方からの増員を機に再開となった建設。

日中はそれに関する書類の山に埋もれ、気付けば日は暮れてしまっていた。

この”元関所”と基礎とした南側の防壁。

その外側で行われている水堀の作業状況を確認する事。

本来であれば明るい時間に直接現場を見る方がいいのだが、思ったより書類の整理に時間を食われ、予定を消化しきれなかったのだ。

已む無く日が落ちたこの時間に確認する事となったわけだが、夜中に防壁の外に足を運ぼうとしたところ、色んな人から怒られてしまい、渋々とこの塔から見下ろし確認をするという流れとなった。

『そんなに夜目が効くわけでもないんだけどなぁ…ふぅ…ふぅ…』

ぶつぶつと誰に対するでもない愚痴を溢しながら交互に足を動かす。

正直、そろそろ辛い。

そう思い始めた頃、頭上から風の音と、その振動を感じた。

見上げる階段の先、監視塔とされる塔の天井が視界に入った。

『や、やっとついた…』

「誰だ!!?」

私の声を聞き取った今夜の警備兵がそう広くないこの物見台で手に持った刺股を構えている。

あぁ、確かにこの場ではその得物は理に適っているな。

敵対勢力の者が登って来た時にソレで軽く押し返すだけで対象は簡単に下まで転がり落ちるだろう。

『今日の、警備さんだね?…はぁ…お仕事中に…ふぅ…ゴメンだけど、ちょっと…ぜぇ…見せてもらって…ふぅ…いいかな?』

構えたままでこちらの顔を覗き込むように確かめる警備兵。

「えっ?、まさか…フィル様?!」

酷い驚き様だ。

『うん。夜中にお邪魔して悪いね。』

慌てて刺股を下げ、頭を下げる警備兵。

「す、すいませんでした!!フィル様!!」

夜中なのに元気だなぁ、と思いつつも、あまり大きな声を出すのも色々と宜しくない。

ここで大騒ぎすれば、自然、町の中にもある程度の声は届いてしまう。

寝静まった町を誤報で叩き起こすわけにもいくまい。

口元に人差し指を縦に、しぃーと返す。

警備兵は再び慌てるように自分の口を両手で抑える。

兵士としてはどうにも落ち着きが足りない気もするし、目深に被っているように見える兜は、むしろ彼の体に合っていないのか、何より声色が若い。

新兵さんかな?、と言うのが私の見解。


『貴方、お名前は?』

「は!、自分…ですか?」

『他に誰がいるのよ。』

彼の返答、その様子についつい笑ってしまう。

「じ、自分はギリアムと言います!」

再び口元に人差し指を当てる。

そして彼もまた口を抑える。

同じことの繰り返しに、今度はギリアムも笑う。

『私は…って言わなくても解るか。でもまぁ一応、ね…私はフィル。フィル=スタット。』

「存じております。というかここでお会いできるとは思ってもいませんでした…」

改めて身振りを整えた警備兵は礼儀正しく敬礼して呟く。

『私も今ここに登る事になるとは思っても見なかったよ。少し外を見せてもらってもいいかな?』

「は、はい。ご用命とあれば承ります。」


少しだけ頼りなさげに感じた目の前の警備兵。

最初は落ち着かない様子を感じさせたものの、少しの時間を掛けて交わした言葉の中で随分と慣れてきたようだ。

そうなると彼の性格や普段の様子も何となくわかってきた。

新兵である事は予想通りで、経験は足りないものの、どこか強い力を感じるのは彼の目の奥に光る強い意志のようなものだろうか?

合っているような違っているような…まぁ、初めて出会って全てを理解できるほど人の心を察知できるような知識は私は持ち合わせていない。


彼の立つ横、塔の淵から少し身を乗り出す。

見下ろす眼下に広がる夜の大地。

確かにこの周辺地域一帯を眺められる監視塔は一度見ておいて良かったと思わずには居られない。

且つ、この夜の景色となれば猶更だ。

『いい景色だね。』

私が見る景色、その少し後ろから同じ景色を見ているはずのギリアム。

「自分の今の景色は、フィル様が見ている物より良い景色ですよ。」

『ん?』


「フィル様の目には、フィル様のお姿は見えませんので。」

彼の言う言葉はいまいち良く分からなかったが、それはさておき、眼下の防壁に寄り添うように掘られた溝、夜闇の中でその深さまでは把握しきれないが、見える範囲で言えば防壁が立つ範囲ではその作業は終わっているように見える。

明日の早いうちに作業に当たった者に確認して堀の深さを確かめる必要がある。

書類にあったところまで完了しているのであれば、水を流して堀としての機能は十分だろう。


『ねぇ、ギリアム。あっちに見えるのって湖かしら?』

ここから見るに…方角は南西になるだろうか?

距離があるため、夜目に乏しい私には薄っすらとしか見えないが、僅かに光を反射させているように見えるのは…湖面なのか、と。

「ええ、そうですね。確かあのあたりには湖があります。」

エルフの森程ではないが、そこそこの木々に囲まれた湖の姿。

わざわざエルフの森を襲わずとも、こっちの森の方が使えそうなのにな…と、南方軍が手を出さなかった理由に疑問を感じずにはいられない。


『何か気になるな…』

私がセルストの立場なら、あの湖の存在を無視したりはしないと思うのだが…。


今はまだ揺蕩う湖面に、夜空の月が映るには早い。

夜空の星の光だけでは弱く、静かな湖の底に眠るモノまで光は届かない。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


作業の合間で時間をつぶす、その自然には十分な理由がある。


次回もお楽しみに!

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