21話 史実の事実
21話目投稿します。
少女の現れは人類史を越え、あらゆる史実を探る糸口となる。
旅籠に着いた私とイヴは、ひとまず私に充てられた部屋に戻りしばしの休息を取る。
程なく部屋の扉がノックされ、促して開いた扉から顔を覗かせたのは領主のアインであった。
到着した際に、ロビーで待機していた従者に領主への取次をお願いしたのが伝わったようだ。
「こんばんわ、フィル。」
と、寝台に腰かけた私とその傍らで眠る少女を見てから、備え付けの椅子へ腰かける。
「火急の話という事で来たわけだが…確かにソレは火急だねぇ。」
『慣れない環境で疲れてるのだと思いますが…』
「ふむ…」と少女の様子を伺う領主
コリッコリッと扉から聞こえた音に、応えると「わしじゃ。」と妙に爺臭い返事が返ってくる。
開けた扉の向こうには、何かを察したであろうシロの姿があった。
「のんびり寝ておったのじゃが、あの小僧が寝床に飛び込んできおってな。」
『あぁ…』と原因を知っている私は『ごめん。』と軽く謝る。
「が、それとは別に、妙な気配を感じたので来てみたわけじゃが…」
部屋の中の少女の姿を捉える目は、刃物を感じさせる程に鋭い。
「シロ様、宜しければご一緒に。」
室内の領主に促され「うむ。」と少し警戒を解いたシロも会話に混ざる。
「さて、まず始めに主らに聞こう。」
シロはまず私と領主にこの少女の事、その正体や存在について知っているか?と問う。
『私が知っている範囲で言えば、名前はイヴ、そして…影を操っていた。』
「うむ。」と頷き、付け足す。
「その小娘、見た目通りに幼い部類になるのじゃろうが、影そのものじゃ。」
予想はしていたものの、やはり人ではない。
(…眠ってる姿はただの女の子なのに…)
『そもそも影って何?』
とシロに問いかけると、今度は領主が口を開く。
「人族、というより現在の人類上に残されている書物による限りではいわゆる厄災の一種とされている存在だよ。」
現存している書物によれば古来より数百年単位で起こる厄災とされ、引き金となる原因は定かではないらしい。
「フィル。キミも習っていると思うが、その昔人類間で起こったいくつかの戦争。その原因が影だという説もあるんだよ。」
定かではないという事で一般教養としては教材になり得ない為その存在を知るものは多くないそうだ。
「戦争だけではないぞ?」
とシロは付け加える。
「フィル。お前はこの世界にいくつの国があるか知っておるか?」
『7つ。』
うむ。と頷くがシロの知る限りでは9つの国が存在していたが、うち2つは影が原因で滅びたとさらりととんでもない歴史を口にする。
「まさかもう一つ国が在ったとは…」
一つという事は領主自身も影によって滅んだ国が在ったことは知っていた様子だ。
「然り。わしも実際に目にしてきたわけではないのでな。多少は伝聞にはなるが…」
『でも影って言っても…うーん、国を滅ぼす力?って言えばいいのかな?があるの?』
少なくとも私が相対した影にそこまでの力があるか?と言われればピンと来ない。
私の言葉に領主が「そこだ。」と指さす。
「シロ様が仰る通り、影は過去の厄災の原因とされながらも、原因ではないんだよ。」
領主の言葉に私の頭の中に「?」が浮かぶ。
「では逆にこう聞こう。フィル。人類史で言うところの戦争で争うのは何かな?」
『種族とかを考えないという意味で言えば、人同士って事になるのかな。』
私の答えにシロが頷く。
「然りだ。事戦争という事象に於いて、その原因は人同士という事じゃ。」
『なるほど…』
もう一度頭の中で反芻する。
『争い事の原因は影にはない。でも影は国が滅ぶほどの原因になる…か。』
「うむ。」とシロが頷き、領主も同様に首を縦に振る。
「主らの知らぬ9つ目の国は、遥か昔、今で言うところの西の土地…何と言ったかの?」
「ヴェスタリスでしょうか?」
頷き続ける。
「そのヴェスタリスの更に西、海に浮かぶ諸島に栄えていた国じゃよ。」
その言葉に、今度は領主が「なるほど」と呟く。
古い文献の中にあるアドナルティアの地図には確かに西の海上に諸島群があったかの記述も見受けられていたらしい。
「史上としては名すら忘れられたその国は、争いの果てにこの世界から消えたのじゃ。」
『消えた?』
頷き、「言葉通りにな。」と付け加える。
長きに渡る争いの最中、膨れ上がったその渦は巨大な影を生み出し、諸島群を丸々呑み込みこの世界から消えたという。
それを聞いた領主が再び「なるほど」と、
「現存している文献で9つ目の国に関する内容が乏しいのは国そのものが消失したから、という事ですね。」
「然りじゃな、その推測はおおよそ間違っておらんじゃろう。」
領主と顔を見合わせ頷き合う。
時間があればこの世界の史実の話でいつもまででも続けれそうな感じだなと、二人を見て思った。
「さて…改めてになってしまったが…」
視線はイヴに移る。
「わしとしては正直なところ近くに置いておくのは気が引けるのじゃが…」
確かに先ほどの話を聞いた後ではその危険度は分かる、けれど。
『…私は、このままこの子を放り出す事はできない…』
影の存在は確かに怖い。
話を聞いた後で、危険性も恐怖も解る。
『おねえちゃんって言われて、それが嬉しかったのもあるけど、それだけじゃないの。』
すやすやと眠るイヴの頭を撫で私は続ける。
『初めてこの子を見た時、すごく寂しそうに震えてた。』
でも、と。
『抱きしめられた時、イヴの手は、体は温かかったんだよ。』
もし、この気持ちすら影から呼び起こされた感情だとしても、私には今のイヴを放り出す事などできそうにない。
領主とシロ、二人の目を交互に見つめ、自分の気持ちを込めて訴えた。
幼い頃の私を多少なり知っている領主は若干諦めたように微笑み、
「フィルがそう言うなら、きっとそうした方がいいのだろう…何より…」
頑固なところは母親譲りだ、と付け加える。
「わしはあの小僧と共にある故、その娘を監視する意味合いとしても気は抜かぬぞ?」
理由はどうであれ、シロも私の訴えを受け入れてくれた事になる。
『ありがとう…』
後日改めてイヴから話を聞く事とし、二人(正確には一人と一匹だが)は部屋を後にした。
話し終え、一呼吸すると、この夜の出来事による疲れが一気に出て来たのか、イヴの隣で横になる。
『もう寝てるけど…おやすみ、イヴちゃん、また明日話そうね。』
願わくば、この少女の平穏が続きますように…と私は瞼を閉じた。
感想、要望、質問なんでも感謝します!
必要なのは覚悟。今はそれだけでいいのです。
次回もお楽しみに!




