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びんかんはだは小さい幸せで満足する  作者: 樹
第七章 鳴動戦火
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209話 町のカタチ

209話目投稿します。


建設計画は日々更新される。上の立場であれば町の景観もまた思い描かなくてはならない。

「王都から流れる水路…ですか。」

ガラティア持ち込みの追加の都市建設案。

彼女はあくまで伝令役であって、細かい作業の流れなどは聞かされておらず、

「少し規模が大きすぎるのでは?」

とマリーの反論は当然。

「けど、グリオス様やパルティア様が何かの策を執ってるのでしょう?」

「まぁとりあえず町の中に水路を入れるってとこだけ考えとけばいいんじゃねぇか?」

母はこの案に対しては大元の提案者がしっかりしているのであれば、といった様子。

父の言葉は、ひとまずの受け入れ態勢だけ整えておこうという意見。

これについては、ガラティアが聞かされていたこちらの指針にも重なる。

「あぁ、アタシが聞かされた話だと、あんたらはこのまま建設作業続けてもらっていいって。ただ、町中に河川を敷設するなら、場所は決めといてくれ、って。」

『うーん…そうはいってもなぁ…』

「あの、宜しいですか?」

それぞれに頭を悩ませる中で、おずおずと口を開いたのはヘルトだ。

『何かいい案でもある?』

促すように聞き返して戻された彼女の意見。

「案というわけではないのですが、此度の都市建設はフィル様が取り仕切る形です。であればいっその事、フィル様がこの町…都市が完成した際に、どういった都市にしたいか…を考えれば良いのでは?、と…」

ヘルトの意見によって、集まった全員の視線が私に向く。

一応、立場としてはヘルトのいう事に間違いはないのだが、その意見は逆に全て私に押し付けるって事じゃないか?と少々、いや、かなり困ってしまう。

『うーん…どんな町にするか、か。』


「まぁ、いずれにせよ現状やる事はやらんとな。」

拳をパシッと打ち合わせて父は部屋を後にする。

力仕事、という事ならと、ガラティアも後に続き、母もまた増員された作業者も含めた食事の準備へと戻る。

残ったヘルトとマリーは、水路に関しての下調べを行うと残し、簡易的な書庫として造られた隣室へと向かった。

『どんな町…』

そもそもは南方からの侵攻に対処するための前線基地のような扱いではあるが、それもずっと続くわけではない…と思いたいところだがどうなるかは不明だ。

けれども、戦火が治まった後、確かにこの先も王都の盾であるための役割は続く事になるだろうが、それだけの機能しか無い町であれば、個人的にも息が詰まってしまう気がする。

『暮らす人が楽しく過ごせる町。』

私が訪れた事があるいくつかの町。

そのいずれも、そこに暮らす人は満たされた生活を営んでいるように見えた。

王国にキョウカイという暗部を司る機関があるように、町の全てが楽しい事ばかりではないのは解る。

それでも、私が見聞きした町の雰囲気はどれも魅力的だった。

この都市も、訪れた人がそう感じてくれるような、そんな都市にできればいい。


土地柄から見ればどうだろう?

例えば、この先、王都から南方へ旅に出るための足がかりとするなら、英気を養うための一時を過ごせる町。

南方から王都に戻る者が居るとすれば、砂漠を有するとされる旅程の疲れを癒せるような、そんな町。

いずれにせよ、良質な宿の存在は欠かせない。

キュリオシティでのお気に入りのあの宿のような…。

『キュリオシティか…』

部屋に籠って、机に齧りついての考えはあまり良案とも思えず『よし!』と勢いよく立ち上がり、私も外へと足を伸ばす。


思えばこの数日、あまり外での作業に触れていない。

手っ取り早く作業現場を求めて辿り着いた先では、父とガラティアがまるで競うかのように猛烈な勢いで作業を行っていた。

『何やってんだか…』

苦笑交じりに2人の元へと向かった。




『父と母は、キュリオシティの建設もやってたんでしょ?』

小休止に父に聞くと、何故か照れ臭そうな様子。

「んー…まぁ、そうなるんだが、俺がやってたのは今と大差ないぞ?」

キュリオシティ建設の際、今の私と似たような立場だったのは叔父だったという。

『その時は、さっきみたいな話はなかったの?』

「あそこは端っから冒険者のための町って考えられてたからな、建設も、完成した後も、俺らよりよっぽど頑張ってたのは他の冒険者らだぞ。」

あの町についての父の話は様々で、先日利用した人気の酒場、あの粋な店主も、お気に入りの宿の主も、元は冒険者だったという事には私も驚いたが、父の言葉通り、あの町が営みも、交流、交易も、冒険者によって成り立っているのだという事がよく解る。

「まぁ今になって思えば、あの町は当時の熱というか、携わった連中の想いの形がしっかり実を結んでいると思うぞ。」

自分が良く知る冒険者という連中は何より祭り好きといった性格の者が多いのだそうな。

父や母を身近に見ていれば、その言葉も何となく解る。

いつ訪れてもお祭り騒ぎのような町。

冒険者が笑って過ごせる町。

あの町を形作った想いというのは、そんな感じなのではなかろうか?

少なくとも、私があの町に感じる印象はそれに近い。

「フィル。もしお前がこの町に留まってその営みに携わるなら、いずれその想いは町に紡がれていくさ。」

言いながら、私の頭をポンポンと撫でる。

『だと、いいな。』


引き続きの作業を頑張って、と父とガラティアに告げ、作業場を離れた私だったが、少々空腹を感じ、物のついでに母の元へと向かう事にした。

「あら、フィル、お腹でも空いたのかしら?」

フフっと笑う母。そのお見通しに恐れ入る。

手早く用意された軽食を口に含み、父と似たような問いを母にも投げかける。

ここでも驚くべき事を耳にする。

「ふふ…キュリオシティに酒場が多いのってなんでだと思う?」

『冒険者といえば酒場…というかお酒飲んでる印象があるな…。』

「今でこそ人から見れば立派に見えるけど、あの子、アインって昔はすっごい酒飲みだったのよ。」

『えっ?…嘘でしょ。』

私が知る限り、叔父は静かに酒を嗜む姿、その印象が強い。

「解るわぁ、その反応。まぁ…あの頃は若かったからね。」

若いっても10年かそこらだろうに…歳というのはこの先も余り考えたくはない。

無論、母にも歳の話はしたくないが。

「それこそ浴びるように飲んでたのよ。いつの頃からかつまんない酒飲みになっちゃって。」

『えぇ…私は…味わって飲めるお酒がいいなぁ…』

今のところ、年齢もあって、そういった機会は無いものの、いずれ訪れる席があれば、面倒臭そうな酔っ払いにだけはならないように気を付けよう、と心に決める。

母の気遣いによって満たされたお腹もそこそこに、執務室へと戻る。


その道すがら、聞く事ができた話の内容を振り返る。

キュリオシティのような楽しい町も魅力的だ。

故郷のような落ち着いた空気もまた同じ。


私がこの町をどうしたいのか、暮らす人、訪れる人に何を、どんな空気を与える事ができるのか、今ではない未来の話だが、かの町のようになればいいな、と思う。


感想、要望、質問なんでも感謝します!


想いで描く町の遠い未来。

その心で描かれたモノが沢山の人の喜びになれば、と、そう思う。


次回もお楽しみに!

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